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ライラの正体17

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 そう。元からライラは勝敗に関係なく、この場を離脱して星とエミルを引き離すことにライラの真の狙いがあったのだ。言うならば、この戦闘は元々何の意味も持たない茶番だったということだ――。

 エミルは目を見開くと、怒りで眉間にしわを寄せてライラに右手を向ける。すると、すぐに反応したリントヴルムZWEIがライラへと襲い掛かった。

「――そうか、そうだったのか……待ちなさい! ライラ!!」

 顔を真っ赤にさせてエミルが叫ぶ。その直後、リントヴルムZWEIの持っていた薙刀が徐々に形を変えた。
 薙刀だった刃は大きく折れ曲がり、その刃を覆う様に吹き出した黒い炎が新たな刃を形作っていく……それはまるで、死神が持つ大鎌の様な形状だった。

 向かってくるエミルを見下ろすように、空中で余裕な表情で微笑みを浮かべるライラ。

「ライラーッ!!」
 
 刹那の速さでリントヴルムZWEIが上空にいるライラへと激突する。

 だが、リントヴルムZWEIが彼女のいた場所に達した時にはすでにライラの姿はどこにもなかった。

「あの……くそ女……最初からそのつもりで……」

 肩を震わせ、エミルは悔しさのあまり拳を強く握り締めている。

 悔しくて悔しくてエミルの瞳から涙が止めどなく溢れ出してくる。

 何よりも憤りを感じていたのはライラではなく、その考えに及ばなかった自分自身だ――星が苦しんでいる姿が、亡くなった妹と重なって冷静さを欠いていた。

 本来ならば、ライラが約束を守るような殊勝な女でないことは、エミルが一番理解していたはずなのだ。
 俯きながら肩を震わせながら、自分の握り締めた手の甲に涙が垂れるのを眺め。その後、エミルは悔しそうに歯を噛み締めると空に向かって叫んだ。

「くそおおおおおおおおおおお!!」

 エミルのどこにも行きようのない悲痛な叫びは、静かで広い空にどこまでも響いていた。


 エミルとの戦闘を終え研究室に戻ったライラは装備欄でボロボロになった服から、肩と胸元の大きく開いて胸だけを覆い腹部を露出した黒のインナーと、その細くてスラッと伸びたモデルの様な脚をピッチリと黒いパンツという私服に切り替えると、その上に白衣を羽織る。

 ライラはモニターの前に座ると、モニター下の操作パネルに手を置いた。

「さて、お仕事の時間ね……」
『ライラ君。彼女はどうしたんだい?』
「ああ、あの子なら今頃――ふふっ、泣きべそかいてるかも♪」

 悪戯な笑みを浮かべたライラが、荒野に取り残されたエミルの泣き叫ぶ光景を想像してくすっと笑う。

 そんな彼女に、モニターの男が言った。

『私が言うのもなんだが、あまり人の気持ちをもてあそぶのはいかがなものかと僕は思うよ』
「あら、この仕事はそういうものだと思ってましたけど? それに嘘は女にとって、涙の次に最大の武器なんですよ?」
『ははっ、そうか。そうかもしれないね……さて、話が逸れてしまったが、そろそろ本題に入ろうか』

 急に真面目な声音に変わった男に、部屋の空気が引き締まる。

 ライラは言葉を返すことなく真剣な面持ちで頷いた。

『私達のこの作業に世界の全てがかかっている。このテロを最小限で終わらせよう!』
「ええ、もちろんです。その為にもこの子にはエクスカリバーを使いこなしてもらわないと……」

 声の漏れないカプセルの中に入って、叫びながら鉄の拘束具をきしませる程に身を反り返す星を見遣った。

『そうだね。今のままでは、この子に負担が大き過ぎる。本来ならこんな小さな子に任せる事じゃないんだけど……エクスカリバーは大空博士と同じ遺伝子系統の人間しか認証しない。あの人は人類の研究の100年先を見ていると言われるほどの科学者だった。彼が生きていれば、こんなハッキング程度でシステムジャックされる事もなかったはずなんだ……』

 モニターの男の声が震えている。

 それは星の父――大空融《おおぞら あきら》は優秀な科学者であり。そんな人物を失ったこと、また自分がまだ彼に追いつけていないことに対しての歯痒さからくるのかもしれない。

「この子記憶の復旧率15%元々残っていた記憶があったのが功を奏しましたね」
『ああ、この子の固有スキルとエクスカリバーとのシンクロ率はどうだい?』
「そちらは変わらず30%を行ったり来たりですね」
『……そうか。少しでもあの子の負担を緩和するように、このプログラムを……』

 忙しなく操作盤を叩いているライラの横にある転送装置にガラス製の注射器が現れた。

 カプセルが開き、中からけたたましい叫び声が部屋中に響き渡る。
 眉をひそめながらライラはナイフで軽く星の細い腕を斬り付けると、激しく暴れていた星が次第に大人しくなり眠りに落ちた。

 その隙に注射器を持つと、気を失いながらも苦痛に顔を歪める星に投与する。すると、しばらくして歪んでいた表情が少しだけ和らぐ……。

 そんな星の安らかな表情を見て、ライラは安堵の表情を浮かべた。

 ライラは星の乱れた髪を整えると、タオルで汗を拭う。

「――ごめんなさいね。辛い思いをさせて……でも、これもエミルの考えを改めさせるのに必要な事だったの。許してね……」

 そう呟くと、星の頭を優しく撫でた。

「……必ず貴女の記憶を全て戻してあげるからね」

 その後、決意に満ちた表情でモニターに向かい忙しく操作盤を叩く。
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