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本編
第9話_外界へのいざない
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蒼矢が体調を崩してから週が明け、影斗はいつも通り構内のあまり人目につかないポイントで蒼矢の到着を待ち、いつも通り少し早い時間に登校してきた蒼矢を迎える。
「よう」
「おはようございます」
「調子どうだ?」
「はい、もう大丈夫です。…先週は先輩には本当にお世話になりました」
「いーっていーって。治ってよかったな」
綺麗な所作でお辞儀する蒼矢に気恥ずかしげに手を振ってみせ、周囲を確認した影斗はそのまま蒼矢の隣を歩き始める。
「具合悪くなったら我慢すんなよ、お前結構無理するタイプだろ」
「…気をつけます」
「あ、あとさ…気管支弱いってこの前烈言ってたけど」
「ああ、はい…体調崩すと咳き込みやすくて」
「そっか」
影斗は今後、蒼矢の前では絶対煙草を吸わないと心に決めた。
「じゃ、こっから本題なんだけど。今日放課後ヒマ?」
「? 今日…ですか?」
「そー。二人で遊びに行こうぜ。行先はもう決まってっから、あとはお前だけ!」
突然のお誘いにやや戸惑う蒼矢だったが、影斗は笑顔で畳みかけていく。
「門限とかはねぇよな? そんなに遅くはならねぇ予定だけど」
「あ、あの」
「都合悪かった?」
「…いえ、そんなことは…」
「じゃ、決まり! ガッコ終わったらI駅西口のスタバ集合な。あ、一旦家戻って着替えて来いよ? 制服のまま来んなよ!」
「…はい」
かなり強引に進めたものの約束を取り付けた影斗は、上機嫌で蒼矢と分かれる。
放課後までの時間が待ち遠しく、その日は一日心が躍った。
放課後、影斗は帰りがけにさっさと着替え、先に待ち合わせのカフェ内でスタンバイする。
蒼矢の実家から最寄りの駅を指定したため、ほどなくして一旦帰宅した蒼矢が店に入ってくる。
「…お待たせしました」
そう、どこか遠慮がちに自分の前に立つ蒼矢を、影斗は上から下まで眺めた。
「…お前…、着替えて来いっつったじゃん」
「!? 着替えました」
「いや、わかるよ? わかるけどさ、それじゃ制服と変わらんじゃん」
「そう言われましても、いつもこれですから」
ボタンを襟元まできっちり留めた無地の襟シャツに黒いパンツと靴という、期待を裏切らない格好で現れた蒼矢に溜め息をもらしつつ、影斗は持ってきた大きめのトートバッグを肩にかけて立ち上がる。
「ちょっと来い」
「え…えっ?」
そしていつぞやと同じように、意図を理解できてない蒼矢を引きずりながら、レストルームへ向かう。
困惑顔で突っ立つ蒼矢を傍に置き、影斗はトートバッグに入れてきた衣服を吟味し始める。彼が地味コーデで来るだろうと見越して、自分が過去に着ていた服をいくつか持ってきていたのだ。
インナーのタンクトップを見せるようシャツを全開にし、裾もパンツから出して上から薄手のカーディガンを羽織らせる。確認したら脚が綺麗だったので、短め丈のパンツに履き替えさせ、ロールアップする。ついでに髪型にも若干手を加え、額を見せるスタイルに仕上げる。
影斗は全身をバランスを遠目から確認し、最後に眼鏡を外して自分のVネックに掛けた。
「完璧! いいねぇ、似合ってるよ。サイズどうかなーと思ったけど、大体OKだな!」
満足気にうなずく影斗に、蒼矢は憮然とした表情で返す。
「先輩…俺で遊ばないで下さい」
「失敬な、こっちは真剣だ。お前という素材を最大限に活かせるコーデにしたつもりだぜ?」
「…なんだか落ち着かないんですが…あと、眼鏡返して下さい」
「ダメ。今日は一日それでいろ。無くてもある程度は見えんだろ?」
「…はい」
不服そうな表情を浮かべる蒼矢を連れ、影斗はカフェをあとにした。
二人は駅から電車に乗り、目的地のN駅へ向かう。
車内に入った途端、雑多に配置している人々の目が一気に二人に集まった。若干混雑していた車内の空気が一変し、影斗は視線に刺されるような感覚におそわれる。
自分を見る目も確かに感じたが、ほとんどの行き先は蒼矢だった。電車に乗るまでの駅構内やホームでもそうだったが、尋常じゃないほどの視線が蒼矢に注がれている。
…やり過ぎたか…?
影斗は内心、先ほどノリノリでコーディネートした自分を反省していた。
単純な容姿の美しさもあっただろうが、影斗がユニセックス風に仕立てあげたため、蒼矢のビジュアルは余計に性別が判りにくくなっていた。中にはそこを探るような好奇に満ちた目も混ざっていて、顔以外にも剥き出しになった脚や胸元に、焼けつくような目線が集まっている。
「……」
影斗はさりげなく彼をドアポケットへ誘導し、乗客らからの視線を遮るように横に立ってあげた。
そろっと蒼矢の様子を確認するが、当の本人は眼鏡を外したことによりやや視界が悪いのか、そんな周囲には全く気付いていない。
「…お前、目大丈夫だろうな? 見えてるか?」
「なんとか。少しぼやけますけど」
眼鏡を外したことで、思いがけない別のメリットもあったと影斗は内心ほっとしつつも、蒼矢は野暮くらいが丁度いいのかもしれないと考えを改めることにした。
「よう」
「おはようございます」
「調子どうだ?」
「はい、もう大丈夫です。…先週は先輩には本当にお世話になりました」
「いーっていーって。治ってよかったな」
綺麗な所作でお辞儀する蒼矢に気恥ずかしげに手を振ってみせ、周囲を確認した影斗はそのまま蒼矢の隣を歩き始める。
「具合悪くなったら我慢すんなよ、お前結構無理するタイプだろ」
「…気をつけます」
「あ、あとさ…気管支弱いってこの前烈言ってたけど」
「ああ、はい…体調崩すと咳き込みやすくて」
「そっか」
影斗は今後、蒼矢の前では絶対煙草を吸わないと心に決めた。
「じゃ、こっから本題なんだけど。今日放課後ヒマ?」
「? 今日…ですか?」
「そー。二人で遊びに行こうぜ。行先はもう決まってっから、あとはお前だけ!」
突然のお誘いにやや戸惑う蒼矢だったが、影斗は笑顔で畳みかけていく。
「門限とかはねぇよな? そんなに遅くはならねぇ予定だけど」
「あ、あの」
「都合悪かった?」
「…いえ、そんなことは…」
「じゃ、決まり! ガッコ終わったらI駅西口のスタバ集合な。あ、一旦家戻って着替えて来いよ? 制服のまま来んなよ!」
「…はい」
かなり強引に進めたものの約束を取り付けた影斗は、上機嫌で蒼矢と分かれる。
放課後までの時間が待ち遠しく、その日は一日心が躍った。
放課後、影斗は帰りがけにさっさと着替え、先に待ち合わせのカフェ内でスタンバイする。
蒼矢の実家から最寄りの駅を指定したため、ほどなくして一旦帰宅した蒼矢が店に入ってくる。
「…お待たせしました」
そう、どこか遠慮がちに自分の前に立つ蒼矢を、影斗は上から下まで眺めた。
「…お前…、着替えて来いっつったじゃん」
「!? 着替えました」
「いや、わかるよ? わかるけどさ、それじゃ制服と変わらんじゃん」
「そう言われましても、いつもこれですから」
ボタンを襟元まできっちり留めた無地の襟シャツに黒いパンツと靴という、期待を裏切らない格好で現れた蒼矢に溜め息をもらしつつ、影斗は持ってきた大きめのトートバッグを肩にかけて立ち上がる。
「ちょっと来い」
「え…えっ?」
そしていつぞやと同じように、意図を理解できてない蒼矢を引きずりながら、レストルームへ向かう。
困惑顔で突っ立つ蒼矢を傍に置き、影斗はトートバッグに入れてきた衣服を吟味し始める。彼が地味コーデで来るだろうと見越して、自分が過去に着ていた服をいくつか持ってきていたのだ。
インナーのタンクトップを見せるようシャツを全開にし、裾もパンツから出して上から薄手のカーディガンを羽織らせる。確認したら脚が綺麗だったので、短め丈のパンツに履き替えさせ、ロールアップする。ついでに髪型にも若干手を加え、額を見せるスタイルに仕上げる。
影斗は全身をバランスを遠目から確認し、最後に眼鏡を外して自分のVネックに掛けた。
「完璧! いいねぇ、似合ってるよ。サイズどうかなーと思ったけど、大体OKだな!」
満足気にうなずく影斗に、蒼矢は憮然とした表情で返す。
「先輩…俺で遊ばないで下さい」
「失敬な、こっちは真剣だ。お前という素材を最大限に活かせるコーデにしたつもりだぜ?」
「…なんだか落ち着かないんですが…あと、眼鏡返して下さい」
「ダメ。今日は一日それでいろ。無くてもある程度は見えんだろ?」
「…はい」
不服そうな表情を浮かべる蒼矢を連れ、影斗はカフェをあとにした。
二人は駅から電車に乗り、目的地のN駅へ向かう。
車内に入った途端、雑多に配置している人々の目が一気に二人に集まった。若干混雑していた車内の空気が一変し、影斗は視線に刺されるような感覚におそわれる。
自分を見る目も確かに感じたが、ほとんどの行き先は蒼矢だった。電車に乗るまでの駅構内やホームでもそうだったが、尋常じゃないほどの視線が蒼矢に注がれている。
…やり過ぎたか…?
影斗は内心、先ほどノリノリでコーディネートした自分を反省していた。
単純な容姿の美しさもあっただろうが、影斗がユニセックス風に仕立てあげたため、蒼矢のビジュアルは余計に性別が判りにくくなっていた。中にはそこを探るような好奇に満ちた目も混ざっていて、顔以外にも剥き出しになった脚や胸元に、焼けつくような目線が集まっている。
「……」
影斗はさりげなく彼をドアポケットへ誘導し、乗客らからの視線を遮るように横に立ってあげた。
そろっと蒼矢の様子を確認するが、当の本人は眼鏡を外したことによりやや視界が悪いのか、そんな周囲には全く気付いていない。
「…お前、目大丈夫だろうな? 見えてるか?」
「なんとか。少しぼやけますけど」
眼鏡を外したことで、思いがけない別のメリットもあったと影斗は内心ほっとしつつも、蒼矢は野暮くらいが丁度いいのかもしれないと考えを改めることにした。
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