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決戦25
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エミルは覆面の男を、目を細めながらじっと見つめている。
『この男……思っていたよりも危険かもしれないわね。おそらく、扉を通れば本当に現実世界に戻れる。でも、それはさっき男の言った情報が外部に漏れなければの話。おそらく、この男は私達が帰還後その情報をメディアで大々的に流すつもりだ……そんな事になったら、唯一の生還者と同時に他の者を見殺しにしたと世間からの非難が集中する。それで起きた混乱に乗じて、彼等はもっと恐ろしい事を考えているに違いない。』
そう考えながら、エミルはちらっと星の顔を見た。
彼女にとって最も気掛かりなのは、この中で最も最年少の星だ。子供同士のコミュニティーは大人のそれとは比べ物にならないくらい狭い。
強いて挙げるならば、学校――やっていれば塾や習い事くらいのもだ。お金を自由に使えない子供には、自らの力でコミュニティーを広げることができない。
もしも、現実世界に戻って周囲から責められれば、星は間違いなく耐えられないだろう。
(エミルさんが難しい顔してこっちを見てる……私。何か悪い事したかな……)
星は色々思い出しながら、険しい表情をしたエミルの顔を見て思わず顔を背けた。
その時、覆面の男は星の方を見ると、突然話し掛けてきた。
「ああ、君があの方の娘さんか……なるほどねぇー。その顔付きといい存在感といい。他者とは明らかに違いますね……」
「えっ? お母さんを知っているんですか!?」
星は驚いたように聞き返す。
覆面の男は一呼吸置いて、再び言葉を続ける。
「――いや、君のお母さんは知らない。私が知ってるのは君の父親の方だよ。世界最高の脳科学者。大空 融の娘。夜空 星ちゃん」
今日初めて話した相手に自分の名前を言い当てられ、しかもそれが生まれる前に亡くなった父親の知人だったことに星は驚きを隠せない。
「ど、どうして私の名前を……」
「それは当然知っているよ。なんせ私は君のお父さんと同じ目的の為に、行動しているのだからね」
「……えっ?」
覆面の言い放ったその言葉を聞いて、星の頭の中が真っ白になった。
死んだはずの父親と同じ目的ということは生きていれば、父親もこの事件を起こしていたことになる。
だが、自分の父親がそんな悪いことをするはずがない。いや、そう信じたかった……。
「……そ、そんなはずない! 私のお父さんは、あなたとは違う!!」
自分に言い聞かせるように、星が大声で叫んだ。
星にはその覆面の男の言うことを信じることは絶対にできなかった。彼女にとって、死んだ父親は優しくて頼もしい理想の父親像を当てていたからだ。
星は父親がいなかった為、運動会などの父兄が参加する行事には先生が代役として入っていた為、他の同級生の父親を見て自分の父親のことを想像することが楽しかった。
もちろん。それが原因で言われることもあったが、そんなことが気にならないくらいに思い焦がれていた。
星の中での理想の父親は、いつでも母親や星に優しくにこにこと笑って優しい声で話し掛けてくれる。そんな男性だった――。
だがその理想図を、目の前にいる覆面を被った怪しげな男が揺るがそうとしているのだ。そんなことを絶対に許せるはずがない……。
星は瞳に涙を浮かべながら、男を鋭く睨みつけた。
すると、男は不機嫌そうな声で「なるほど、分かりました」と言うと、腕を大きく上げてパチンッ!と指を鳴らした。
それと同時に、地面が大きく揺れ出す。
「……きゃッ!」
「大丈夫かい? 星ちゃん。この覆面野郎! いったい何をした!」
星がその揺れに耐えられずにバランスを崩す。デイビッドがそれを受け止めると、覆面の男に声を荒らげて叫んだ。
覆面の男は「はっはっはっ」と大きく笑いながら上空に飛び上がった。
「私は待たせるのは好きでも待っているの嫌いでね――それでは諸君。じっくりと考えて決めてくれ。もっとも、もう直ここは崩れるがね……」
そう言い残し、覆面の男は姿を消した。
天井から破片が地面に散乱し。大きく左右に揺れ動く部屋の中で、メンバー達は決断を急がれていた。
「どうするの!? このままデビッド先輩と心中なんて、私は嫌だよ!!」
「ちょっと、エリー落ち着いて! 大丈夫。私も一緒だから!!」
エリエとサラザはがっしりと、その場で抱き合っている。
こんな状況になっていてもデイビッドに悪態つくエリエを軽く見て流すと、星は不安そうにエミルの顔を見つめた。だが、エミルも決めかねているようで、困惑した表情でマスターに視線を向ける。
「……マスター。どうしましょう」
「うむ。どうするも何もここは街に戻る以外の選択肢はないだろう! 行くぞ!!」
「――ッ!? は、はい!!」
マスターはカレンを抱えたまま迷うことなく、ボス部屋にクリアー後現れる街へ戻るワープゾーンへと飛び込んでいった。
エミルも少し戸惑いながらも、マスターの後に続く。
「全く仕方ないな……行くよ。星ちゃん!」
「……え? えぇぇッ!?」
デイビッドは星を軽々と抱え込むと、エミル達の後を追った。
「エリー皆行っちゃったわよ~」
「ちょ! サラザ。私を置いてかないでよ~!!」
その直後、エリエとサラザもその後を慌てて追いかけるようにしてワープゾーンの中に入っていった。
『この男……思っていたよりも危険かもしれないわね。おそらく、扉を通れば本当に現実世界に戻れる。でも、それはさっき男の言った情報が外部に漏れなければの話。おそらく、この男は私達が帰還後その情報をメディアで大々的に流すつもりだ……そんな事になったら、唯一の生還者と同時に他の者を見殺しにしたと世間からの非難が集中する。それで起きた混乱に乗じて、彼等はもっと恐ろしい事を考えているに違いない。』
そう考えながら、エミルはちらっと星の顔を見た。
彼女にとって最も気掛かりなのは、この中で最も最年少の星だ。子供同士のコミュニティーは大人のそれとは比べ物にならないくらい狭い。
強いて挙げるならば、学校――やっていれば塾や習い事くらいのもだ。お金を自由に使えない子供には、自らの力でコミュニティーを広げることができない。
もしも、現実世界に戻って周囲から責められれば、星は間違いなく耐えられないだろう。
(エミルさんが難しい顔してこっちを見てる……私。何か悪い事したかな……)
星は色々思い出しながら、険しい表情をしたエミルの顔を見て思わず顔を背けた。
その時、覆面の男は星の方を見ると、突然話し掛けてきた。
「ああ、君があの方の娘さんか……なるほどねぇー。その顔付きといい存在感といい。他者とは明らかに違いますね……」
「えっ? お母さんを知っているんですか!?」
星は驚いたように聞き返す。
覆面の男は一呼吸置いて、再び言葉を続ける。
「――いや、君のお母さんは知らない。私が知ってるのは君の父親の方だよ。世界最高の脳科学者。大空 融の娘。夜空 星ちゃん」
今日初めて話した相手に自分の名前を言い当てられ、しかもそれが生まれる前に亡くなった父親の知人だったことに星は驚きを隠せない。
「ど、どうして私の名前を……」
「それは当然知っているよ。なんせ私は君のお父さんと同じ目的の為に、行動しているのだからね」
「……えっ?」
覆面の言い放ったその言葉を聞いて、星の頭の中が真っ白になった。
死んだはずの父親と同じ目的ということは生きていれば、父親もこの事件を起こしていたことになる。
だが、自分の父親がそんな悪いことをするはずがない。いや、そう信じたかった……。
「……そ、そんなはずない! 私のお父さんは、あなたとは違う!!」
自分に言い聞かせるように、星が大声で叫んだ。
星にはその覆面の男の言うことを信じることは絶対にできなかった。彼女にとって、死んだ父親は優しくて頼もしい理想の父親像を当てていたからだ。
星は父親がいなかった為、運動会などの父兄が参加する行事には先生が代役として入っていた為、他の同級生の父親を見て自分の父親のことを想像することが楽しかった。
もちろん。それが原因で言われることもあったが、そんなことが気にならないくらいに思い焦がれていた。
星の中での理想の父親は、いつでも母親や星に優しくにこにこと笑って優しい声で話し掛けてくれる。そんな男性だった――。
だがその理想図を、目の前にいる覆面を被った怪しげな男が揺るがそうとしているのだ。そんなことを絶対に許せるはずがない……。
星は瞳に涙を浮かべながら、男を鋭く睨みつけた。
すると、男は不機嫌そうな声で「なるほど、分かりました」と言うと、腕を大きく上げてパチンッ!と指を鳴らした。
それと同時に、地面が大きく揺れ出す。
「……きゃッ!」
「大丈夫かい? 星ちゃん。この覆面野郎! いったい何をした!」
星がその揺れに耐えられずにバランスを崩す。デイビッドがそれを受け止めると、覆面の男に声を荒らげて叫んだ。
覆面の男は「はっはっはっ」と大きく笑いながら上空に飛び上がった。
「私は待たせるのは好きでも待っているの嫌いでね――それでは諸君。じっくりと考えて決めてくれ。もっとも、もう直ここは崩れるがね……」
そう言い残し、覆面の男は姿を消した。
天井から破片が地面に散乱し。大きく左右に揺れ動く部屋の中で、メンバー達は決断を急がれていた。
「どうするの!? このままデビッド先輩と心中なんて、私は嫌だよ!!」
「ちょっと、エリー落ち着いて! 大丈夫。私も一緒だから!!」
エリエとサラザはがっしりと、その場で抱き合っている。
こんな状況になっていてもデイビッドに悪態つくエリエを軽く見て流すと、星は不安そうにエミルの顔を見つめた。だが、エミルも決めかねているようで、困惑した表情でマスターに視線を向ける。
「……マスター。どうしましょう」
「うむ。どうするも何もここは街に戻る以外の選択肢はないだろう! 行くぞ!!」
「――ッ!? は、はい!!」
マスターはカレンを抱えたまま迷うことなく、ボス部屋にクリアー後現れる街へ戻るワープゾーンへと飛び込んでいった。
エミルも少し戸惑いながらも、マスターの後に続く。
「全く仕方ないな……行くよ。星ちゃん!」
「……え? えぇぇッ!?」
デイビッドは星を軽々と抱え込むと、エミル達の後を追った。
「エリー皆行っちゃったわよ~」
「ちょ! サラザ。私を置いてかないでよ~!!」
その直後、エリエとサラザもその後を慌てて追いかけるようにしてワープゾーンの中に入っていった。
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