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決戦に備えて3

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 予定の時刻まで後2時間――時間はまだ十分にあるが。しかし、その間に外した装備品を整えなければならない。

 それに、大量に買い込んだヒールストーンとリカバリーストーンの運用の仕方も話し合わなければいけないだろう。

 どうして、今それをしなければいけないかは簡単な理由だ。単に、一箇所に人を集めるということは、昨晩の事件で排除しきれなかったプレイヤー達を今度こそ排除しようと考えている可能性が高いと推測されるからだ。

 ちょっとした余興で街の者達全員に、使用者を殺人鬼と化すような装備を送り付けてくるわけがない。
 っということは、必ず事件を起こした犯人は更なる手段を使ってくる可能性が高い。

 まだ、狼の覆面の男が所属するシルバーウルフの犯行と断言できるわけではないが、それを否定するだけの証拠がない以上。彼等の犯行も視野に入れて動くのが得策と言えるだろう。

 マスターはへばっている3人以外の者達を呼んで、テーブルに腰を下ろすように促す。

 もちろん。そこには星の姿はまだない。
 彼に促され席に着くと、マスターは腕を組んで徐に説明を始めた。

「――これからの行動についてだが、まず先程儂等で入手してきたヒールストーンを、各自普段より多く持っていってもらいたい。勿論、自分の装備品を圧迫しない程度でだ。もし、敵の襲撃があった場合には、近くのプレイヤーではなく。まずは己の生存を最優先に考えろ! 生きて帰れなければ、その後の対策の取りようもない!」

 マスターの言葉を聞いて、その場に居た者達も一斉に頷く。椅子の背に凭れ掛かり腕組みしているバロンただ一人を除いては……。

 っと、そのバロンがすっと手を上げた。
 それを見て、メルディウスがあからさまに嫌な顔をした。長年の経験で、彼の発言は場を混乱させると誰よりも分かっていたからである。

「バロン。どうした?」
「おい。だいたいどうして俺様が、街に行かなければならない。この中の数人だけを送って話を聞いてくればいいだけじゃないのか?」

 何とも他力本願な考えだが、彼の言い分は最もだ――本来なら、彼の言う通り。メンバーの中から腕の立つ数人を選抜していけばいい。

 彼がそう考えるのも無理はない話ではあるが、彼は大事なことを忘れているようだ。
 昨晩の事件を知っていれば、そんな安易な提案はしない。無論、彼もその場にいて対応に当たっていた一人ではあるが、彼の提案は事件が起こる前ならば容易に通っていただろう。

 彼の提案には大きな穴がある。それはこのメッセージがくる前に、村正事件が発生したことだ――星を狙ってきたシルバーウルフの狼の覆面の男だ。その矛先がマスター達の陣営に向いている可能性が高く、このメッセージも罠の可能性が非常に大きい。

 そんな状況下でのこのこ誘き出されるにも関わらず。戦力を分散させるのは、自殺行為と言っても過言ではない。この状況下だからこそ、エミル達は最大戦力で8時に行われるという集会に望まなければいけないのだ――。

 バロンの言い分を聞いたマスターは意味ありげな笑みを浮かべ。

「ふふふっ、そうか。バロンは怖じ気づいたか……ならば仕方あるまい」
「……なんだと?」

 マスターの挑発的な言動に、眉をひそめバロンは鋭い眼光を飛ばしている。

 だが、マスターはそれを察しながら、なおも挑発的な言葉を吐き出す。

「まあ、よい。怖じ気づいた者がともに来たところで足手まといになるだけだ。そうだろ? メルディウス」

 視線だけでメルディウスに合図を送るマスター。

 彼の意図を察したようにしたり顔をする。

「なるほど、そういうことか……ふん! 所詮は自分の兵に囲まれていなければ何もできないヘタレだな。まあ、しかたねぇーか。四天王の中でも戦闘技術が一番ないお前じゃなー。いつも女だからと馬鹿にしている紅蓮より戦えないもんな。お前……怖くて夜の街にも行けない様な臆病者なんて、同じテスターとして恥ずかしいかぎりだぜ!」

 メルディウスの発言が紅蓮を馬鹿にされていることが原因かどうかは分からないが、メルディウスはこれでもかというくらいにバロンを罵倒した。
 ここまで言われて穏やかで居られるほど、バロンは温厚な人間ではない。むしろ全く正反対の性格の持ち主だ。罵倒され蔑まれたまま黙っていられるほど、彼は人間ができてはいない。

 ピリピリと肌を刺すような張り詰めた雰囲気に、当の本人達以外は萎縮している。その直後、ぷるぷると怒りに身を震わせていたバロンが、突如勢い良くテーブルを叩く。

 立ち上がった彼は、メルディウスを指差しながら叫ぶ。

「いいだろう! 俺様も同行してやる! そこまで言われては俺様のプライドが許さん!!」
「ほう。そうか、分かった」
「ふん! 行きたいなら最初からそう言えよな。面倒な奴だ」

 バロンの言葉を聞き、2人は満更でもなさそうにニヤリと微かに笑みを浮かべている。

 一時は乱闘にまで発展するかと思われたが。なんだかんだで、彼等の関係はこれで成り立っているのだろう。
 その後、出立の準備を終える頃に、エミルは一度星の寝ている寝室を覗く。すると、寝ている星の枕元でレイニールが両手足を投げ出すようにして、口を開けたまま寝息を立てている。

 おそらく。星が目を覚ますのに待ちくたびれて寝てしまったのだろう。しかし、それにしても何とも無警戒な姿に、一瞬飼い猫なのかと見間違えるくらいだ。

 そんな星達を見ていて、エミルはくすっと笑みを漏らすと、起こさないようにゆっくりと扉を閉めた。
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