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マスターの真意5

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 ここまで着ても見つからないと言うことは、カレンは森の中に落ちたのだろう。森の中に生息しているモンスター達をエリエが一瞬で撃破していたが、さすがに埒が明かず。
 レイニールの背中に乗せてもらって空からカレンを探すことにした。すると、森の一部にあからさまに木々がない場所が見えた。

 その中央部分にカレンが倒れていて、落ちた場所だけ大きなクレーターができていた。

「あっ! エリエさん。カレンさんがいました!」

 大きくなったレイニールの背中に乗って探していた星が、地面にできたクレーターの中心で大の字になっているカレンを見て指を差す。

 無事を確認したエリエが大きなため息をつきながら、呆れた様子で頭を押さえている。

「はぁ~、全く。どうしたら、こんな場所まで飛ばせるのよ……」
「すまん、すまん。ちょっと力が入り過ぎた」

 レイニールはそう言うと、2人を乗せ倒れているカレンの元へと降りて行く。
 おそらく。落ちるまでずっと回転していたのだろう。カレンは地面に仰向けに倒れたまま目を回していた。

 レイニールの背中からカレンに星が叫ぶ。

「カレンさん! カレンさん。起きて下さい!」
「――うぅ……俺は……ここは……?」

 カレンは頭を抑えながらゆっくりと体を起こした。星はほったした様子で、レイニールの背中から降りると、カレンの元に駆け寄っていく。

「……大丈夫ですか? 私の声聞こえますか?」
「――ああ、大丈夫だ……って、星ちゃん! 怪我はなかったか!?」
「えっ? 大丈夫ですけど……」

 そう言って星の肩を掴んでいるカレンに、星は困惑しながら言った。

 カレンは星の体を舐めるように見てほっと胸を撫で下ろし、ゆっくりと口を開く。

「どこも怪我してないようで良かった……正直。星ちゃんが目の前に現れた瞬間、頭が真っ白になったよ。また俺が君に怪我を負わせるような事にでもなったらって……」

 カレンはそこまで言って口を閉じると表情を曇らせる。

 富士山のダンジョンでの出来事をカレンはずっと気にしていたのだろう。いくらここがゲームの中で、本来ならばプレイヤーキャラクターのステータスはほぼ統一されている。

 だが、それはレベルが同じならの話で、レベル制MMOはプレイヤーのレベルが絶対的な実力差へと繋がる。
 そしてカレンと星の間には相当なレベル差があり。しかも、カレンは装備の軽量化で敏捷にステータス追加があることを知りながらの戦闘だった。
 
 ただでさえ年齢の差があるにも関わらず、ゲーム歴をひけらかす様なこの行為はとても褒められたものではない。
 しかしそれは、カレンが一番分かっていたはずだ。その時の出来事をカレンは普通に生活しながらもずっと気にして自責の念にとらわれていたのだろう。

 表情を曇らせ、今にも泣き出しそうなカレンの微かに潤んだ瞳を見つめ、星はカレンと戦った時のことを思い出す。

(あっ……カレンさん。まだあの時の事を気にして……) 
 
 険しい表情のまま「本当に良かった」と震える声で俯いたカレンに、星はにっこりと微笑み掛ける。

「大丈夫ですよ。私はもう気にしていませんから、カレンさんももう気にしないでください」

 カレンはそう告げた星の顔を見ると、首を横に振ってゆっくりと話し出した。

「いや、俺はあの夜に誓ったんだ。もう感情に任せて戦わないと……感情は冷静な判断をできなくさせる……って。さっきまでの俺がまさにそれだな……」

 カレンはさっきまでの自分のことを鼻で笑うと、エリエの前に行く。

 警戒した様子で「なによ?」と言う彼女に突然カレンが頭を下げた。

「――すまん。少し冷静さを欠いていたらしい……お前の言う事も分かるけど、でも俺はマスターが心配だ! ここは黙って見逃してくれないか?」

 カレンはそう言うと、エリエの顔を窺うように彼女の顔を見る。

 エリエはそのカレンの決意に満ちた瞳を受け、その意思を汲み取った上で、大きく息を吐くと口を開いた。

「――そうしてあげたいけど、それはできないの……あんただって本当は分かってるんでしょ? マスターがあんたを残して1人で行った理由は、あんたの事をそれだけ大切に思っているからよ」
「ああ、分かっているさ。でも俺は……例えそうだと分かっていても、はい。分かりましたって割り切れるほど、俺は物分かりが良くないんだ!」

 そう言ったカレンは肩を震わせながら、拳を強く握り締めている。
 彼女の悔しさはエリエも痛いほど分かる。人なら誰でも、自分の力が足りないことへの悔しさを体験したことがあるはずだ。

 この世の中、なんでも思い通りになるということはありえない。常に思い通りにならず、あと一歩のところで辛酸を舐めたことは誰だってある。エリエはその武器がレイピアなことからも分かる通り、リアルではフェンシングをしているらしく。そのことで大会などでも何度も悔しい思いをしたのだろう。 

 エリエは少し何か考えた様に見えたが、すぐに首を振って声を上げた。
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