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未知なる力の解放6

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 城で皆の帰りを待っていた彼女にとって、さっきの言葉は頼りにされていないと感じたのかもしれない。

 すぐにそれを察したエミルが笑みを浮かべ。

「相当な混戦状態だったのよ。あの状況じゃ空でも飛べないと来れないわ。合流するなんてもっと無理よ。それにいくらイシェでも、スキルが使えなきゃ戦えないでしょ?」
「……そないなこと……」

 掻き消えそうなほど小さな声で、悔しそうに呟くイシェルの頭をエミルが優しく撫でると、まるで気持ち良さそうに甘える猫の様に、イシェルは目を細めた。

 その時、エミルの耳にメルディウスとマスターの会話が聞こえてきた。

「そうだメルディウスよ。千代の紅蓮達は大事ないか? こっちがこの有様だ、向こうも相当だろう」

 それを聞いたメルディウスは高笑いをしながら、マスターに向かって言葉を返す。

「はっはっはっ! 大丈夫だぜ。今朝紅蓮の奴から連絡があって、ピンピンしながら『こっちのことよりも、貴方はマスターに失礼な態度を取ってないでしょうね?』と憎まれ口を叩くくらいだ――それにだジジイ。俺達は仮にも千代の頭を張っているギルドだぜ? メンバー全員、狩りで鍛えられた凄腕揃いの強者達だ、そんなのに、にわかのLv100の底辺プレイヤーが束になっても勝てるわけないだろう」

 自信満々にほくそ笑んで言ったメルディウスのセリフには不思議な説得力があった。

 確かに今回の事件で使われた『村正』は、手にしたプレイヤーがどんなに低レベルでもMAXに引き上げる効果を持っていた。
 しかし、それは理性を持たない戦闘兵器へと変貌させてのもので、言わば人の姿をした人形モンスターと何ら変わらない。しかもそれだけではなく、武器破壊により容易にその状態を解除できるという分、手練のベテランプレイヤー達からしてみればたいした相手ではなかっただろう。

 ギルドマスターが桁外れの強さを持つ彼であるわけだから、そこに属するプレイヤーが弱い訳はない。まあ、彼から滲み出る強者にしかないオーラが、彼の発する言葉にまで現れているのだろう。

 マスターは口元に笑みを浮かべ「そうだな」と小さく呟くと、エミル達の方へと振り向く。

 ゆっくりを歩みを進めながら声を大にして叫ぶ。

「これから儂と街に物資の補給に行く者達を決める。皆、集まってくれ!」

 その声に、キッチンに居たエリエや、リビングのソファーに寝転んでいたミレイニがテーブルに着く。

 全員が居るのを確認して、ごそごそと何かを取り出すと徐に握り拳を突き出す。その拳の中には、先の出た複数の紐が握られていた。

 マスターは険しい表情を崩さずに、至って真面目な声音で皆に告げる。

「これの先に赤く印が付いた物が3本ある。儂を含めた他3名が街に買い出しにいく事になる」
「ちょっと待って下さい!」

 彼のその提案に異を唱えたのはカレンだった。

 カレンは自分が無条件で、マスターと一緒に行けるものだと思っていたのだろう。
 大きな声を出したカレンに、皆の視線が集中した。しかし、カレンはそれに物怖じする様子もなく言葉を続ける。

「どうして俺が一緒に行けないんですか!? 街も安全じゃありませんし。こういう時は連携を取りなれている人と組む方がいいと思います!」

 立ち上がり、身を乗り出し気味で切実に訴えるカレン。
 
 だが、マスターは至って冷静だった。

「まあ、カレンの言う事も一理あるが、この時間を利用してメルディウスやバロン達とも交流できればと思ってな。クジに当たればあやつもやらざるを得ないだろう」

 マスターは横目でちらりとバロンを見ると、彼は不機嫌そうに目を逸らすが、そんな兄に変わって妹のフィリスが何度も頷く。

 次にメルディウスと小虎の方に視線を向けると、彼等も異論はないのか深く頷いた。
 彼等の反応を見たマスターは満足した様に頷き返すと、突き出していた腕を更に伸ばし。

「さあ、引け!」

 声を大にしてマスターが叫ぶ。

 先にメルディウス、小虎が拳から出ている紐の先を掴んで同時に引っ張る。が、残念ながら2人の取った紐の先には何も付いていない。

「うむ……2人ははずれのようだな。ならば次だ!」

 次にエリエが引く。だが、それもはずれだった――。

 っと、ふとエリエの後ろからミレイニが現れてクジに手を伸ばす。しかし、それを既の所でエリエが伸びてきた腕を掴んで止める。

 ミレイニは不服そうにエリエを睨みつけると大きな声で叫んだ。

「なんで止めるし! あたしもクジ引きたいし!」
「クジ引きたいって……あんた。話聞いてなかったの? これは街に行く人を決めるクジなのよ!?」

 頬を膨らませながら不服そうに腕を上下にブンブンと振っているミレイニにエリエが言うと、ミレイニはエリエの腕を振り払って腰に手を当て堂々と胸を張った。

「そんなの分かってるし! でも結局。街に遊びに行くわけだから、同じだし!」

 その言葉を聞いてエリエも額を押さえ大きなため息を吐き出す。同じようにその場に居た者達も呆れ顔で小さくため息を漏らしていた。
 まあ、彼女からしてみれば、昨晩の出来事を見ていないのだから無理はないのだが、大体の雰囲気で状況を察することができないのはミレイニらしいと言えばらしいのだろう……。
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