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ノルマンの家
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そう言って笑うブルーノの表情は、春の陽だまりのように暖かく穏やかで、優しい父親のそれだった。
安心と地図を得た冨岡はそのままノルマンの元に戻る。
どうやらこの老爺は黙って待っていることができないらしく、近くにあった木に登ろうと腕を伸ばしていた。
「ちょ、ちょっとノルマンさん、何してるんですか」
「ほっほっほ、木の上から見れば家がわかるかと思ってな」
冨岡の言葉に対し、それが当然であるかのように答えるノルマン。
木とは言っても、教会の敷地内に植えられている木だ。街を見渡せるほどの高さはない。どこまで本気なのだろうか。
「見えるわけないでしょうが。というか危ないのでやめてください。地図をもらってきましたから、案内しますよ」
「そうかそうか、感謝するぞ若いの。さぁ、行こうか」
ノルマンは木に背中を向けて、そのまま歩き出す。
冨岡が地図を見て想定している逆方向に。
「どこいくんですか、ノルマンさん。こっちですよ。裏口から出るんです」
「なんじゃ、早く言ってくれ」
「道がわからないから迷子になったんじゃないですか。ほら、行きますよ」
「ほっほっほ」
そのままノルマンの言っていた旧街道三丁目西筋に向かう二人。だが、その途中、ノルマンはあらゆる場所で、様々な理由で寄り道をしようとした。
「こっちだった気がするのう」
「美味い飯の匂いがする」
「こっちにな、いい風が吹く丘がある」
「あの雲に見覚えがあるぞ」
「行きつけの酒場があるんじゃ、寄っていこう」
その度冨岡はノルマンの名前を呼んで先導した。老爺は寄り道を断られるとなぜか寂しそうな表情を浮かべる。
目的地は家であるはずだ。家に帰り着くというのに、そのような表情を浮かべていることに冨岡は違和感を覚える。
それでもなんとか旧街道三丁目の西筋に辿り着いたところで、ノルマンが民家を指差した。
「ここじゃここじゃ、ワシの家だ」
周囲の景色に溶け込む特徴のない家。どこも破損はしていないのだが、清掃がされていないのか、誰も住んでいないと言われれば納得するほどの外観だった。
「ここが・・・・・・じゃあ、俺はこれで失礼しますね」
冨岡が足を止める。するとノルマンは冨岡の腕を掴んで、家の方に引っ張った。
「何を言っておるか。茶くらい出す、寄っていってくれ。案内してもらったんじゃからな」
「どうか気になさらず。俺がやりたくてしたことですから」
ノルマンの誘いを断ろうとした冨岡だったが、言葉の途中で彼の家が気になってしまう。
ノルマンは婆さんのスープが、という話をしていた。しかし、家の中から人の気配は感じない。掃除が行き届いていない家、寂しそうな老爺、感じない人の気配、徘徊癖とも取れるノルマンの行動。
そこで冨岡は一つの可能性を頭に浮かべた。
安心と地図を得た冨岡はそのままノルマンの元に戻る。
どうやらこの老爺は黙って待っていることができないらしく、近くにあった木に登ろうと腕を伸ばしていた。
「ちょ、ちょっとノルマンさん、何してるんですか」
「ほっほっほ、木の上から見れば家がわかるかと思ってな」
冨岡の言葉に対し、それが当然であるかのように答えるノルマン。
木とは言っても、教会の敷地内に植えられている木だ。街を見渡せるほどの高さはない。どこまで本気なのだろうか。
「見えるわけないでしょうが。というか危ないのでやめてください。地図をもらってきましたから、案内しますよ」
「そうかそうか、感謝するぞ若いの。さぁ、行こうか」
ノルマンは木に背中を向けて、そのまま歩き出す。
冨岡が地図を見て想定している逆方向に。
「どこいくんですか、ノルマンさん。こっちですよ。裏口から出るんです」
「なんじゃ、早く言ってくれ」
「道がわからないから迷子になったんじゃないですか。ほら、行きますよ」
「ほっほっほ」
そのままノルマンの言っていた旧街道三丁目西筋に向かう二人。だが、その途中、ノルマンはあらゆる場所で、様々な理由で寄り道をしようとした。
「こっちだった気がするのう」
「美味い飯の匂いがする」
「こっちにな、いい風が吹く丘がある」
「あの雲に見覚えがあるぞ」
「行きつけの酒場があるんじゃ、寄っていこう」
その度冨岡はノルマンの名前を呼んで先導した。老爺は寄り道を断られるとなぜか寂しそうな表情を浮かべる。
目的地は家であるはずだ。家に帰り着くというのに、そのような表情を浮かべていることに冨岡は違和感を覚える。
それでもなんとか旧街道三丁目の西筋に辿り着いたところで、ノルマンが民家を指差した。
「ここじゃここじゃ、ワシの家だ」
周囲の景色に溶け込む特徴のない家。どこも破損はしていないのだが、清掃がされていないのか、誰も住んでいないと言われれば納得するほどの外観だった。
「ここが・・・・・・じゃあ、俺はこれで失礼しますね」
冨岡が足を止める。するとノルマンは冨岡の腕を掴んで、家の方に引っ張った。
「何を言っておるか。茶くらい出す、寄っていってくれ。案内してもらったんじゃからな」
「どうか気になさらず。俺がやりたくてしたことですから」
ノルマンの誘いを断ろうとした冨岡だったが、言葉の途中で彼の家が気になってしまう。
ノルマンは婆さんのスープが、という話をしていた。しかし、家の中から人の気配は感じない。掃除が行き届いていない家、寂しそうな老爺、感じない人の気配、徘徊癖とも取れるノルマンの行動。
そこで冨岡は一つの可能性を頭に浮かべた。
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