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本編

第6話_人の皮被る獣-5(★)

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★年齢制限表現(微・暴力描写)有

蒼矢ソウヤは体術を駆使しながら、迫る大男の両腕を跳ね除けていく。

標的へ向けて前進する[木蔦ヘデラ]は、ひたすら打撃を受け続けるも一切ひるまず、妖しい笑みを浮かべながら絶えず腕を伸ばす。
その内動きに慣れてきたのか蒼矢の技をいなすようになっていき、伸ばされる手の動きも徐々に速さを増し、一時拮抗していた両者の足元に動きが現れ、体格で劣る蒼矢は少しずつ後退していく。

やがて高揚した[木蔦ヘデラ]の太い腕が大きく弧を描き、蒼矢の真上から降り下ろされる。

「っ…!!」

頭に強い衝撃を受け、眼鏡を叩き落とされた蒼矢は、ふらつきながら数歩下がり、背後の壁にもたれかかった。

「…おっと。見える所に痕は残したくなかったんだが、つい昂って当たってしまったな」

息を弾ませ、頭を垂れて沈黙する獲物へそう呟くように声を投げると、"捕獲"を確信した[木蔦ヘデラ]は今一度口角を上げる。
突如、蒼矢の足元が盛り上がり、木の根か蔦のようなものが幾つも地面を突き破って現れ、壁伝いに伸びていく。

「…っあぁっ」

蔦は見る間に蒼矢へ及び、四肢へ絡んで壁に磔る。
身体へも伝って廻り、身動きが出来ないよう巻きついていく。
強制的に身を起こされ、全身を這う蔦の感触と締めつけに、蒼矢は小さく呻く。

「大人しく"搾取"される気性ではないようだからな。…[異形手駒]を『現実世界ここ』で使うなんて、こっちに根差して以来だぞ?」

そう不服とも感心とも判別つかない言葉を投げ、[木蔦ヘデラ]は蒼矢の顎を取る。
そして拘束されてもなお鋭い敵意を持って睨み上げてくる蒼矢へ、余裕の顔貌で嗤い返しながら彼の胸元へ手を入れ、青く輝く銀色のペンダントを抜き取ると、地面へと放った。

[異界のもの]の邪念に反応して輝くペンダント――『起動装置』は、『ガイアセイバー』へ変身し『転異空間』を造り上げる原動力となる、セイバーの身体の一部ともいうべきものである。
放り投げられて地面に落ち、宿主から離れた『起動装置』は、その役目と輝きを失っていく。

セイバーへ変身する術を無くした蒼矢は、人外の力を秘める侵略者[木蔦ヘデラ]の前に、無防備にその身を晒す。

「余分な労力を使わせた代償を、その身体で払って貰うぞ」
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