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アジトへの潜入9

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 そんな押し問答が続いているのを見て、エリエとサラザが彼等を放置したまま話を続ける。

「でも、スイフトって私と他に誰がいるの?」
「そうね~。私はタフネスを選択してるし……孔雀マツザカはどう?」

 2人は無言のまま、腕を組んで立ち尽くしている孔雀マツザカの方を向く。

 孔雀マツザカは無言で、口元に微かな笑みを浮かべ親指を立てた。それを見て、サラザとエリエは希望に満ち溢れた表情で頷く。

「なら、私と孔雀マツザカさんが先に突入して、サラザとレイニール。ガーベラさんで……」

 その直後、サラザに抱えられている全身を縄でぐるぐる巻きにされていた少女が声を上げる。

「あたし! あたしもスイフトだし! 協力するから、この縄を解いてほしいし!」

 ここぞとばかりに、声を大にして熱い視線をエリエに送る少女に向かって、エリエは素っ気なく視線を逸らす。

「ああ、あんたには聞いてないから……」
「そ、そんな~。ひどいし、あんまりだし……なら、あたしはどうしたら解放されるんだし~」
「う~ん。全部終わってエミル姉の城に着いたら?」

 エリエのその言葉を聞いて、頬を膨らませて不服そうに言った。

「いや~。放してほしいし! てか、さっきからあなたのせいで、あたしの中のあなた達への信用度がガタ落ちだし!」
「ほぉ~」

 そう言い放った少女に、エリエは不敵な笑みを浮かべると、手をわきわきと動かしている。

 少女はエリエのその表情を見て、怯えたように顔を引き攣らせた。その直後、やはりエリエによって少女の頬が引き伸ばされ。

「ほうほう。そもそもあんたに拒否権はないんだけど~?」
「――いはい、いはいひ~。あはひであほぶのやめへほひいひ~」
「本当にあんたは楽しい子ねぇ~」

 少女の頬を引っ張って笑っているエリエを見て、サラザが普段とは明らかに違うエリエを不安そうに見つめている。

 いつもデイビッドと言い争いなどをしていたエリエだったが、今日の彼女はそれに輪を掛けて激しい。

 っと言うか星への態度もそうだが、普段の彼女は年下に優しいはずなのだが……。

「……エリー?」
「んっ? なに? サラザ」

 頬を引っ張ったままエリエが振り返る。

「エリー。あなた……星ちゃんの事が心配でたまらないんでしょ? だから、その子で気を紛らわしている――違う?」

 サラザのその言葉を聞いて、驚いた様な表情のエリエは、咄嗟に少女の頬から手を放した。 
 核心に迫る問い掛けに動揺を隠しきれず、エリエは慌てて視線を逸らす。

 それもそうだろう。サラザの言ったことは殆ど真実に近い。
 どうしても目の前で星を誘拐され、為す術なくそれを見ているしかなかったエリエには、言葉では言い表せないほど責任を感じていた。

 いい意味でも悪い意味でも彼女は真面目なのだろう。どうにかなりそうな心を少しでも何かで紛らわせることで、平静に保とうとしてじゃれ合っているとしか思えない。

 そんなエリエに、サラザが言葉をぶつける。

「……現実から逃げても。あの子は戻って来ないわよ? エリー」
「サラザ! それ以上言わないで!!」

 エリエは咄嗟に耳を塞ぐと、その場に座り込んだ。

 そんな彼女の肩を掴むと、サラザが叫ぶ。

「いいえ、私は何度でも言うわ! エリー、現実逃避をしてはダメよ! しっかり現実を見て!」
「――分かってるよ! でも……でも……カレンにデイビッド、カルビさんまで居なくって……エミル姉も来ないし。この子も星の情報を全く知らない。全然思い通りにいかないのよ……私はどうしたらいいの……」

 項垂れた彼女の頬を大粒の涙が伝う――。  

 エリエにとって、今回の作戦は星を助け出すだけという容易な考えしかなかった。しかし、実際にふたを開けてみると全く違っていた。

 まあ、あれだけのことが一度に起これば誰でも混乱するし、端から彼女の頭には、仲間を失うという想定はしていなかったのだろう。

 だが、結果は次々に襲い掛かる敵に、次々に消えていく仲間達。
 そして、アジトへの侵入には成功したものの。一向に終焉が見えない現状に、彼女の頭の中では最悪のシナリオが渦巻いていた。

「……あの時、私が星を外になんて連れ出さなければ……あの時、私が檻さえ破壊出来てれば……こんな事にはならなかったのに!」

 そう呟くと、エリエは怒りに任せ握り締めた拳を地面を強く叩きつけた。

 その姿を見ていたサラザが表情を曇らせていると、地面に置かれた少女が口を開く。

「……情けないし」

 泣きながらどこにもぶつけようのない憤りを地面に吐き出しているエリエを見ていて、毒づいた少女の言葉に、エリエの体がぴくっと反応する。

 今までの態度とはまるで別人のように、少女は俯き加減で冷たく言い放つ――。

「――なんだか、もっと待遇いい所に連れて行ってくれそうだから我慢してたけど……もういいし。切り裂け……」

 少女が小声でそう呟いた瞬間。一陣の風が吹き荒れ、少女の全身を縛っていた縄を切り落とす。
 自由になった少女は徐ろに立ち上がると、その肩に今までいなかったはずの小さな白い毛並みのイタチが乗っている。
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