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名御屋までの道中5

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 大規模なギルドや力のあるギルドが、拠点としている街の治安維持を買って出るのも少なくない。
 本来の仕様のPVPは本人が認証しなければ行えない為、余程のことがない限りは問題が起きることはない。

 問題なのはプレイヤーが誘導してモンスターを街の中へと引き入れてしまうことだ――悪意を持って故意に連れて来る場合もあるが、殆どは初心者プレイヤーが追われて仕方なく街の中へと逃げ込んでくることの方が圧倒的に多く。

 その処理でもその街の頭を張るギルドのレベルが知れる為、挙ってモンスターの討伐をする。

 だが、今は正常な状況とは異なり。リスクを最小限に抑えるギルドが多く、殆どは正常時と同じく、街周辺に現れた高レベルモンスターの処理だけを行っている為、ギルドの負担となる違反者の取締を積極的に行わないのである。

 しかし、それはモンスターを引き込んでしまった場合だけだ。運営が居ない今は、悪意によるPVPを起こした者を裁く方法はプレイヤーのさじ加減ひとつだ。

 そう。今2人の目の前に居る男達の行く先を決めるのも……。

「でも、この男共はどうするんだ? こいつも置いてくわけにもいかねぇしよー」

 メルディウスはまだ泣き止まない少女の方を見ながら、ため息混じりに呟いた。

 マスターはそんなメルディウスの疑問に直ぐ様答えた。

 「うむ。反撃されても面倒だからな。このまま少し離れた場所まで行ってから道着を装備しなおせば良い」
「ああ、そういえばそうだった。なら早くここを離れようぜ。……よっと」

 メルディウスは泣いている少女を強引に背負うと、マスターの方を向いて小さく呟いた。

「早く戻るぞ。遅くなると紅蓮が心配する……」

 頬を微かに赤らめながらそう告げるメルディウスに、マスターは微笑を浮かべ頷いた。


 マスター達が紅蓮達の元に戻ると、女性を背負ったまま戻ってきた2人を見るなり。レジャーシートの上に小虎と腰掛けていた紅蓮が駆けてきた。

 紅蓮は心配そうな表情でメルディウスの顔を見上げると、マスターに向かって尋ねる。

「あの、マスター。メルディウスが迷惑をおかけしませんでしたか? それと、お怪我はありませんか? マスター」
「ああ、大丈夫だ。それよりも紅蓮達の方は変わりないか?」
「……ええ、こちらは大丈夫でした」

 2人が淡々と話していると、蚊帳の外になっていたメルディウスが耐えかねたように声を上げた。

「あぁぁぁぁぁ~! 紅蓮! どうして俺の心配をしないでじじいの心配をしてやがるんだ! それに何よりも先にツッコムところがあるだろうが!!」
「ああ、あなたに関しては、心配するだけ無駄ですし」

 顔を真っ赤にしながら、そう叫んでいるメルディウスに、紅蓮は顔色1つ変えずにそう答えた。

 その後、メルディウスの背中に乗っている少女を細目で見ると言い難そうに口を開く。

「それに……女性を誘拐してくるような事は、さすがにまずいですよ?」

 対応に困った顔で、あからさまに視線を逸らす紅蓮。

 あえて触れなかったのは、自分のギルドマスターが女性を誘拐してくるとは思ってもみなかったからだろう……。 

「誘拐してきてねぇー!! それに、少しは偵察に出ていたギルマスである俺の労をねぎらっても、別にバチは当たらないと思うぞ? 紅蓮」
「……それを自分で言うのはどうかと思いますよ? ギルマス」

 彼がそう言うと、紅蓮は眉をひそめて軽蔑の眼差しを向けた。

 メルディウスはその言葉にショックを受けたのか、その場に手を付いて項垂れる。

 地面に手を付いているメルディウスの背中から少女は降りると、どんよりとした空気の中。今も地面に両手を付いている彼を励ませばいいのか、そっとしておけばいいのか分からず困っている様子だった。

「自分で言って、自分でダメージを受けておっては世話ないな……」

 その様子を見ていたマスターが呆れながら小さく呟く。
 そんなメルディウスのことなど気にかける様子もなく、紅蓮は少女の前まで歩いてくると、彼女にすっと手を差し出した。

 それを見た少女は首を傾げると、紅蓮が笑みを浮かべ口を開いた。

「理由は分かりませんが、メルディウスが連れてきたのなら悪い人ではないので、お近付きの印に……」
「あっ! は、はい!」

 少女は紅蓮の手をぎゅっと握ると、軽く会釈をする。紅蓮は小さな声で「よろしく」と抑揚なく言うと、彼女も「こちらこそ」とにっこりと微笑んで返事を返した。

 小虎はどんよりとした雰囲気の中でブツブツと呟きながら、項垂れているメルディウスの背中をポンっと叩く。

「兄貴。姉さんに褒めてもらいたいなら、もっと素直になりなよ」
「うるせぇー。男が女に褒めてくれなんて簡単に言えるか、ばかやろー!!」

 メルディウスのその悲痛な叫びは、薄暗くなった空にどこまでも響いていた。

 その夜。森の入口にテントを張った前の焚き火で紅蓮と白雪が夕食を作っていると、男性陣が徐ろにテントを設置した中から、人の背丈ほどの樽を担いで出てきた。
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