246 / 503
紅蓮の宝物
しおりを挟む
道の両端に広がる商店の列――その軒先では、各店の店主が行き交う人々を我先にと呼び込んでいた。
昨晩もバルコニーで見ていて、その時にはまるで別の世界の光景だったが、こうして目の当たりにすると、まるでこちら側が現実の世界なのではないかと思えるほどの活気あふれる光景に、なんだか新鮮な感じすら覚える。
その光景を小虎と少女は、まるで数日振りに散歩に連れ出された犬の様なキラキラとした瞳で辺りの店先を見つめている。
好奇心に満ち溢れた小虎と少女は、紅蓮が『好きなところに行っていい』と一声掛ければ、今にも飛び出していきそうなくらいだ――。
「いいですか2人共、羽目を外しすぎず。本来の目的は忘れないようにしてくださいね?」
キラキラとした瞳で妙にそわそわして落ち着かない様子の2人に、紅蓮が告げると。
「わっ、分かってるぜ! 姉さん」
「そっ、そうですよ! いいですか? 紅蓮ちゃん。小虎くん。私の言う事を良く聞いて、はぐれないようにしてくださいね!」
年長者としてのプライドがあるのか、少女は今にも飛び出していきたい気持ちを必死で抑えている。しかし、その声は我慢しているからか少し震えていた。
紅蓮は小さくため息をつくと「行きましょう」と落ち着いた様子で歩き始めた。その後ろを続くように小虎が付いて行くと、それを見て少女はため息を漏らした。
「はぁ~。私の方がお姉さんなはずなんだけどなぁ~」
そう不満を呟いて肩を落としながら、少女もゆっくりと歩き始める。
名御屋の街には多くのプレイヤーが経営している店があり、人通りも始まりの街に比べると段違いに多い。昨晩この街に着いた時も人が多いと思ったが、夜と昼を比べるとその差を改めて思い知らされる。
だが、それは必ずしもここ名御屋にプレイヤーが集中しているからというわけでもない。
それどころか、プレイヤーの数だけでいえば、ゲームを初めて真っ先に飛ばされる始まりの街の方が圧倒的に多いだろう。
それなのにどうして、これほどの違いが出るかというと、その理由はただ一つ――始まりの街と名御屋に居るプレイヤーの質の差である。
フリーダムで始まりの街は日本の東京の場所に位置しており、その名前から分かる通り、初心者が一番最初に入る街でもある。
その為、他の都市よりも人口密度は多い――が、殆どは始めたばかりのプレイヤーや、それを勧誘する為に集まったギルドのメンバー。またはブラックギルドに所属している無法者達で基本的な戦力は低いと言えた。
しかし、名御屋は豊富なアイテムとプレイヤーの平均レベルも85以上と高水準を誇っている。
これは他の都市でも同じで、著しく平均レベルが低いのは始まりの街くらいなものだ――他の都市も事件が起きた翌日には困惑を見せていたが、数日後には普段通りの光景が戻っていた。
ログアウトできないという危機的状況も、楽しめるというのが高レベルプレイヤーからくる余裕というものなのだろう。
3人が辺りを見渡しながら歩いていると、不意に小虎が口を開いた。
「――ここは千代よりも人多いよね。どうしてだろう?」
その質問に答えるように紅蓮が言葉を返す。
「そうですねー。ここ名御屋はアイテム類が特区に指定されている為、他より安く買えます。更に珍しいアイテムも多く売られているので、幅広いレベルのプレイヤーが来ているんでしょうね」
紅蓮は辺りの店に目を向けながら更に言葉を続ける。
「私達のギルドの拠点でもある千代の街も特区に指定されてますが、武器、防具でも特定の物だけです」
「特定の物? それって例えばどんな物なの?」
紅蓮の話を聞いていた少女が不思議そうに尋ねてきた。まあ、露骨に『特定の物』などという発言をされれば、彼女が気になるのも無理はないだろう。
その質問に、素早く紅蓮が「日本らしい物でしょうか」と答えると。
「日本らしい物って?」
っとその言葉がそのままオウム返しのように返ってきた。
さすがに、最初の言葉で納得すると考えていた紅蓮は、彼女のその返しに少し考えるような素振りで顎に指をつける。
そして、徐に首を傾げてこちらを見ている彼女に言った。
「――そうですねー。説明すると、装備なら刀や槍、弓など。防具ならば武士の甲冑、忍者の着ている鎖帷子などですかね。ああ、着物やかんざしのような装備アイテムなんかもありますね」
「へぇー。なんか紅蓮ちゃんに似合いそうな物ばかりだねっ!」
にっこりと微笑み掛ける少女に、紅蓮は恥ずかしくなり頬を少し赤らめながら思わず視線を逸らす。
どうやら紅蓮は『美しい』という言葉だけではなく。他人に褒められることには、めっぽう弱いらしい……。
昨晩もバルコニーで見ていて、その時にはまるで別の世界の光景だったが、こうして目の当たりにすると、まるでこちら側が現実の世界なのではないかと思えるほどの活気あふれる光景に、なんだか新鮮な感じすら覚える。
その光景を小虎と少女は、まるで数日振りに散歩に連れ出された犬の様なキラキラとした瞳で辺りの店先を見つめている。
好奇心に満ち溢れた小虎と少女は、紅蓮が『好きなところに行っていい』と一声掛ければ、今にも飛び出していきそうなくらいだ――。
「いいですか2人共、羽目を外しすぎず。本来の目的は忘れないようにしてくださいね?」
キラキラとした瞳で妙にそわそわして落ち着かない様子の2人に、紅蓮が告げると。
「わっ、分かってるぜ! 姉さん」
「そっ、そうですよ! いいですか? 紅蓮ちゃん。小虎くん。私の言う事を良く聞いて、はぐれないようにしてくださいね!」
年長者としてのプライドがあるのか、少女は今にも飛び出していきたい気持ちを必死で抑えている。しかし、その声は我慢しているからか少し震えていた。
紅蓮は小さくため息をつくと「行きましょう」と落ち着いた様子で歩き始めた。その後ろを続くように小虎が付いて行くと、それを見て少女はため息を漏らした。
「はぁ~。私の方がお姉さんなはずなんだけどなぁ~」
そう不満を呟いて肩を落としながら、少女もゆっくりと歩き始める。
名御屋の街には多くのプレイヤーが経営している店があり、人通りも始まりの街に比べると段違いに多い。昨晩この街に着いた時も人が多いと思ったが、夜と昼を比べるとその差を改めて思い知らされる。
だが、それは必ずしもここ名御屋にプレイヤーが集中しているからというわけでもない。
それどころか、プレイヤーの数だけでいえば、ゲームを初めて真っ先に飛ばされる始まりの街の方が圧倒的に多いだろう。
それなのにどうして、これほどの違いが出るかというと、その理由はただ一つ――始まりの街と名御屋に居るプレイヤーの質の差である。
フリーダムで始まりの街は日本の東京の場所に位置しており、その名前から分かる通り、初心者が一番最初に入る街でもある。
その為、他の都市よりも人口密度は多い――が、殆どは始めたばかりのプレイヤーや、それを勧誘する為に集まったギルドのメンバー。またはブラックギルドに所属している無法者達で基本的な戦力は低いと言えた。
しかし、名御屋は豊富なアイテムとプレイヤーの平均レベルも85以上と高水準を誇っている。
これは他の都市でも同じで、著しく平均レベルが低いのは始まりの街くらいなものだ――他の都市も事件が起きた翌日には困惑を見せていたが、数日後には普段通りの光景が戻っていた。
ログアウトできないという危機的状況も、楽しめるというのが高レベルプレイヤーからくる余裕というものなのだろう。
3人が辺りを見渡しながら歩いていると、不意に小虎が口を開いた。
「――ここは千代よりも人多いよね。どうしてだろう?」
その質問に答えるように紅蓮が言葉を返す。
「そうですねー。ここ名御屋はアイテム類が特区に指定されている為、他より安く買えます。更に珍しいアイテムも多く売られているので、幅広いレベルのプレイヤーが来ているんでしょうね」
紅蓮は辺りの店に目を向けながら更に言葉を続ける。
「私達のギルドの拠点でもある千代の街も特区に指定されてますが、武器、防具でも特定の物だけです」
「特定の物? それって例えばどんな物なの?」
紅蓮の話を聞いていた少女が不思議そうに尋ねてきた。まあ、露骨に『特定の物』などという発言をされれば、彼女が気になるのも無理はないだろう。
その質問に、素早く紅蓮が「日本らしい物でしょうか」と答えると。
「日本らしい物って?」
っとその言葉がそのままオウム返しのように返ってきた。
さすがに、最初の言葉で納得すると考えていた紅蓮は、彼女のその返しに少し考えるような素振りで顎に指をつける。
そして、徐に首を傾げてこちらを見ている彼女に言った。
「――そうですねー。説明すると、装備なら刀や槍、弓など。防具ならば武士の甲冑、忍者の着ている鎖帷子などですかね。ああ、着物やかんざしのような装備アイテムなんかもありますね」
「へぇー。なんか紅蓮ちゃんに似合いそうな物ばかりだねっ!」
にっこりと微笑み掛ける少女に、紅蓮は恥ずかしくなり頬を少し赤らめながら思わず視線を逸らす。
どうやら紅蓮は『美しい』という言葉だけではなく。他人に褒められることには、めっぽう弱いらしい……。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
烈火の大東亜
シャルリアちゃんねる
SF
現代に生きる男女2人の学生が、大東亜戦争[太平洋戦争]の開戦直後の日本にタイムスリップする。
2人はその世界で出会い、そして共に、日本の未来を変えようと決意し、
各海戦に参加し、活躍していく物語。その時代の日本そして世界はどうなるのかを描いた話。
史実を背景にした物語です。
本作はチャットノベル形式で書かせて頂きましたので、凝った小説らしさというより
漫画の様な読みやすさがあると思いますので是非楽しんでください。
それと、YOUTUBE動画作製を始めたことをお知らせします。
名前は シャリアちゃんねる です。
シャリアちゃんねる でぐぐってもらうと出てくると思います。
URLは https://www.youtube.com/channel/UC95-W7FV1iEDGNZsltw-hHQ/videos?view=0&sort=dd&shelf_id=0 です。
皆さん、結構ご存じかと思っていましたが、意外と知られていなかった、第一話の真珠湾攻撃の真実等がお勧めです。
良かったらこちらもご覧ください。
主に政治系歴史系の動画を、アップしています。
小説とYOUTUBEの両方を、ごひいきにして頂いたら嬉しく思います。
親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。
「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」
「・・・?は、はい」
いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・
その夜。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる