上 下
480 / 541

エルフの男と触手の大樹2

しおりを挟む
 星はレイニールを刺激しないように、出来る限り優しく語りかける様に告げる。

「確かに『ソードマスターオーバーレイ』を使えば、安全に戦えるかもしれない。でも……あれは周りの人もかかっちゃうから、できるだけ使いたくないの」
「うーむー」

 レイニールは考え込む様に腕を組むと、難しい顔でうなりが首を捻っている。

 その様子を見つめながら、星は次に何を言おうかとレイニールに悟られない様に考えていた。するとレイニールが何かを思いついたのか、組んでいた腕を外してポンっと手の平を叩く。

「そうじゃ! なら、こういうのはどうじゃ?」
「……な、なに?」

 レイニールの突然の思い付きに嫌な予感がしながらも、星が聞き返す。

 不安そうな表情をしている星に、レイニールが胸を張っているのがそれが星の不安を更に煽る。次の言葉を固唾を呑んで見守ると、レイニールが大きく息を吸い込んで徐に告げた。

「これからは我輩を置いていくのは禁止じゃ! 起きてる時は勿論、寝る時もお風呂に入る時も一緒に居るのじゃ!」
「……ん?」
(そんなのいつもだと思うけど……)

 首を傾げながらそう考えている星に、レイニールが更に言葉を続けた。

「主は無理をしすぎるのじゃ! 我輩がいつでも着いていないと何をするか分からん! スキルを使えない時は我輩が代わりに戦うのじゃ! それなら主の悩みは解決だろう? ついでに、お菓子やご飯のおかずもくれたっていいのだ!」

 そう言い放つと、レイニールは腕を組んで仕切りに頷く。その様子を見ていた星はほっとしたのか、思わず笑いが込み上げてくる。
 正直。いつもと何ら変わらない条件を提案したレイニールの、ちゃっかりお菓子とおかずを要求する辺りが星にとってはツボにハマったのかもしれない。

 突然笑い始めた星を見て、レイニールは不満そうにそっぽを向いた。
 しかし、星が考えていることなどレイニールが知る由もない。笑われてご機嫌斜めになったレイニールはツンとした態度で星から目を逸している。

 星はそんなレイニールを見て微笑みを浮かべると、剣を腰に差してドアに向かって歩き始めた。
 それを見たレイニールは慌てて星の後ろを、近付き過ぎず離れ過ぎずの絶妙な間隔で付いてくる。

 物音が一切ないリビングの様子を窺いながらにそーっと出ると、エリエもミレイニもソファーで寝ていた。
 寝ている2人の側までレイニールが飛んでいくと、彼女達が寝ているのを確認して星の方に戻ってきた。だが、まだ不機嫌なのかそっぽを向いたまま星に告げる。

「あの様子なら当分は起きんだろう。行くなら今がチャンスじゃ、主」
「――うん。でもちょっとだけ待ってて……」

 そう言って、星はキッチンの方に行くとボードを持って帰ってくる。

 それは普段イシェルが料理の調味料なんかを書いているものだった。本来ならば数分でできる料理を、彼女は相当なことがない限りは一から調理していて、毎回調味料をどのくらい使ったのかをちくいち書き記していた。

 星はそのボードに徐にペンを走らせた――全てを書き終えた星はレイニールに向かってにっこりと微笑むと「さあ、行こっか! レイ」と告げる。

 レイニールは頷くと、嬉しそうに微笑み星の頭にちょこんと乗った。

 星はそんなレイニールの顔を見上げると、レイニールは慌ててそっぽを向く。どうやら、まだ機嫌を直したわけではないらしいが。だが星には、レイニールの考えていることが分かる気がした。       

 城から出た星は森の中を進んで行き、ちょっと開けた場所に出るとぎこちない手付きで腰に差した剣を抜く。 
 それを上段に構え、勢い良く振り下ろす。ヒュンという風切音の後にもう一度同じことを繰り返すと、星は何を思ったのか眉をひそめ首を傾げる。

 持っていた剣を鞘に戻し、徐に星はコマンドを指で操作する。すると次の瞬間。腰に差していた剣が消え、代わりに練習用にエミルに渡された木の剣が現れた。

 星はその剣を掴むと「よし」と小さく呟き、再び素振りを始めた。

 おそらく。刃の付いた剣を振り回していると危ないと感じたのだろう。しかし、辺りには自分の他にレイニールしかおらず、そのレイニールも木の上で昼寝をしており。気にしすぎと言えばそうなのだろうが、星の性格上。そういうのにも気を配ってしまうのだろう。    

 だが、木の上で寝ているレイニールが突然降りて来て、自ら剣に当たるとは考えられないが……。

 それからは、汗が流れるのも構わず。星はただただ一心不乱に練習用の木の剣を振り続けていた。
 今回は以前のような丸太という攻撃する目標もない。星は頭の中で架空の敵を想定しながらそれを斬り付けていく。

 良くプロの格闘家やスポーツ選手は、インスピレーションに自分が勝利するイメージを思い浮かべながら行うという。星が今やっているのもそれだ――だが、それは普段から己に自信のない彼女にとって最もいい練習方法なのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

処理中です...