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悩みの足し算

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 普通であれば良いものを売っているのに客が来ないパン屋を憐れむだけで終わるだろう。
 しかし冨岡の心には『困っている人を助けられる人間であってくれ』という源次郎の言葉が残り続けていた。今、目の前にいるメルルは明らかに困っている。
 ただ憐れむだけで終われるわけがなかった。しかし、今は冨岡自身も何を売るか考えなければいけない。

「ふかふかのパンを売る方法・・・・・・けど俺もどんな商売をするか考えないと・・・・・・」

 冨岡が悩んでいるとメルルが顔を覗き込んできた。

「どうかされましたか?」
「あ、いえ・・・・・・ちょっと考え事をしてて」

 難問二つを同時に抱え込めるほど冨岡は器用ではない。そもそもメルルは助けを求めてきているわけではないのだから、勝手に悩むのも余計なお世話というものだ。
 もちろん冨岡にもそんなことはわかっている。けれど、なんとかメルルを助けたいと思ってしまっていた。
 そんな冨岡の気持ちを知ってか知らずかフィーネが首を傾げて話しかける。

「トミオカさん、何か悩んでるの? フィーネも悩むことあるよ。あのね、数と数を合わせると増えるんだけど、それをどうやってやればいいのかわからないの」

 可愛らしい悩みに思わず頬が緩む冨岡。

「ああ、足し算かな。最初は数字を覚えるだけでも大変だもんね。そもそも足すって概念が・・・・・・」

 そう言いながら言葉の途中で冨岡はアイデアが天から降ってきたように閃く。

「そうか、足せばいいんだ!」
「え?」

 突然叫び始めた冨岡に驚いたメルルが聞き返した。すると冨岡は食べかけのパンを全て口に入れてからメルルの手を握る。

「フガフ! フガフガ!」
「いやいや、食べながらでは何を言っているのかわかりませんよ。どうしたんですか?」

 メルルが困りながら言うと冨岡はパンを飲み込んでから改めて話し始めた。

「足し算ですよ!」
「足し算?」
「悩み事もパンも足せばいいんです」

 そう言われてもメルルには何のことだかさっぱりわからない。同じようにフィーネも首を傾げている。
 冨岡は自分が前のめりすぎると気づき、落ち着いて最初から説明した。

「あの、俺もこの街で商売を始めようと思ってたんですよ。食べ物を売る店です。その上で何を売ろうかと考えていたんですが、このパンとフィーネちゃんの言葉のおかげで思いつきました。足せばいいんです」
「・・・・・・うん。ちゃんと聞いてもわかりません。足せばいいってどういうことなんですか?」
「俺の悩みとメルルさんの悩みを足し、パンに魅力を足すんです。ですから、このパンを俺に売ってくれませんか?」
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