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連鎖爆撃砲

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 冨岡は声に反応し、男に視線をやる。男は狭い空間の中で拳を振り回し、脱出を試みていた。だが、物理攻撃など全く効かないらしく、男の拳に血が滲むだけである。

「わからないことだらけなんですけど、あの人は一体?」
「おそらく、先日お話しした正規兵ではない傭兵の方だと思います。普通の屋台程度の売上であれば絡まれることもなかったのですが、私たちにも想定外なほど売り上げてしまい、罪に問われる危険性と秤にかけても魅力的だったのでしょう。ハンバーガーの売り上げが」

 そう話すアメリアの表情からは男に対する危険性など全く感じさせない。光の壁への信頼なのだろうか。
 それほどまでに危険を排除する『聖女の奇跡』とは何なのだろう、と冨岡が疑問を言葉にしようとした。
 しかしそれよりも先に周囲の人々が口々に話し始める。

「お、おい。あれ、魔法じゃねぇのか?」
「ああ、魔力が集まってやがる」
「おい、皆! 逃げろ!」

 何のことだ、と冨岡が再び男を見ると男の右手が真っ赤な光に包まれていた。淡い色ではなく、手が見えなくなるほど濃く鮮やかな赤色である。
 人々の話から察するに男は壁を破るための魔法を発動するつもりだ。
 蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う人々。離れていく背中を眺めながら冨岡が口を開く。

「アメリアさん、俺たちも早く逃げたほうが」
「いえ、大丈夫です。光の壁は『聖女の奇跡』によって創り出されたものですから」

 冨岡にそう答えるとアメリアはフィーネを抱き抱える。よく見るとその腕は震えていた。
 流石にこの世界のことを知らない冨岡でも気づくだろう。光の壁がアメリアの言う『聖女の奇跡』だという確証はない。彼女にとってもそれは希望的観測である。
 もしも『聖女の奇跡』だと確信しているのならば、フィーネを守るように抱き抱える必要はないだろう。
 では、どうしてアメリアは大丈夫だと言い、逃げようとしないのか。冨岡はある答えに行き着く。傷が癒えたとはいえ、刺されたばかりの冨岡を一人で残して逃げないためだ。

「くそ、俺はどこまで足手纏いに! アメリアさん、俺のことはいいから逃げてください!」
「もう遅いです。冨岡さんも体勢を低くしてください」

 アメリアの言う通り、もう逃げる時間などない。
 その数秒後、男は壁に右手を向けながら叫んだ。

「炎よ! 連鎖爆撃砲!」

 叫んだのは魔法の名前だろう。すんごい名前だな、と思う余裕などなく男の方で爆発音が響いた。
 立て続けに数発、地面を揺らすほどの音だ。いや、音だけではないことが振動でわかる。実際に数回爆発したのだ。
 連鎖爆撃の名の通り連鎖的に爆発を巻き起こす魔法である。
 だがしかし、振動以外に一切の衝撃はなく、微風ひとつ感じない。

「え?」

 爆発音が止み冨岡が顔を上げると、光の壁に囚われたまま体表が焦げ黒煙を纏う男が見えた。
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