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聖女の奇跡

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「フィーネ・・・・・・一体何を?」
「トミオカさん、死なないで」

 その願いが奇跡を呼んだ。いや、これは必然かもしれない。この世界で最も純粋で清らかな願い。だが、奇跡を起こしたのは神でも悪魔でもなく、彼女自身の力だった。
 フィーネの体から溢れる緑色の光は、優しく撫でるように冨岡の体を包み込む。光はまるで冬の終わりを告げる木漏れ日のように暖かく、想像上の雲のように柔らかい。
 冨岡の目に緑色が映った瞬間、彼は抜けていった魂が体に戻るように感じた。痛みが消え、全身の筋肉が自分の支配下に戻る。簡単に言えば、どうしようのなかった脱力感と倦怠感、痛みが消え、楽になったのだ。
 状況が状況だけに死んでしまったのか、とも思ったが、地面の感触もアメリアの温度も本物だと言い切れる。

「あれ・・・・・・俺?」

 はっきりと意識を取り戻した冨岡が周囲を見渡すと、アメリアが泣いているのか笑っているのかわからないほど崩れた表情を向けていた。

「トミオカさん・・・・・・」

 そこでようやく冨岡は『自分が刺されて死にかけていた』ことを理解する。慌てて、刺された箇所に手を回すが短刀どころか傷も見当たらない。

「え、俺刺されましたよね? どうして、生きて・・・・・・」
「私もよく分からないのですが、おそらくフィーネが回復魔法を」
「フィーネちゃんが?」

 冨岡がフィーネに視線をやると、ちょうど飛びかかってくるところだった。

「トミオカさーん!」
「うわっと、フィーネちゃん。心配かけてごめんね」

 小さな体を受け止めながら冨岡が微笑みかけると、フィーネは小さな涙をこぼしながら体に顔を押し付けてくる。

「生きてた! トミオカさん生きてた!」
「フィーネちゃんが助けてくれたんだろう? ありがとう」

 言いながら冨岡はフィーネの頭を撫でる。柔らかな髪が手の中でサラサラと揺れ、心地いい感触だった。
 何とか助かった冨岡。しかし、その背中に刻み込まれた痛みの記憶は本物である。ふと地面に視線を落とすと、血のついた短刀が落ちていた。その血が自分のものであることは何となくわかる。衣服やアメリアの腕にも同じものが付着していた。
 周囲の人々は「奇跡だ」と口々に何かを讃えている。そう、奇跡が起きたのだ。

「本当によかったです・・・・・・」

 と、アメリアは改めて冨岡を抱きしめる。人前でその感触を覚えるのは背徳感があり、冨岡は赤面しながら微笑んだ。

「アメリアさんも、ご心配おかけしました。何が起きたのかはわかりませんが、死なずに済んだみたいです」
「起きたのは奇跡ですよ。おそらく『聖女の奇跡』だと思います」
「聖女の奇跡?」

 言葉の意味がわからず冨岡が聞き返した瞬間、光の壁に囲まれていた男が吠える。

「おおい! 何だこれ! 出しやがれ!」
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