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一難去ってまた一難5
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「……はぁ~」
大きなため息をつくと、どうしようもない状況に、星はその場に項垂れている。
そんな星の様子に気付く様子もなく2人は話を続けた。
「時間が決まらないなら、少し時間を置いて夕方くらいがいいんじゃないかしら。エリーも今すぐにって感じでもないでしょ?」
「……うん、それがいいかも。でも、それまでは何をして時間を潰すの?」
不思議そうにそう尋ねるエリエに、エミルはにっこりと微笑むと「ならちょっと付きあって」とエリエと星の手を強引に引いて歩き出した。
3人は街から出ると、少し離れた場所にある【アシフ高原】へとやってきた。
草が生い茂りどこまでも続く野原――そこには牛や馬、羊の姿をしたモンスターがあちらこちらに見ることができる。
実際に実在する大きさよりだいぶ大きくが、それはモンスターということで納得するしかないだろう。
なにやらやる気に満ち満ちた表情でいるエミルに対し、2人はどうしてここに連れて来られたのか分からず、困惑した表情でお互いの顔を見合っている。
「さて、それじゃー。晩御飯の食材とふとんの材料を集めるわよ!」
「「……えっ?」」
エミルのその言葉に、2人はただただきょとんとしてその場に立ち尽くしている。
全く状況を読み込めていない2人とは対照的に、エミルはアイテムの中から徐に巻物を取り出すとソードアーマードラゴンを召喚した。
召喚されたドラゴンは「グオオオオッ!!」と雄叫びを上げると、その無数の剣が生えた背中から、一本のクレイモアが空中に向かって撃ち出された。
エミルはそれを掴むと、呆気に取られて立ち尽くしている2人に叫ぶ。
「ほら、2人とも何をぼんやりしているの? 時間もあまりないんだから早く武器を抜きなさい!」
「「は、はい!」」
2人はエミルに急かされるように剣を抜いた。
互いに剣を握りながらも、そのエミルのテンションの高さにたじろぐばかりだ――。
「さて、何から狩ろうかしら」
剣を担いでやる気満々の様子で辺りを見渡しているエミルに、エリエが恐る恐る声を掛ける。
「――あのさ、エミル姉。食材って別に街で買えば良いんじゃないかな?」
「……わ、私もエリエさんに賛成です。ダンジョンから出たばかりですし……」
エリエのその意見に賛同するように、星も小さく呟く。
本音を言えば2人共、普段の数倍高いテンションのエミルに恐怖にも似た感情があったのは確かだ。
出来る限り早めに、この場所からもエミルからも解放されたいという思いが一致したのだろう。
しかしエミルは、コマンドを操作してその言葉を華麗にスルーすると、2人ににっこりと微笑んだ。
「さあ、始めよっか!」
「「は、はい……」」
その満面の笑みにこれ以上言っても無駄なのを悟ったのか、2人は諦めたように小さく返事をした。その後、エミルは何かを見つけたのか急に走り出す。
星とエリエもその後を渋々追いかけると、しばらくして高原の中にうごめく黒い集団を見つけた。
「へぇ~。あれはブルアバイソンね」
「ブルアバイソン?」
星が聞き返すとエミルではなく、エリエがその問に答えた。
「星もモディールバイソンは知ってるでしょ?」
「モディールバイソン? ってなんでしたっけ……?」
「もう忘れちゃったの!? はぁ~。しかたないなぁ……」
星がまた首を傾げると、エリエはにやりと笑みを浮かべ星のお腹をさすった。
その手を見た後、星が不思議そうにエリエの顔を見つめた。すると、ニヤリと笑ったエリエが告げる。
「前に私と一緒に美味しく頂いた牛さんだよ。思い出さないと、化けて出てくるかもよ~? 牛さんの祟りは怖いぞ~」
「ひっ! えっ?」
星はその言葉で全てを思い出したのか、怯えながら慌ててお腹を押さえた。
エリエは悪戯な笑みを浮かべながら。
「あははっ! 大丈夫。データだし化けて出たりしないって!」
っと大きな声で笑うと、エミルの大きな声が響いた。
「エリーうるさい! 逃げちゃうでしょ! 静かにして!!」
「あっ……うん。ごめんなさい」
突然。鬼のような剣幕で怒られたエリエは、しゅんとして体を小さくまとめる。
「よしよし……大丈夫ですか?」
落ち込んでいるエリエの頭を星が優しく撫でると「ありがと~。星は優しいなぁ~」と抱き付き、エリエも星の頭を撫で返した。
「それでね。モディールバイソンは牛肉が一番美味しいの。ブルアバイソンも美味しいんだけど、ちょっと筋が多いから必然的に煮込み料理とかになるんだよね~」
「へぇ~。そうなんですね」
自慢げに話すエリエの話を聞きながら、エミルの方を見ていた星が口を開いた。
「それにしても、エミルさん。なんだか真剣ですね」
「そういえば。今日はいつにも増して迫力があるというか、ピリピリしてるね……」
「なにかあったんでしょうか……」
いつもと違うエミルの様子に小声で話すと、2人は顔を見合わせて首を傾げる。
確かにエミルがこれほど神経質になっているのも珍しい。おそらく、彼女を駆り立てるなにか重要な出来事があったのだろう。
大きなため息をつくと、どうしようもない状況に、星はその場に項垂れている。
そんな星の様子に気付く様子もなく2人は話を続けた。
「時間が決まらないなら、少し時間を置いて夕方くらいがいいんじゃないかしら。エリーも今すぐにって感じでもないでしょ?」
「……うん、それがいいかも。でも、それまでは何をして時間を潰すの?」
不思議そうにそう尋ねるエリエに、エミルはにっこりと微笑むと「ならちょっと付きあって」とエリエと星の手を強引に引いて歩き出した。
3人は街から出ると、少し離れた場所にある【アシフ高原】へとやってきた。
草が生い茂りどこまでも続く野原――そこには牛や馬、羊の姿をしたモンスターがあちらこちらに見ることができる。
実際に実在する大きさよりだいぶ大きくが、それはモンスターということで納得するしかないだろう。
なにやらやる気に満ち満ちた表情でいるエミルに対し、2人はどうしてここに連れて来られたのか分からず、困惑した表情でお互いの顔を見合っている。
「さて、それじゃー。晩御飯の食材とふとんの材料を集めるわよ!」
「「……えっ?」」
エミルのその言葉に、2人はただただきょとんとしてその場に立ち尽くしている。
全く状況を読み込めていない2人とは対照的に、エミルはアイテムの中から徐に巻物を取り出すとソードアーマードラゴンを召喚した。
召喚されたドラゴンは「グオオオオッ!!」と雄叫びを上げると、その無数の剣が生えた背中から、一本のクレイモアが空中に向かって撃ち出された。
エミルはそれを掴むと、呆気に取られて立ち尽くしている2人に叫ぶ。
「ほら、2人とも何をぼんやりしているの? 時間もあまりないんだから早く武器を抜きなさい!」
「「は、はい!」」
2人はエミルに急かされるように剣を抜いた。
互いに剣を握りながらも、そのエミルのテンションの高さにたじろぐばかりだ――。
「さて、何から狩ろうかしら」
剣を担いでやる気満々の様子で辺りを見渡しているエミルに、エリエが恐る恐る声を掛ける。
「――あのさ、エミル姉。食材って別に街で買えば良いんじゃないかな?」
「……わ、私もエリエさんに賛成です。ダンジョンから出たばかりですし……」
エリエのその意見に賛同するように、星も小さく呟く。
本音を言えば2人共、普段の数倍高いテンションのエミルに恐怖にも似た感情があったのは確かだ。
出来る限り早めに、この場所からもエミルからも解放されたいという思いが一致したのだろう。
しかしエミルは、コマンドを操作してその言葉を華麗にスルーすると、2人ににっこりと微笑んだ。
「さあ、始めよっか!」
「「は、はい……」」
その満面の笑みにこれ以上言っても無駄なのを悟ったのか、2人は諦めたように小さく返事をした。その後、エミルは何かを見つけたのか急に走り出す。
星とエリエもその後を渋々追いかけると、しばらくして高原の中にうごめく黒い集団を見つけた。
「へぇ~。あれはブルアバイソンね」
「ブルアバイソン?」
星が聞き返すとエミルではなく、エリエがその問に答えた。
「星もモディールバイソンは知ってるでしょ?」
「モディールバイソン? ってなんでしたっけ……?」
「もう忘れちゃったの!? はぁ~。しかたないなぁ……」
星がまた首を傾げると、エリエはにやりと笑みを浮かべ星のお腹をさすった。
その手を見た後、星が不思議そうにエリエの顔を見つめた。すると、ニヤリと笑ったエリエが告げる。
「前に私と一緒に美味しく頂いた牛さんだよ。思い出さないと、化けて出てくるかもよ~? 牛さんの祟りは怖いぞ~」
「ひっ! えっ?」
星はその言葉で全てを思い出したのか、怯えながら慌ててお腹を押さえた。
エリエは悪戯な笑みを浮かべながら。
「あははっ! 大丈夫。データだし化けて出たりしないって!」
っと大きな声で笑うと、エミルの大きな声が響いた。
「エリーうるさい! 逃げちゃうでしょ! 静かにして!!」
「あっ……うん。ごめんなさい」
突然。鬼のような剣幕で怒られたエリエは、しゅんとして体を小さくまとめる。
「よしよし……大丈夫ですか?」
落ち込んでいるエリエの頭を星が優しく撫でると「ありがと~。星は優しいなぁ~」と抱き付き、エリエも星の頭を撫で返した。
「それでね。モディールバイソンは牛肉が一番美味しいの。ブルアバイソンも美味しいんだけど、ちょっと筋が多いから必然的に煮込み料理とかになるんだよね~」
「へぇ~。そうなんですね」
自慢げに話すエリエの話を聞きながら、エミルの方を見ていた星が口を開いた。
「それにしても、エミルさん。なんだか真剣ですね」
「そういえば。今日はいつにも増して迫力があるというか、ピリピリしてるね……」
「なにかあったんでしょうか……」
いつもと違うエミルの様子に小声で話すと、2人は顔を見合わせて首を傾げる。
確かにエミルがこれほど神経質になっているのも珍しい。おそらく、彼女を駆り立てるなにか重要な出来事があったのだろう。
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