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溢れる涙の色

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 ノルマンの様子から、冨岡は察する。
 この老爺はリオから魔王の何かを感じ取ったのだろう。
 そのまま冨岡は、リオに向けられているノルマンの目に注目した。その瞳が映しているのは何色なのだろうか。
 老爺は優しげな表情のままリオに歩み寄る。

「変なことを聞いても良いかの?」

 そんなノルマンの問いかけを冨岡やアメリアたちは、黙って見守っていた。
 初対面のノルマンに対して、若干身構えるリオ。彼はおずおずと頷く。

「うん、何?」
「お前さんは幸せに暮らせておるか?」
「え? うん、今はすごく幸せだよ。アメリア先生やトミオカさんがいてくれるから」

 リオは少し照れくさそうに答えた。するとフィーネが唇を尖らせて、話に割り込む。

「フィーネも! フィーネもいるよ」
「フィーネは少しうるさい時がある」

 リオは姉か妹にでも言うかのようだった。
 微笑ましいやり取りに、冨岡とアメリアは思わず笑みが溢れる。
 ともかくリオは現在を幸せだと感じているのだ。その事実はノルマンにとって、どれほど嬉しいことだろう。彼の涙をもって冨岡はそれを思い知る。

「そうか・・・・・・そうかそうか。それは良かった」
「おじいちゃん、どうして泣いているの? 悲しいことでもあった?」

 フィーネが問いかけると、ノルマンはしわくちゃの手で涙を拭ってから口角を上げた。

「悲しいのではない、嬉しいんじゃよ。心配してくれたんじゃな、心の優しいお嬢さんだ」

 ノルマンはフィーネの頭を撫でる。

「へへへ、おじいちゃんも優しいね」
 
 撫でられて満足そうに笑うフィーネ。
 穏やかな空気に包まれた屋台の中で、これまで黙っていたレボルが口を開く。

「それぞれお話はあるでしょうけど、せっかく作った夕食が冷えてしまいます。まずは食事にしましょう」

 即座に冨岡が便乗して、食器を用意し始める。

「そうですね、今日は夕食会ですから。さぁさぁ、ノルマンさん座ってください。お酒は・・・・・・やめた方がいいですか?」
「なんじゃ、爺は酒を飲むな、と言いたいのか? 量を飲まなければ問題ないぞ。せっかくの料理ならば酒も飲ませて欲しいもんじゃのう。それに、今日はいい縁に巡り会えたよき日じゃ。こんな日くらい飲んでも神は怒らんじゃろうて」
「じゃあ、少しだけ。せっかくですからいいワインを開けましょう。レボルさんも飲みますよね」

 冨岡は早速棚から仕入れておいたワインを取り出した。冨岡の元いた世界で買い出しを担当している美作に、交渉や記念の折に開けるいいワインを買っておいてほしい、と依頼した際、美作が買ってきたワインだ。
 これは『それなり』のワインではない。『ものすごくいい』ワインである。
 会社員時代の冨岡ならば、値段を聞いただけで倒れていただろう。
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