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腑に落ちる

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 再び問いかけてきたノノノカの表情は、若干の険しさを帯びていた。
 これはノノノカなりの、相手を逃さない交渉術の一つなのだろうか。本来ならば与えないであろう情報を話すことで、相手に圧力をかける。そうすることで、その情報と同等の何かを渡さなければ、自分が危険だと錯覚してしまうのだ。
 先程ガルーダを簡単に制圧したことも、上手く作用している。
 冨岡は圧力に飲まれそうになりながらも、言葉を振り絞った。

「会ったことはありません。ただ、ベルソードという名前を聞き、こちらのベルソード家とどのような関係だったのかが知りたくて・・・・・・」
「何故知りたい? シャーナと我が家に関係があっても、トミオカとは関係ない話だろう。一体何が目的だ」
「目的って、俺は・・・・・・別に」

 何が知りたい。そう問いかけられた冨岡は、本当に自分の目的が分からず戸惑う。
 わざわざベルソード家を訪れ、身の危険を感じながらも疑問を止めない。何かを知ったところで、自分の得にはならないことだ。
 自分は何がしたかったのだろう。
 様子のおかしい冨岡に対し、ノノノカは警戒心を露わにする。

「答えよ、トミオカ。何年も前に消えたシャーナのことを何故調べておる。それもコソコソではなく、正面突破でワシに聞きにきた。お前の目的は何じゃ?」
「俺は・・・・・・何がしたかったんでしょうか」
「は?」

 本音を吐露した冨岡に対してノノノカは、心から驚いた表情で首を傾げた。
 突然自分の目の前の男が、目的を見失ったのである。記憶喪失にでもなったのか、と疑いそうになるほどだ。
 
「何を言っておるんじゃ、お前は。今はワシが問いかけておる」
「でも分からないんです。俺はシャーナ・ベルソードのことを知って、一体何がしたかったのか。どうして知りたかったのか。俺は、今のままでも恵まれていたはずなのに。俺にはちゃんとじいちゃんがいたはずなのに」
「一体何を・・・・・・」

 どうしてだか分からない。言語化はできないのだが、冨岡はノノノカに対し一定の怖さを感じながらも、話しやすさを覚えていた。
 よく考えてば、ノノノカは『悪事』に対して非常に厳しいが、人に対しては優しい。横暴な立ち振る舞いをしているものの、新人冒険者を守るためのものだった。粗暴な冒険者たちを束ねるために、必要な横暴さもあるのだろう。
 またギルドにとって有益な実力者を贔屓することはなく、事実のみをもって善悪を判断していた。
 人間として信頼できる相手ではあるだろう。
 だが、そんな理由ではない。冨岡にとって何故か話しやすいのだ。
 厳しさと優しさを併せ持つ、誰かのようだった。
 悩む冨岡に対して、ノノノカが言葉をかける。

「何を言っているんだ、トミオカ。じいちゃん? お前の祖父がどうしたというのじゃ。シャーナと一体何の関係がある」
「シャーナ・ベルソードは・・・・・・」

 自分の母親だ、と冨岡が言葉の続きを思い浮かべた瞬間、ノノノカの言葉がフラッシュバックした。『母親』という言葉の印象が強すぎて考えに至らなかったが、ノノノカがシャーナの母親ならば、冨岡にとって祖母ということになる。
 そこでようやく冨岡は頭の中が、洗浄されたようにすっきりし腑に落ちた。

「だから、何でも話せるような気がしたんだ・・・・・・ノノノカさん。俺の話を聞いてもらえますか。突拍子もないような話ですが、全てをお話しします」
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