421 / 498
冨岡の母親
しおりを挟む
「あの・・・・・・話を聞く限り、美作さんは俺の母親のことを知っているんですよね? どんな人だったんですか、俺の母親は」
純粋な冨岡の問いかけに美作は、何故か幼さを感じた。
それもそうだ。源次郎という存在が幸いし、本当の両親のことなど考える機会はなかったのである。この話題に関しては『物心ついたばかり』と言ってもいい。
美作はそんな冨岡に対して、明らかに少ない言葉で答える。
「ああ、知っている。綺麗な人だったよ」
冨岡がその問いかけで何を聞きたいのか、美作にはわかりそうなものだ。それでも彼はその先を自ら話そうとしなかった。
冨岡の両親の話について、情報を押し付けるような真似はしたくないと思っているのだろう。
知ることの全ては、冨岡が選ぶべき。何を知りたいのか、冨岡自身が言葉にして問いかけなければならない。そういうことだ。
そんな美作の気持ちを察したのかはわからないが、冨岡は問いかけを続ける。
「名前は・・・・・・俺の母親の名前を教えてください」
「シャーナだ。家名は確か、ベルソード・・・・・・だったかな。こっちの世界に来てからは、基本的にこの辺りで暮らしていたから家名なんて名乗る機会はないし、曖昧だがベルソードだったと思うぜ。シャーナ・ベルソード」
「シャーナ・ベルソード・・・・・・変なことを聞くんですけど、美作さんも俺の母親も向こうの世界から来たじゃないですか。向こうの世界で俺の母親に会ったことはないですか?」
時系列で言えば、シャーナの後に美作が転移してきている。また、鏡を通って転移するのであれば、二人とも同じ場所からの転移だ。近所に住んでいたのならば知人である可能性もある。
しかし、美作は首を横に振った。
「同じ街に住んでいる全員が知り合いなわけじゃないだろう。どこかですれ違ったことはあったかもしれないが、会ったとは言えないな。けど、こっちに来てから源次郎さんと一緒に俺の面倒を見てくれていたんだ。その時、向こうの世界での話も聞いたよ」
「どんな話ですか?」
身を乗り出して問いかける冨岡に微笑みを返した美作は、鏡に映る自分を見ながら懐かしむような表情を浮かべる。
「そうだなぁ、シャーナさんが冒険者だった頃の話だ」
「俺の母親が冒険者・・・・・・」
自分の母親が剣を振り回し、魔法を発動する冒険者であったことなど想像もつかない。もちろん、顔も知らないのだから想像できるはずもないのだが。
それでも、自分に冒険者の血が流れているなんて実感が湧いてこない。
さらに美作は話を続ける。
「シャーナさんの話はほとんどが自慢話だったよ。どれほどすごい魔物を倒したのか、どんな冒険をしたのか。そんな話ばかりだった。俺はその話を聞くたびに、心を躍らせたな。だが、話を聞けば聞くほどそれが真実だと思えなくて、話を盛っているのか、なんて思ったこともある。こんなことを言えばシャーナさんに怒られちまうかな」
「すごい冒険者だったか、自慢話だけなのか。どちらにせよ、俺的には複雑ですね」
「息子としてはそうだろうな。だが、面白い話だったよ。特に『魔王』と呼ばれている男が放った魔物の群れを一人で倒したところなんて、ワクワクしたなぁ」
美作がそう話した瞬間、冨岡は体を硬直させる。
「ま、魔王・・・・・・魔王って!」
純粋な冨岡の問いかけに美作は、何故か幼さを感じた。
それもそうだ。源次郎という存在が幸いし、本当の両親のことなど考える機会はなかったのである。この話題に関しては『物心ついたばかり』と言ってもいい。
美作はそんな冨岡に対して、明らかに少ない言葉で答える。
「ああ、知っている。綺麗な人だったよ」
冨岡がその問いかけで何を聞きたいのか、美作にはわかりそうなものだ。それでも彼はその先を自ら話そうとしなかった。
冨岡の両親の話について、情報を押し付けるような真似はしたくないと思っているのだろう。
知ることの全ては、冨岡が選ぶべき。何を知りたいのか、冨岡自身が言葉にして問いかけなければならない。そういうことだ。
そんな美作の気持ちを察したのかはわからないが、冨岡は問いかけを続ける。
「名前は・・・・・・俺の母親の名前を教えてください」
「シャーナだ。家名は確か、ベルソード・・・・・・だったかな。こっちの世界に来てからは、基本的にこの辺りで暮らしていたから家名なんて名乗る機会はないし、曖昧だがベルソードだったと思うぜ。シャーナ・ベルソード」
「シャーナ・ベルソード・・・・・・変なことを聞くんですけど、美作さんも俺の母親も向こうの世界から来たじゃないですか。向こうの世界で俺の母親に会ったことはないですか?」
時系列で言えば、シャーナの後に美作が転移してきている。また、鏡を通って転移するのであれば、二人とも同じ場所からの転移だ。近所に住んでいたのならば知人である可能性もある。
しかし、美作は首を横に振った。
「同じ街に住んでいる全員が知り合いなわけじゃないだろう。どこかですれ違ったことはあったかもしれないが、会ったとは言えないな。けど、こっちに来てから源次郎さんと一緒に俺の面倒を見てくれていたんだ。その時、向こうの世界での話も聞いたよ」
「どんな話ですか?」
身を乗り出して問いかける冨岡に微笑みを返した美作は、鏡に映る自分を見ながら懐かしむような表情を浮かべる。
「そうだなぁ、シャーナさんが冒険者だった頃の話だ」
「俺の母親が冒険者・・・・・・」
自分の母親が剣を振り回し、魔法を発動する冒険者であったことなど想像もつかない。もちろん、顔も知らないのだから想像できるはずもないのだが。
それでも、自分に冒険者の血が流れているなんて実感が湧いてこない。
さらに美作は話を続ける。
「シャーナさんの話はほとんどが自慢話だったよ。どれほどすごい魔物を倒したのか、どんな冒険をしたのか。そんな話ばかりだった。俺はその話を聞くたびに、心を躍らせたな。だが、話を聞けば聞くほどそれが真実だと思えなくて、話を盛っているのか、なんて思ったこともある。こんなことを言えばシャーナさんに怒られちまうかな」
「すごい冒険者だったか、自慢話だけなのか。どちらにせよ、俺的には複雑ですね」
「息子としてはそうだろうな。だが、面白い話だったよ。特に『魔王』と呼ばれている男が放った魔物の群れを一人で倒したところなんて、ワクワクしたなぁ」
美作がそう話した瞬間、冨岡は体を硬直させる。
「ま、魔王・・・・・・魔王って!」
0
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
学校転移﹣ひとりぼっちの挑戦者﹣
空碧
ファンタジー
〔あらすじ〕
遊戯の神【ロキ】の気まぐれにより学校ごと異世界ノーストラムに転移させられてしまった。
ロキの願いは一つ、無作為に選ばれた人間が、戦闘技術も、何も知識もない場所でどう生き抜くかを鑑賞すること。
この作品の主人公であるはユニークスキルの【ナビゲート】と共に、巻き込まれたこの世界で生き抜くべく、環境に慣れつつも帰還の手掛かりを探していく。
〔紹介〕
主人公:相川 想良
作品:学校転移﹣ひとりぼっちの挑戦者﹣
作者:空碧
この度、初の作品となりますが、以前より個人で小説を書いてみたいと思い、今回の作品を書かせていただいております。
基本的に、9:00、21:00の毎日投稿となっております。
ご意見、ご感想、アドバイス等是非お待ちしておりますm(*_ _)m
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる