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プチワイバーンの串焼き

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 さらに視野を広げると普通の人間だけでなく、猫耳や兎耳を生やした者が数人歩いていることに気づいた。
 そこで冨岡はようやく理解する。

「まさか、本当に・・・・・・異世界。日本どころか地球でもなく別の世界ってこと? じゃあ、さっきのは獣人・・・・・・嘘だろ」

 そう言いながら冨岡は自分の頬を強く摘んだ。
 痛い。
 しっかりと痛みを感じる。どうやら夢ではなさそうだ。
 
「夢じゃない。ここは本当に異世界なんだ」

 普通の人ならばどうするだろう。知らない世界の存在に驚き怯えるかもしれない。もしくは不気味に感じ逃げ出すかもしれない。しかし、冨岡はこの数日で百億円を手に入れるという非現実的な体験をしていた。
 その上、鏡によって転移するという驚きも経験している。
 既に驚くという感情は麻痺し、頭の中は異世界への興味でいっぱいだった。

「すごい、これが異世界! ははは、何だよそれ。異世界なんて・・・・・・そんなのワクワクしすぎるって!」

 ここが異世界であると受け入れた冨岡はこの不思議な体験を全力で楽しもうと心に決める。
 源次郎の死から大きく動き出した冨岡の運命。その方向性がようやく定まったような気がした。
 血の繋がっていなかった祖父、源次郎の遺産で百億円を手にした冨岡の異世界転移。
 彼が描く物語の行く末は神すらも知らないだろう。それほど、予想外で奇想天外で規格外の出来事だった。

 自分が今、異世界にいると理解した冨岡はこの世界について調べ始める。
 ゲームやアニメでもこういった場合、聞き込みをするのが基本だ。人並みにゲームやアニメの知識を持っている冨岡はそれに倣い、近くの屋台に向かう。
 向かった屋台は串焼きの屋台らしく炭火で串に刺さった肉を焼いていた。
 店主は頭に汗止めの布を巻いた筋肉質の中年男性。
 店主に話しかけることで言葉が通じるかどうかも分かるだろうと冨岡は思い切って話しかけた。

「あの」

 すると店主は串焼きをひっくり返しながら反応する。

「ん? ああ、いらっしゃい。何にする?」

 冨岡と同じ言語で応対する店主。どうやら言葉は通じるらしい。
 ひとまず安心した冨岡はそのまま話を続けた。

「えっとこれは何の串焼きですか?」
「何のってそりゃ、プチワイバーンに決まってるだろ。串焼きにするならプチワイバーンが最高だよな。で、何本買ってく?」
「プチワイバーン? じゃあ、この世界には魔物もいるのか。え、というか魔物って食べられるんですね」

 プチワイバーンという魔物らしき名前に興味を持ち、冨岡が素直な言葉を吐き出すと店主は不思議そうな表情を浮かべてから言い返す。

「魔物食わねぇで何食うってんだよ。まぁ、果実やら野菜やらも食えるがやっぱり男は肉だぜ。兄ちゃんも肉食ってその細い体をどうにかしなきゃな」

 そう言いながら店主は上腕二頭筋を冨岡に見せつけた。
 若干の暑苦しさを感じながら冨岡が苦笑いで返すと店主は再び串焼きを売ろうと話を進める。

「それで? 何本買うんだい?」
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