295 / 541
アジトへの潜入
しおりを挟む
デイビッドを敵の真っ只中に残し、エリエ達は敵の本拠点を強襲するために夜空を進んでいた。辺りには敵の姿もなく、星と雲が流れていくだけで実に平和なものだ――。
だが、カレンに続きデイビッドまでも失ったのは、戦力的には痛手と言えるだろう。すると、ふとエリエの頭に残してきたデイビッドの姿が浮かぶ。
「……デイビッド。大丈夫かな?」
「大丈夫よ~。デイビッドちゃんは強いもの」
独り言のように呟いていたエリエに、サラザが優しく声を掛けてきた。
「わっ! サラザ!?」
驚いてビクッと体を震わせたエリエはサラザの顔をまじまじと見つめる。
サラザは微笑みを浮かべながら、エリエの隣に腰を下ろす。だが、無言で表情を曇らせたまま、ただ前だけを見つめているエリエにサラザは心配そうな顔をしている。
これから敵の本拠点に突入するという時に迷いがあっては、今後の作戦に差し支えが出るかもしれない。
そう考えたサラザは、隣で俯き加減に膝を抱えているエリエに優しく声を掛けた。
「エリー。デイビッドちゃんの事が心配なの?」
「……うん」
「戻りましょうか?」
そう提案して来たサラザに、すぐエリエは首を横に振って答えた。
サラザはその彼女の反応に少し驚いていた。
エリエの性格上、考えるよりも先に行動に出すタイプだ。こう言えば、間違いなくエリエのことだから「すぐに戻りましょ!」と言うはずだと勝手に思い込んでいた。
あまりのことに驚き、次に言おうとしていた言葉を忘れてしまっていたサラザに、エリエが迷いを断ち切るように首を振って告げる。
「……ううん。そんな事してらんない。早く星を助けなきゃ! その為にデイビッドもカレンも残ってくれたんだし!」
「そう、その意気よ~」
そのエリエの力強い声に、サラザはほっと胸を撫で下ろす。
すでに2人失い、残るはオカマイスターとエリエのみだ――戦力は大きく欠いたが、未だにオカマイスターは健在。ボディービルダーで構成されたオカマイスターがいれば、城に入ってからの肉弾戦が優位に行えるのに変わりない。
何故なら彼等はヒューマンよりも攻撃力、防御力共に秀でたボディービルダーて言う種族なのだから……。
雲を切り裂くように進んで行くレイニールの目に洋風の城が見えてきた。
その城は四方を崖に囲まれ、周りをツタの絡まった石造りの外壁に覆われていて、最上部は天を突き抜けるようにして不気味にそびえ立っている。
暗がりの中。城のあちこちに空いている小さな小窓から内部の光が漏れて、それがなんとも恐怖心を掻き立てていると言えた。
RPGで例えるなら、最終ボス面の魔王の城と言ったところだろう。
「……遂に来たわね~」
「うん」
2人は徐ろに立ち上がると、決意に満ちた表情でその城を見つめていた。
その時、辺りにレイニールの声が響く。
「これ以上は見張りに見つかるかもしれん。皆、我輩は敵の城の直上から接近する! しっかり掴まっておれ!」
そう告げたレイニールはしばらくして、羽を激しくはためかせると、急激に上昇を開始する。雲を突き破り更に上へ上へと昇ると、今度は月を背に平行に移動を始めた。
レイニールの金色の体は月を背にすれば、これ以上ないほどの迷彩になる。
月明かりを背に受け、レイニールの黄金の鱗がキラキラと光りを反射している。その姿は星龍という名に恥じないだろう。
レイニールは城に近付く毎に徐々に加速し、最後直上に来てからは、辛抱堪らずといった感じで、城に向かって降りて行く。
急降下するレイニールの背中にしがみつくエリエ達の瞳に、微かに慌てふためく敵の見張りの姿が見えた。
っと次の瞬間レイニールは叫ぶとそのままの勢いで城内部へと突撃する。
「――あるじいいいいいいいいッ!!」
――ドカーンッ!!
大きな爆発音と共に地響きが起こり、城の外壁を粉々に破壊する。
システムでもモンスター扱いになっているレイニールのような独立した存在が、建物を破壊することを予期していない。
だが、それは当たり前だろう。プレイヤーは個々に意思を持ち立ち回るが、NPCとモンスターに限っては設定した動きしか取らない――単にレイニールのような存在がイレギュラー過ぎるだけなのだ。
強引に城内部に侵入したレイニールはすぐに小さくなる。
なんとか無事に着地したものの、辺りには土煙が上がり敵味方構わず視界を遮っていた。
メンバー達はその煙に堪らず咳き込みながらも、必死に目を凝らす。すると、辺りに多くの敵が押し寄せてくる。見えたと言うよりは、駆けて来る足音を感じ取ったと言ったところだろうが。
辺りの土煙が収まるのと同時に、したり顔で笑みをこぼすエリエの青い瞳が輝き即座にレイニールに叫ぶ。
「――計画通り。レイニール! 人間モードよ!」
「我輩に命令するなこのバカタレ! それに人間モードでもないのじゃ! 変な名前を付けるな!」
文句を言いながらも、レイニールは小さなドラゴンから小学校低学年のくらいの女の子へと姿に変わり、手を腰に当て仁王立ちしている。
しかし、誇らしげにしていたその体はいつも通りの一糸纏わぬ姿なのだが、それでもレイニールは恥ずかしげもなく「はっはっはっ」と大声で笑っていた。
これだけ見てると、ドラゴンの時の威厳もクソもなく、風呂上がりに城内を走り回った挙句高笑いを上げるただ馬鹿な子供にしか見えない……。
だが、カレンに続きデイビッドまでも失ったのは、戦力的には痛手と言えるだろう。すると、ふとエリエの頭に残してきたデイビッドの姿が浮かぶ。
「……デイビッド。大丈夫かな?」
「大丈夫よ~。デイビッドちゃんは強いもの」
独り言のように呟いていたエリエに、サラザが優しく声を掛けてきた。
「わっ! サラザ!?」
驚いてビクッと体を震わせたエリエはサラザの顔をまじまじと見つめる。
サラザは微笑みを浮かべながら、エリエの隣に腰を下ろす。だが、無言で表情を曇らせたまま、ただ前だけを見つめているエリエにサラザは心配そうな顔をしている。
これから敵の本拠点に突入するという時に迷いがあっては、今後の作戦に差し支えが出るかもしれない。
そう考えたサラザは、隣で俯き加減に膝を抱えているエリエに優しく声を掛けた。
「エリー。デイビッドちゃんの事が心配なの?」
「……うん」
「戻りましょうか?」
そう提案して来たサラザに、すぐエリエは首を横に振って答えた。
サラザはその彼女の反応に少し驚いていた。
エリエの性格上、考えるよりも先に行動に出すタイプだ。こう言えば、間違いなくエリエのことだから「すぐに戻りましょ!」と言うはずだと勝手に思い込んでいた。
あまりのことに驚き、次に言おうとしていた言葉を忘れてしまっていたサラザに、エリエが迷いを断ち切るように首を振って告げる。
「……ううん。そんな事してらんない。早く星を助けなきゃ! その為にデイビッドもカレンも残ってくれたんだし!」
「そう、その意気よ~」
そのエリエの力強い声に、サラザはほっと胸を撫で下ろす。
すでに2人失い、残るはオカマイスターとエリエのみだ――戦力は大きく欠いたが、未だにオカマイスターは健在。ボディービルダーで構成されたオカマイスターがいれば、城に入ってからの肉弾戦が優位に行えるのに変わりない。
何故なら彼等はヒューマンよりも攻撃力、防御力共に秀でたボディービルダーて言う種族なのだから……。
雲を切り裂くように進んで行くレイニールの目に洋風の城が見えてきた。
その城は四方を崖に囲まれ、周りをツタの絡まった石造りの外壁に覆われていて、最上部は天を突き抜けるようにして不気味にそびえ立っている。
暗がりの中。城のあちこちに空いている小さな小窓から内部の光が漏れて、それがなんとも恐怖心を掻き立てていると言えた。
RPGで例えるなら、最終ボス面の魔王の城と言ったところだろう。
「……遂に来たわね~」
「うん」
2人は徐ろに立ち上がると、決意に満ちた表情でその城を見つめていた。
その時、辺りにレイニールの声が響く。
「これ以上は見張りに見つかるかもしれん。皆、我輩は敵の城の直上から接近する! しっかり掴まっておれ!」
そう告げたレイニールはしばらくして、羽を激しくはためかせると、急激に上昇を開始する。雲を突き破り更に上へ上へと昇ると、今度は月を背に平行に移動を始めた。
レイニールの金色の体は月を背にすれば、これ以上ないほどの迷彩になる。
月明かりを背に受け、レイニールの黄金の鱗がキラキラと光りを反射している。その姿は星龍という名に恥じないだろう。
レイニールは城に近付く毎に徐々に加速し、最後直上に来てからは、辛抱堪らずといった感じで、城に向かって降りて行く。
急降下するレイニールの背中にしがみつくエリエ達の瞳に、微かに慌てふためく敵の見張りの姿が見えた。
っと次の瞬間レイニールは叫ぶとそのままの勢いで城内部へと突撃する。
「――あるじいいいいいいいいッ!!」
――ドカーンッ!!
大きな爆発音と共に地響きが起こり、城の外壁を粉々に破壊する。
システムでもモンスター扱いになっているレイニールのような独立した存在が、建物を破壊することを予期していない。
だが、それは当たり前だろう。プレイヤーは個々に意思を持ち立ち回るが、NPCとモンスターに限っては設定した動きしか取らない――単にレイニールのような存在がイレギュラー過ぎるだけなのだ。
強引に城内部に侵入したレイニールはすぐに小さくなる。
なんとか無事に着地したものの、辺りには土煙が上がり敵味方構わず視界を遮っていた。
メンバー達はその煙に堪らず咳き込みながらも、必死に目を凝らす。すると、辺りに多くの敵が押し寄せてくる。見えたと言うよりは、駆けて来る足音を感じ取ったと言ったところだろうが。
辺りの土煙が収まるのと同時に、したり顔で笑みをこぼすエリエの青い瞳が輝き即座にレイニールに叫ぶ。
「――計画通り。レイニール! 人間モードよ!」
「我輩に命令するなこのバカタレ! それに人間モードでもないのじゃ! 変な名前を付けるな!」
文句を言いながらも、レイニールは小さなドラゴンから小学校低学年のくらいの女の子へと姿に変わり、手を腰に当て仁王立ちしている。
しかし、誇らしげにしていたその体はいつも通りの一糸纏わぬ姿なのだが、それでもレイニールは恥ずかしげもなく「はっはっはっ」と大声で笑っていた。
これだけ見てると、ドラゴンの時の威厳もクソもなく、風呂上がりに城内を走り回った挙句高笑いを上げるただ馬鹿な子供にしか見えない……。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀
黴男
SF
数百万のプレイヤー人口を誇るオンラインゲーム『SSC(Star System Conquest)』。
数千数万の艦が存在するこのゲームでは、プレイヤーが所有する構造物「ホールドスター」が活動の主軸となっていた。
『Shin』という名前で活動をしていた黒川新輝(くろかわ しんき)は自らが保有する巨大ホールドスター、『Noa-Tun』の防衛戦の最中に寝落ちしてしまう。
次に目を覚ましたシンの目の前には、知らない天井があった。
夢のような転移を経験したシンだったが、深刻な問題に直面する。
ノーアトゥーンは戦いによってほぼ全壊! 物資も燃料も殆どない!
生き残るためにシンの手にある選択肢とは....?
異世界に転移したシンキと、何故か一緒に付いてきた『Noa-Tun』、そして個性派AIであるオーロラと共に、異世界宇宙の開拓が始まる!
※小説家になろう/カクヨムでも連載しています
アンドロイドクオリア ~機械人形は小さな幸せを祈る~
沼米 さくら
ライト文芸
パツキンでガラの悪い不良女が、純朴なおもらしアンドロイド少女を拾う話。
電子工学技術が発達した世界。アンドロイドは人々に便利な「人権のない道具」として重宝されていた。
人間にはできないような遊びにも使われる、壊れても自動修復で治る、いくら壊してもいい、動いてしゃべる機械人形。
そんな世界で、一体の少女型アンドロイドが、ゴミ捨て場に転がっていた――。
結構ありがちな不良女×純朴アンドロイドの、ちょっとだけ哲学的な百合です。
全話執筆済み。一週間毎日投稿します。
カクヨム、ノベルアッププラス、小説家になろう、pixivにも掲載します。
【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-
双葉 鳴|◉〻◉)
SF
Atlantis World Online。
そこは古代文明の後にできたファンタジー世界。
プレイヤーは古代文明の末裔を名乗るNPCと交友を測り、歴史に隠された謎を解き明かす使命を持っていた。
しかし多くのプレイヤーは目先のモンスター討伐に明け暮れ、謎は置き去りにされていた。
主人公、笹井裕次郎は定年を迎えたばかりのお爺ちゃん。
孫に誘われて参加したそのゲームで幼少時に嗜んだコミックの主人公を投影し、アキカゼ・ハヤテとして活動する。
その常識にとらわれない発想力、謎の行動力を遺憾なく発揮し、多くの先行プレイヤーが見落とした謎をバンバンと発掘していった。
多くのプレイヤー達に賞賛され、やがて有名プレイヤーとしてその知名度を上げていくことになる。
「|◉〻◉)有名は有名でも地雷という意味では?」
「君にだけは言われたくなかった」
ヘンテコで奇抜なプレイヤー、NPC多数!
圧倒的〝ほのぼの〟で送るMMO活劇、ここに開幕。
===========目録======================
1章:お爺ちゃんとVR 【1〜57話】
2章:お爺ちゃんとクラン 【58〜108話】
3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】
4章:お爺ちゃんと生配信 【239話〜355話】
5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】
====================================
2020.03.21_掲載
2020.05.24_100話達成
2020.09.29_200話達成
2021.02.19_300話達成
2021.11.05_400話達成
2022.06.25_完結!
バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~
NEOki
SF
廃人ゲーマー『群雲疾風』は極めていた鬼畜ゲーのサービス終了によって生きがいを失っていた。しかしそんな中バーチャルアイドルとして活躍する妹から案件を受けたという今巷で大人気のフルダイブ型対戦ゲームを勧められ、難易度の低い一般ゲーでは満足出来ないと思いながらも善意を無碍にできず一日だけプレイしてみる事に。しかしその一日でまさかのプロリーグで活躍するトッププロとマッチングし、ゴミスキルだと思われていた0.1秒の無敵を鬼畜ゲーで鍛えた異常な動体視力により敵の攻撃へ合わせ続け勝利目前という所まで追い込む。しかし流石にトッププロの壁は厚くあと一歩が足りず敗北した疾風は、その対戦した№1プレイヤー『レッドバロン』と自らの間に大きな隔たりを感じ新たな鬼畜ゲーの発見に胸を踊らせたのであった。
そしてその後限定スキン目当てで参加したリアルイベントでセミプロレベルの選手を打ちのめし、怪しげな三人組に目を付けられた彼は巨大な黒いワンボックスカーへと引き摺り込まれ………?
ゲームに熱く成った事のある全ての人へ送るEスポーツ青春譚!!
毎日1話確定更新ッ!! お気に入り、評価等々を一つでも頂けたら一日2話更新ッ!!
ルキファナス・オンライン-素早さ極振り暗殺者は正義の味方!?
セフェル
SF
VRMMOが大流行しゲームで稼げる時代に普通の会社員だった黒月影也(くろつきえいや)は早期退職を決意。
ゲームで稼ぐ第二の人生としてβテスト段階で既に他のゲームを圧倒し、至高のVRMMOといわれた『ルキファナス・オンライン』の世界に降り立った。
サービス初日からプレイするも何故か厄介事に巻き込まれ平凡とは程遠いゲーム生活を送るハメに。
プレイするほどに『ルキファナス・オンライン』の魅力に引き込まれていく黒月影也の波乱万丈な冒険譚。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる