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本編

ありし日の記憶②-1

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引っ越し当初案じられていた蒼矢ソウヤの新しい幼稚園での生活は、初登園日前に同い年のレツと出会ったことで、その不安が一掃されることとなった。

年中生だった烈は既に園内の人気者で、常に園児たちの輪の中心にいる少年だった。
運動神経の良い者がもてはやされる幼少・少年期のセオリー通り、足が速く器械体操も球技も何をやらせても他の追随を許さなかった烈は、字習いや絵画・工作などが壊滅的でも常に注目の的だった。

そんな憧れのヒーロー的存在を自ら体現していた烈は、蒼矢を常に自分の隣に置いていた。
元々の友人が数多いる中で蒼矢を自分の親友と豪語し、彼の傍に寄り添った。
単純に自分の最たるお気に入りが出来たという心境で、おそらく中途入園の蒼矢を気遣ってのことではないだろうと思われたが、それでも慣れない蒼矢にとって救いだったことには違いない。
交友関係の広い烈が助けとなり、蒼矢も苦慮することなく他の子どもたちの輪へも加わっていけることが出来たようだった。

その蒼矢の方はというと、彼の頭の回転の速さや聡明さは、園児たちよりもむしろ幼稚園の理事や教諭陣へと広がる話となり、ことあるごとに”入る園を間違えた”と評され、その一挙手一投足が密かな期待を持って、烈とはまた違った側面から常に注目され続けることとなった。

彼としては、家庭では得られない級友との交流や小動物とのふれあい、園のレクリエーションやイベントなどはとても良い刺激であり、特に不足に感じることは無く充実した毎日を過ごしていた。
髙城タカシロ家としても、たまに息子がスモックを汚して帰ってくる日などは少しヒヤリとするものの、口数や表情の変化が乏しい彼が以前の園にいた時より生き生きとしているように見え、引っ越してきて良かったと嬉しさを噛みしめながら見守っていた。



そしてそれから何度か年が替わり、烈と蒼矢は同じ幼稚園から揃って同じ小学校へ上がり、もうすぐ3年生になろうとしていた。

地元の公立小学校へ上がり、幼稚園から持ち上がりの友人も多く、蒼矢は引き続き安定した学校生活を送る。
なんてことのない、穏やかな毎日が続く。
そんな春前のことだった。

夕日が窓へ差し込み始める時分、髙城家では蒼矢がひとり、リビングで本を読んでいた。
放課後は、友人たちに誘われない限りはまっすぐ帰宅し、母との時間を過ごすようにしている。
が、今日のように母が外出している日は、烈と一緒に花房家へ寄っていくか、誘われれば友人たちと公園へ遊びに行くかして過ごしているのだが、それにもかかわらず珍しく誘いを断ってまで、家に帰ってきていた。

静かな空間の中でページをめくっていると、玄関の戸が開く音がする。
蒼矢は本を閉じ、立ちあがってリビングの扉が開くのを待つ。
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