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小さすぎる理想郷

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 そこには一生懸命、ハンバーガーの包み紙を並べるフィーネがいる。
 冨岡とレボルが覗き込んでいることに気づいたフィーネは、首を傾げた。

「どうしたの、トミオカさん。その人は?」
「フィーネちゃんに紹介しようと思ってね。昨日話したと思うんだけど、今日から一緒に働いてくれるレボルさんだよ」

 紹介されたレボルは、幼いフィーネ相手でも丁寧さを忘れない。

「初めまして、レボルと申します。今日からお世話になりますね」
「レボルさん! 昨日トミオカさんが言ってた人だ。フィーネ覚えてるよ。フィーネ五歳!」
「ははっ、可愛らしいお嬢さんだね。そうか、なるほどね。こんなに可愛いお嬢さんと美しいお嬢さんがいたのであれば、トミオカさんが雇う従業員を人柄で選別していたのも頷ける。守るべきものがある、ということかい?」

 フィーネの笑顔を目の当たりにし、思わず頬が緩んでしまったレボルはそう冨岡に問いかける。
 
「ええ、俺はこの二人に窮屈な思いをしてほしくないですから。って、今から一緒に働いてもらうレボルさんにこんなことを言うのは失礼ですよね。もちろん、レボルさんにも窮屈な思いをしてほしくはないですよ」
「何を言っているんだい。こんなに華やかな職場であれば、自ずと士気は上がるものですよ。まだ働き始めていない私が言うのもなんですが、この場所を守りたいと思ってしまいました」

 爽やかに語るレボル。
 その優しげな雰囲気に安心した冨岡は、嬉しそうに目尻を下げた。

「そう言ってもらえるとありがたいです。じゃあ、屋台の中を紹介しますね。レボルさんには調理を担当してもらいますので」

 レボルとアメリアたちの初顔合わせは、穏やかながらも確かな好印象を感じられるものだった。
 そのまま冨岡は屋台の中をレボルに紹介する。そうしている間、フィーネは物珍しそうにレボルを眺め、レボルはまるで自分の子どもを思い出しているかのように、優しい眼差しをフィーネへと向けていた。
 
「いやはや・・・・・・なんと表現すればいいのか・・・・・・」

 屋台の設備を紹介し終えたところで、レボルが困惑と感動、動揺を混ぜ合わせたため息を吐く。
 こちらの世界にはない技術を詰め合わせた、超高性能キッチン搭載の屋台。その原理などレボルにわかるはずもなかったが、何をどうすれば何がどうなる、という説明を受ければ十分である。十分すぎるほどに垂涎モノであった。
 どのような料理にも対応できる設備。食材を完璧に保存する冷蔵庫。
 料理人にとっては理想郷と言ってもいい。郷と呼ぶには小さい、という問題を除けば、である。
 それに加えて潤沢な食材。それも、レボルが見たことのない食材ばかりだ。
 どのような味がして、何と組み合わせられるのか。どう調理すれば旨味が引き出せるのか。レボルの心の奥底にある、料理人としての好奇心が騒ぎ出しそうになる。

「もしかすると私は、とんでもない職場に雇われてしまったのかもしれませんね」
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