上 下
301 / 503

アジトへの潜入7

しおりを挟む
 少女の頬は柔らかく、まるでつきたてのお餅の様に良く伸びる。

「いっ、いはいし! はらひて~!!」

 サラザは少女の頬から手を放すと、少女が涙ながらに訴える。

「うぅ……女の子なんてしらないし……こんなのありえないし……ぐすっ……てかあたし。まだ、なにもしてないし……」

 その直後、少女の瞳から我慢していた大粒の涙を一気に流れ出し。

「最初からやりなおしてほしいし~」

 っと大声で叫ぶと、少女はわんわん泣き始めた。

 エリエはその様子を見ていて眉をひそめながら、サラザ達に告げる。
 
「――この子、本当に星の事を知らないみたいだし。なんか、凄い泣いてて、見てて可哀想になってきたんだけど……」
「確かに……サラザ。ちょっと強くやり過ぎたんじゃない?」

 エリエとガーベラがそう言ってサラザの方を向く。

 サラザは両手を振って否定する。

「はぁ~。なら仕方ない……」

 エリエはため息を漏らすと、サラザに耳打ちする。

 それを聞いたサラザは、大きなため息をつくと少女を肩に担いだ。

 突然担ぎ上げられた少女は驚き、両足首を縛られた足をできる限り動かし、まるでエビの様に仰け反る。

「いや~! 放してほしいし!」
「ごめんなさいね~。とりあえず。あなたをこのままここに残すわけにはいかないのよ~」
「えっ!? そんなのあたしに関係ないし! 放して~。降ろしてよ~」

 少女は必死に足をバタつかせるが、非戦闘状況の城の中では、サラザには……いや、もしそうじゃなかったとしても、筋肉隆々のサラザに抗う術はない。

 何故なら、サラザと少女には圧倒的な違いがある。それがヒューマンとボディービルダーという決して揺らぐことのない種族の違いだ――。

「さて、この階には用事もないし。次に行きましょ~」
「そうね。時間もないし」
「じゃが、本当にこの娘も連れて行くのか?」

 そう首を傾げて尋ねるレイニールに、話していたエリエとサラザが頷くと、次の階の階段へと向かって歩き出した。

 サラザの肩に担がれながら少女は泣き叫ぶと、それを見てどうすればいいか分からず、その場におすわりしている幻獣ケルベロスに向かって叫ぶ。

「やだやだ。こんなのありえな~い! エリザベス! エリザベス~!!」

 泣きながら必死に呼びかける主に、頭が3つの幻獣は「グルルル」と喉を鳴らすことしかできなかった。
 抵抗虚しく連れていかれる少女は、最後まで頭が3つの幻獣の名前を叫びながら階段へと消えていった。
 
 エリエ達は薄暗い階段を上がっていく。その最中、サラザの脇に抱かれながら静かに泣き続けている少女に、イライラしていたエリエが声を荒らげた。
 
「あ~もう! ほら、泣かない! なんか私達が悪者みたいじゃない!」
「だ、だって……ぐすっ……だってぇ~」

 また大声で泣き出す少女に、エリエは困り果ててため息を漏らす。

 少女は泣きながら言葉を続けた。

「……どうして、あたしが……こ、こんな目に合わないと……いけないの? 本当は……エリザベスの背中で、颯爽と……颯爽と戦うはずだったのにぃ~」

 少女は途切れ途切れにそう言って、また激しく泣き始めた。

 だが、実際。もしも少女がケルベロスを動かしてエリエ達に襲い掛かっていたら、敵の拠点内で武器の使えないエリエ達は間違いなく全滅していただろう。

 正直、少女がマドレーヌに誘き出されてくれるバカで助かったと言わざるを得ない。

 号泣している少女に、エリエが呆れながら言葉を返す。

「どうしてって……あなたがマドレーヌに釣られたからでしょ? それにこうでもしないと、あのケルベロスに襲われてたし。この城の中を案内してもらないと、私達が迷っちゃうでしょ?」
「知らない知らない! そんなの知らない! あたしにはそんなの関係ない!」

 少女は足をばたつかせながら叫んだ。

 全力で拒否している少女に、エリエが諭すように言った。

「だって、あなただってこの組織に居たら、犯罪者になっちゃうんだよ? 三食お菓子付きの生活がしたいだけなら、ここじゃなくてもいいでしょ?」 
「――うぅ……犯罪者になるのは嫌だし……」
「でしょ? なら星を助けたら私達と一緒に行こ。ねっ?」
「……お昼寝も付けてほしいし」

 少女は泣き止み、膨れっ面をしてぼそっと呟く。

 エリエは呆れながらも優しく微笑んで「後でお菓子作って上げるからね」と少女の頭を撫でた。

 それからしばらくの間。窓のない漆黒の闇の中、どこまでも続く長い階段を進んで行くと、サラザの脇に抱かれていた少女が言った。

 遠慮しながら、サラザの顔色を窺うように……。

「あの~。そろそろこの縄を解いてほしいし…………ねぇ~」
「ダメ」

 そのお願いをサラザではなく、エリエが即座に否定する。

 早すぎるエリエの返答に、少女は不服そうに頬を膨らませ声を荒らげた。

「なんで!? てか、もうちょっと考えてから言ってほしかったし!」
「だって、あなたが逃げないとは限らないでしょ? だから我慢して……」
「我慢できないし~」

 さすがに我慢の限界なのか、少女は無理やり縄を解こうと、これまでにないほど身悶える。
 まあ無理もない。下の階からおそらく30分以上は歩き続けている。彼女は星よりも年上だが、その精神年齢の方は星よりもずっと幼いのだろう。

 普通ではない。異常とも言える日々を生きてきた星と、平凡に何も考えることなくわがままを言って生きてきた年相応の子供の忍耐力では耐えられる限界を等に超えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

烈火の大東亜

シャルリアちゃんねる
SF
現代に生きる男女2人の学生が、大東亜戦争[太平洋戦争]の開戦直後の日本にタイムスリップする。 2人はその世界で出会い、そして共に、日本の未来を変えようと決意し、 各海戦に参加し、活躍していく物語。その時代の日本そして世界はどうなるのかを描いた話。 史実を背景にした物語です。 本作はチャットノベル形式で書かせて頂きましたので、凝った小説らしさというより 漫画の様な読みやすさがあると思いますので是非楽しんでください。 それと、YOUTUBE動画作製を始めたことをお知らせします。 名前は シャリアちゃんねる です。 シャリアちゃんねる でぐぐってもらうと出てくると思います。 URLは https://www.youtube.com/channel/UC95-W7FV1iEDGNZsltw-hHQ/videos?view=0&sort=dd&shelf_id=0 です。 皆さん、結構ご存じかと思っていましたが、意外と知られていなかった、第一話の真珠湾攻撃の真実等がお勧めです。 良かったらこちらもご覧ください。 主に政治系歴史系の動画を、アップしています。 小説とYOUTUBEの両方を、ごひいきにして頂いたら嬉しく思います。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。 「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」 「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」 「・・・?は、はい」 いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・ その夜。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...