上 下
157 / 541

ファンタジー16

しおりを挟む
 膝を抱えたまま、憂いに満ちた瞳で前を見つめていた。

「あの時から私はずっと1人だった……今はどうなんだろう……」

 そう呟いた直後、星は自分の膝に顔を埋めた……。

 確かに今は一人ではない。だがそれは近くに誰かが居ると言うだけで、学校に居る時と何ら変わらないのだ。

 少なくとも心のどこか奥底では、未だに心を許せないでいる自分がいた。
 っと言うことは、見方を変えればまだ孤独なままなのかもしれない。本当に信頼している関係ではなく、ただ行動を共にしているだけの関係――心のどこかでそう思っている。

 しかし、それは相手に対してとても失礼なことだ。衣食住と身の安全を保証してもらっている。そのことも理解しているからこそ、自分はそんな人達を本当に信頼していないという事実が星には辛かった。

 顔を上げた星は眉をひそめながら、更に憂鬱な気分で空を見上げていた。

 それからしばらく自分の中での答えを導き出そうと、思考回路を回していると突然。後ろの草むらから、なにやらがさごそと物音が聞こえてきた。

「――だ、誰!? ……レイ?」

 星はびくっと体を震わせると、不安そうな声でそう問い掛けたが、その草むらからの返事は一向に返ってこない。だが、もしも誰かが隠れて脅かそうとしているなら、わざと物音を立てたりなんてしないはずだ。

 一瞬返事がないことを不審に思った星だったが……。

(どうしたんだろう。返事がない……あっ! もしかして落ち込んでる私を励まそうと、レイが隠れてるのかな?)

 確かに普段から落ち着きのないレイニールなら、我慢しきれずに動いてしまっても説明はつく。
 しかも、さっきまで疑うことを捨てて、もっと仲間達を信じようと思っていたばかり、ここで疑うことは信頼関係を築く上でも良くない。

 きっとエミル達の様子を見にいったついでに、自分を脅かそうとしているのだろう。

 思わずくすっと笑みを溢すと、星はそーっと草むらに向かって歩き出した。

「……レイなんでしょ? 隠れてないで出てきて……」

 星が草むらを覗き込もうと、前屈みになったその時、草むらの中から何かが勢い良く飛び出してきた。

 それと同時に、体を縄の様な長いもので強く締め付けられている感覚と、凄まじい激痛が星の頭の中を駆け巡った。

「うっ! なっ……なにッ!? 締め上げられる……体中がすごく痛い……」

 痛みに耐えながら、星が自分の体に巻き付いている物を確認すると、そこには自分の体に巻き付いている大きな蛇の頭が見えた。

 そう。草むらに潜んでいたのはレイニールではなく、星の胴体ぐらいある巨大な大蛇だったのだ――。

 全体は草むらに隠れてその大きさは把握できないものの。出ている部分だけでも数メートルはある。しかも、それが今、星の小さな体を容赦なく締め上げていた。システムのステータス強化がなければ、今頃星の体はバラバラに吹き飛ばされていただろう。

「……く、苦しい……な、なんとか……しないと……」

 星が蛇を振り解こうと体に力を入れようものなら、巻き付いている大蛇は更に何倍もの力で体をきつく締め上げてくる。

 抵抗虚しく強く締められた体が、限界を超えてミシミシと軋むような音を立て始める。まるで、水の中にでもいるかの様に全く息ができないほどだった。それと相応して、星の表情がみるみるうちに青ざめ、意識が遠のいていくのを感じていた。

「……かはっ! 苦しくて……息が、できないよ……だ、だれか……」

 全身が今にも弾け飛ぶ様な苦痛の中、星はなんとか助けを求めようと辺りを見渡すが、そこには誰の姿もない。その時、ふと我に返った星は自分の底意地の悪さに自ら幻滅する。

 それもそうだ。今までは一人の方がいいと考えていたのに、生命の危機になった瞬間には、もう誰かを頼っている自分がいるのだから……。

(……私ってずるい。こういう時だけ人を頼って……これは1人でなんとかしなきゃいけない問題なんだ!)

 星は遠のく意識を気合で持ち直すと、腰に刺さった剣を抜こうと懸命にもがく。しかし、もがけばもがくほど体に巻き付いた大蛇は、緩急をつける様に締め上げてくる。

 データの集合体であって実際の体ではないはずなのだが、全身の骨を砕かれる様な激しい痛みが星を襲う。

「……くっ! あああああああああああああッ!!」

 星が叫び声を上げたその瞬間、レイニールの声が星の耳に飛び込んきた。

「――大丈夫か!? 主!!」

 薄れゆく意識の中で、咄嗟に星の脳裏に言葉が浮かぶ。

「……レイ。だめ……逃げて……」

 星はそのレイニールの声に反射的に、そう声にならない声を上げる。

 何故その言葉が頭に一番に浮かんだのかは分からない――それが人に助けてもらうわけにはいかないというプライドから来るものなのか、それとも相手を心配して出た言葉なのかは今の星には分からなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

処理中です...