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正しさを持つ

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 その言葉に対し、美作は照れくさそうな笑みを浮かべた。

「仕事のついでだよ。わざわざ来たわけじゃねぇさ」
「ついででこんな時間まで手を合わせてますかね?」
「仕事してただけだっつーの。まぁ、こうして仏壇に直接手を合わせることができて良かったのは確かだな。ありがとう、えっと冨岡・・・・・・」
「浩哉です」

 冨岡が名乗ると美作は「浩哉」と繰り返して覚える。
 異世界では『トミオカ』で通しているので、久しぶりに名前を呼ばれると何故か少しくすぐったい。
 仏壇の源次郎と話し終えた美作は立ち上がり、冨岡に微笑みを向ける。

「じゃあ、俺は帰るわ」
「もういいんですか?」
「ああ、元々家に上がらせてもらう予定じゃなかったからな。夜が明けたらすぐに木坂建設に出向かなきゃならないし」

 美作は腕時計を確認し、疲れたように息を吐いた。
 彼との早すぎる再会で失念していたが、冨岡も早く寝なければ明日が辛くなる。そう思い出し「そうですね」と美作を玄関まで送った。

「それじゃあ、帰り道には気をつけてくださいね」

 冨岡が言うと美作は挑発的に口角を上げる。

「なんだ、背中から襲おうってか?」
「そんなわけないでしょ。夜の山道なんですから、危ないですよって忠告に決まってるでしょうよ。悪党の捨て台詞的な言葉じゃないことくらい話の流れでわかってくださいよ」
「ははっ、冗談だよ。せいぜい気をつけるよ。アンタも気をつけてな」

 そう言われた冨岡は首を傾げた。
 何に気をつけるというのだろうか。ここは冨岡の家で、帰路など存在しない。家の中で危険な目に遭うことが全くないとは言わないが、外よりも可能性は低いだろう。
 冨岡が悩んでいる中、美作は自分の車に乗り込み、ドアを閉めるタイミングで言葉を付け足した。

「見えているものが正しいとも限らないし、違っているものと同じものが混在している。惑わされんなよ。自分にとって変わりようのない正しさを持っておくことだ」

 それでも冨岡は意味がわからないという表情を浮かべる。
 美作は反応を見ずにそのまま車を走らせ去っていった。

「自分にとって変わりようのない正しさを持っておく・・・・・・何を言ってんだろ。まぁ、いいか。変な人だったけど悪い人ではなさそうだな。さて、俺も帰るかな」

 源次郎が結んだ美作との縁。冨岡にとってわからないことだらけではあるが、積極的に踏み込む気にはなれなかった。
 これが永久の別れというわけでもなく、また話す機会もあるだろう。
 また、わざわざ素性を隠していた美作には聞かれたくないことがあるかもしれない。
 一瞬でも兄弟だと感じた美作の気持ちを優先したのである。
 何よりも冨岡は眠かった。話を広げれば時間がかかるのは間違いない。

「早く寝よう」
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