上 下
15 / 498

アメリアの事情

しおりを挟む
 冨岡に涙を拭われたアメリアは彼の優しさに触れ、さらに涙を流した。

「すみません、すみません。困りますよね、いきなり泣き出すなんて」
「大丈夫ですよ。落ち着いて深呼吸してください。俺でよければ話を聞きますよ」
「いえ、私だけこんなものを食べていいのかと・・・・・・」

 言いながらプチワイバーンの串焼きに視線を送るアメリア。その瞳は憂いに満ちている。
 空腹状態だというのに自分だけ食べてもいいのかと憂う彼女にはどのような事情があるのだろうか。冨岡はそう考え、アメリアに優しく微笑みかける。

「とにかく食べてください。落ち着いてからでいいので俺に話してみてくれませんか。何か力になれることがあるかもしれません」

 冨岡は話ながらプチワイバーンの串焼きを食べ進めた。その言葉を受け止めたアメリアは同じように串焼きを頬張る。
 よほど空腹だったのか、アメリアは夢中になって食べ進めた。
 冨岡と同じタイミングで食べ終わるとアメリアは我にかえり少し申しわけなさそうに、照れ臭そうに俯く。
 そんなアメリアに冨岡が優しく話しかけた。

「美味しかったですね。少し落ち着きましたか?」
「はい、ごめんなさい。取り乱してしまって・・・・・・ご迷惑をおかけしました」

 謝るアメリア。しかし冨岡は首を横に振る。

「謝らないでください。迷惑だなんて思ってませんよ」
「ありがとうございます。本当に優しいんですね、トミオカさん」
「優しくなんて・・・・・・ただアメリアさんが困っているのならできることをしたいと思ってるんです」

 言いながら冨岡は祖父、源次郎の『困っている人を助けられる人間であってくれ』という言葉を思い出していた。
 そして今、目の前のアメリアが困っている。
 冨岡の心には『助けたい』という感情がはっきりと芽生えていた。
 そんな冨岡の言葉を聞いたアメリアは少し戸惑ってから口を開く。

「・・・・・・本当に優しい。でも話したところでトミオカさんを困らせるだけかもしれません」
「俺は困りませんよ。何もできないかもしれないけれど、困ることなんてありません」

 そう言い放つ冨岡の言葉には優しさと強さが感じられた。
 アメリアはその言葉を受け、自分の抱える事情を話し始める。

「・・・・・・私はこの街で孤児院を運営しています。孤児院と言っても小さな教会で私が一人の子を何とか養っている状態ですが・・・・・・」
「アメリアさん一人で・・・・・・どこかの組織に属しているんですか?」
「いえ、元々は『白の創世』という宗教団体が運営する教会でした。しかし、『白の創世』は他国で起きた大きな事件をきっかけに崩壊し、今では全く機能していません。それでも孤児院を無くせば子どもたちが路頭に迷ってしまいます。ですから何とか維持してきたのですが、徐々に職員たちは辞めていき遂には私一人になってしまいました。子どもたちも他の孤児院に移っていき、今では一人に・・・・・・」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

学校転移﹣ひとりぼっちの挑戦者﹣

空碧
ファンタジー
〔あらすじ〕 遊戯の神【ロキ】の気まぐれにより学校ごと異世界ノーストラムに転移させられてしまった。 ロキの願いは一つ、無作為に選ばれた人間が、戦闘技術も、何も知識もない場所でどう生き抜くかを鑑賞すること。  この作品の主人公であるはユニークスキルの【ナビゲート】と共に、巻き込まれたこの世界で生き抜くべく、環境に慣れつつも帰還の手掛かりを探していく。 〔紹介〕 主人公:相川 想良 作品:学校転移﹣ひとりぼっちの挑戦者﹣ 作者:空碧 この度、初の作品となりますが、以前より個人で小説を書いてみたいと思い、今回の作品を書かせていただいております。 基本的に、9:00、21:00の毎日投稿となっております。 ご意見、ご感想、アドバイス等是非お待ちしておりますm(*_ _)m

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...