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紅蓮の宝物19

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 メルディウスは不敵な笑みを浮かべながら声を上げる。

「白雪! 俺が隙を作ってやる! お前はお前のタイミングで攻撃しろ!!」
「……くっ! メルディウス! そんな事をすれば紅蓮の身がどうなるか分かってるんだろうな!!」
 
 バロンはそう叫んで左手を掲げると、紅蓮の右脇の兵士が剣を突き付けた。

 だが、その直後。その兵士の腕が一瞬で斬り落とされた。
 どうやら白雪は最初からそのつもりだったようで、姿は見えないものの旋風の如く。黒い兵士の腕を即座に切り落とし、また気配を完全に消す。

 一瞬の間に起きたその光景を見ていたバロンの表情には、明らかに動揺の色が見て取れる。
 それもそうだろう。人は誰しも認識できない化物の類には、恐怖を抱くものだ――それは人の本質的なもので、生きている人間なら抗うことはできないものだろう。

 困惑するバロンに向かって、メルディウスはほくそ笑みながら告げた。

「勝負あったな、バロン。お前の負けだ……降伏しろ! そして俺達の傘下に入るなら、今までの事は全て許してやるよ!」

 上から目線でそう告げるメルディウス。

 すでに勝利を確信したかの様な彼の言葉を聞いたバロンは、不敵な笑みを浮かべ言葉を返した。

「お前達は、なにか勘違いしてるな……元々紅蓮は囮でしかないんだよ! 最後に勝つのは俺様だああああああああッ!!」

 バロンは雄叫びを上げると、森の中に散らばっていた兵士達がバロンの周りに集まってきた。その数は確実に減ってはいるものの、周囲にはまだかなりの数がいる。

 彼の言う通り、数の上ではまだバロンに利が残っている。たとえ紅蓮の身を保護したところで、鼠一匹通れないほどに周りを囲む兵士達をなんとかしないことには動きが取れない。

 しかも、追い込まれ明らかに平静を欠いているバロンが、握り締めた大剣をメルディウスに向け。

「数こそ力だ! 俺様のこの兵団を駆使すれば、お前達なんて虫ケラ同然なんだよ!!」
「――バロン!!」

 狂ったように叫ぶバロン目掛けて、メルディウスは錆びた剣を手に斬り掛かった。

 直ぐ様、大剣を振り上げ向かい打つバロン。

「うおおおおおおおおおおッ!!」
「そんななまくらで! この俺様がやられるわけないだろうがッ!!」

 2人は雄叫びを上げると、お互いの得物の刃が激突する。
 直後。メルディウスの持っていた剣が、バロンの持つ剣とぶつかった衝撃で粉々に砕け散った。

 メルディウスは持っていた剣の残った柄を投げ捨てると、右腕でバロンの左腕を掴んだ。

「これでお前も終わりだな! 散々弄んでくれたな。俺の目の前で紅蓮に手を出して……覚悟はできてるんだろうな、この蟻野郎!!」

 その殺意に満ちた声色と鋭い眼光に、バロンは狼狽える。

 次に彼が何をしようとしているのか、バロンにははっきりと分かっているのだろう。

「くっ! うるさい! 獣の分際で、俺に……俺様に触れるんじゃない! 離れろッ!!」
 
 バロンの大剣がメルディウスの左の脇腹の鎧の隙間を捉えたのと同時に、今度は大剣を握っているバロンの右腕を掴んで動きを封じた。

 その直後から脇腹の鎧の隙間に突き刺さった大剣によって、メルディウスのHPバーが大きく減少を始めたが、メルディウスは一向にその手を放そうとしない――。

「正気か!? 俺様の腕を放さなければお前は死ぬんだぞ!? 死ぬのが怖くないのか貴様!!」

 取り乱したように、情けない声を上げながら必死に叫ぶバロン。

 メルディウスは彼が動く度に脇腹に食い込み、HPを減らす刃の苦痛に表情を歪ませながら、そんな彼に言葉を返す。
  
「ああ……怖かねぇ……な。俺には信じている仲間がいるんでよ……」
  
 その時、メルディウスの背後から漆黒に輝く物体が飛んできた。

 それを見たメルディウスの口元が微かに緩む。

「ふん……遅えんだよ。バカやろぉ……」

 メルディウスは力無くそう呟いて項垂れる。

 その直後、メルディウスの横を高速で何かが通り過ぎたかと思うと、次の瞬間にはバロンは地面に倒されていて、その上にはマスターが馬乗りの状態で覆い被さっていた。

「……バロン。今すぐにスキルを解除せよ……抵抗するならば、儂はおぬしの頭を吹き飛ばさねばならん……」

 マスターはバロンの顔を右手で掴んでそう告げると、その右手から漆黒のオーラが立ち上る。その殺意を含んだ声に諦めたのか、バロンは無言のままスキルとP∨Pを解除した――。

 周りの黒い鎧の兵士達とメルディウスのHPが回復したのを確認すると、マスターはバロンの顔から手を放した。
 戦意を喪失して意気消沈しているバロンを横目に、地面に膝を突いたままのメルディウスが、ほっと息を吐くと傷の残っている脇腹を擦りながら紅蓮の方に向く。

 白雪の手によって助けられた紅蓮だったが。まだ痛むのか、傷口を押さえながら申し訳なさそうに、マスターの元へとやって来た。

「……マスター。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。私の軽率な行動で、マスターの作戦を台無しにしてしまって……」
「もう良い。それよりも、その傷を治すことを考えなければな。ホテルに戻ったら、少し長めに風呂に入るといい」

 今回の件を気にしていないというように優しく微笑みながら、そう告げるマスター。

 その言葉に紅蓮はほっとしたように安堵したのか、固かった表情を和らげる。
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