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閑話

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 口調とは正反対といってもいいほど、幼い女児のような容姿を持つノノノカ。似合わないタバコを咥えた彼女は、人差し指を立てて口元に近づける。

「火」

 小さな声で呟くと、その指先にライター程度の小さな火が現れた。オレンジ色の美しい火は、宝石のようにも見える。
 魔法だ。異世界での生活によって多少、魔法を見慣れてきていた冨岡だが、突然かつ状況にあった便利な魔法は驚いてしまう。

「そっか、ライターやマッチなんて必要ないですよね」
「ん」
「それにしても魔法の火は、普通の火より綺麗ですね」
「ほうはほ?(そうかの?)」

 タバコを咥えた瞬間、ノノノカの口の中にナッツやメープルのような甘い香りが広がり、彼女の意識は会話ではなく喫煙に向かってしまった。冨岡との会話を最小限に留め、タバコに火をつける。
 ニコチニアの葉を喫する際、用いるのは木製のパイプだ。先端の穴に葉を詰め、火をつけて煙を吸う。日本から持ち込んでしまったタバコと吸い方に大差はない。
 同じように軽く吸いながら火をつけると、ジリジリと紙の燃焼音が聞こえる。ニコチニアとの違いはいくつかあるが、日本から持ち込んだタバコの方が煙量が多く、甘く苦い煙は一気にノノノカの口内を満たした。

「おお!」

 感嘆の声と共に、濃い煙が彼女の口から溢れ出す。

「どうですか? このタバコは」

 アメリアに淹れてもらった紅茶を飲みながら、冨岡が尋ねる。

「この細さは慣れぬが、味は良いぞ。洗練された味がする。ふむ、料理の味を極めるが如く、煙の味をより良くしようと改良を繰り返しておるな。吸いごたえも。ニコチニアとは比べ物にならん。甘い樹液のような味もするな。いや、これは香りか。強い香りは味と大差がないとは、不思議な感覚じゃ。なるほどのう、肩の力が抜けていく」

 ノノノカは蕩けそうな表情で感想を述べた。容姿も相まって、甘いお菓子について話しているようにも見えるが、手にはタバコがある。当然ながら彼女は成人済みだが、どこか罪悪感を覚えてしまう様だ。

「気に入ってもらえてよかったです」
「何をいっておるんじゃ、ヒロヤ。全くもって良くはないぞ」
「え?」
「このような味を知ってしまっては、もうニコチニアで満足はできん。人の口は知ってしまった贅沢を忘れられんものじゃ」

 煙を吐く幼女(年齢不詳)はそう言いながら、リラックスした笑みを浮かべる。
 そんな彼女の砕けた態度にアメリアも同調したらしく、嬉しそうに微笑んだ。

「そうですよね。私もトミオカさんに出会うまで、食べられるものなら何でもいいと思っていましたが、美味しいものを知ってしまって・・・・・・贅沢な悩みだとわかっているのですが」
「それは仕方ないものじゃ。これもどれも、ヒロヤの責任じゃろう。これは男として責任を取らねばならぬのう。一人の女を変えてしまったのじゃから」

 大切な会話こそ、息抜きが必要なものだ。それがタバコでなくとも、何かしらの一服は重要になる。今のような緊迫した状況だからこそ、タバコと紅茶はより効果を増す。
 おかげで冨岡たち三人は、心の疲れを癒し、話を進めることが出来た。
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