81 / 541
理想と現実8
しおりを挟む
そして今、目の前にいる星も今は亡き親友と同じ目をしている。
(そうか、こいつは……似てるんだ。愛に……だから俺は……)
カレンが星を見ていて気分が悪かったのは、星に幼い頃の親友の面影を見ていたからだった。無理して明るく振舞っていた彼女の最後の時の姿に――。
人が嫌がることをしない――それは人として当然かもしれない。だが、その時に自分の感情をコントロールできるできないかはその人次第だろう。
「――フン……俺もまだまだだな。こんな子供に――居なくなった親友に教えられるとは……」
「……親友?」
ぼそっと呟いたカレンの言葉を聞いて、星は不思議そうに首を傾げた。
カレンは一瞬だけ天を仰ぎ、再び星の方に目を向けると拳を構え直す。
「俺が今ここで手を抜いてお前に謝ったとして、それでは納得しないだろう? これから全力で戦って、お前が俺に一撃でも与えられれば俺は全力であの2人に詫びを入れる。それで良いか?」
カレンは剣を持ち身構えている星に向かってそう叫ぶと、星はゆっくりこくんと頷いて見せた。再び2人の間に緊張が走る――。
(良く分からないけど、これで私がカレンさんに一度でも攻撃を当てられれば、2人に全力で謝るって約束してくれた。絶対に負けない……ううん、負けられない! 私はエリエさんとエミルさんが嫌な思いをするのは、絶対に嫌だから……絶対に勝たなきゃいけないんだ!)
星は心の中で決意を新たに集中していた。しかし、PVPのシステム上。何度倒れてもHPは全快するが肉体への疲労は蓄積していく。
二度も倒れた星の足は震え、体の至る所にズキズキとした鈍い痛みも残っている。その時、星はこれがVRMMOというゲームの弊害なのだと、自らの体をもって感じ取っていた。
だが、その痛みのおかげか、星の頭はしっかりしている。そして眼前に悠々と拳を構えて立つ、目付きも雰囲気も変わったカレンを見て星は思った。
おそらく。カレンは、今まで以上に攻撃の精度を上げてくる。そうなったら、もう星が彼女に攻撃を当てられる方法は、防御を捨てた超近接戦闘でのワンチャンしかないと……。
だが、それはあまりに危険な方法だ。女同士でも年齢差もある。
ただでさえ、同級生の間でも身長の低い星に対して、カレンは160cm後半はある。これは男性の身長と同じくらいだ。それに加えて、彼女の回避率と攻撃速度は自分より遥かに高い。
それが『一撃を当てたら……』っという勝負のルールにも繋がっているのだろう。
星はふとさっきの攻撃の痛みを思い出し、そっと左手で腹部をさすった。その瞬間、無意識に額から汗が吹き出し体が震え出した。
実際に痛みを伴うのだ、星のこの反応も無理もない。
(――ううん。大丈夫……痛くない。友達が居ないあの胸の痛みに比べれば! エミルさんと離れる時の――あの苦しみに比べれば。こんなの全然辛くない!!)
星は迷いを振り払うように首を振ると、鞘を被った剣先をカレンに向けた。
「はああああああああああッ!!」
覚悟を決めた星が叫び声を上げながら、カレンに向かって走り出した。
星はカレンの目の前で剣を大きく振り上げると、そのまま力一杯振り下ろした。しかし、その渾身の一打がカレンに届く前に、カレンの拳が星の体に突き刺さる。
「……かはっ!」
星はあまりの痛みに意識が飛びそうになるのを堪え、咄嗟にカレンの腹部目掛けて剣を持った腕を伸ばした。
「……はあっ!」
「――なに!? ……だが、甘い!!」
カレンはその剣を体を回転させていとも容易くかわすと、今度は彼女の長い足が星の脇腹を捉えた。
星の体は勢い良く飛ばされ、20m以上も先の壁に体を強く叩きつけられてそのまま力無く地面に倒れ込んだ。
ぴくりとも動かない星を見て、カレンは思わず『しまった!』と心の中で叫んだ。
星は咄嗟に自分のHPの残量を確認する。HPバーはレッドゾーンに入っているものの、少しだけHPが残っていて、中央部分に表示されたその数値は130となっている。
「はぁ……はぁ……はぁ……まだ、ちょっと……ある……」
星は残った力を振り絞って何とか立ち上がった。
息をするだけで苦しい。しかも体に力を入れようとする度に、尋常じゃない痛みに顔が歪み瞳からは涙が流れ意識は遠のく。
「はぁ……はぁ……ま……け……ない!」
そう声にならない声を出して剣を構える。
今の星を衝き動かしているのは、ただただ絶対に謝らせてみせるという信念だけだった。
「……ッ!? あの攻撃を受けても、まだ――」
そんな様子の星を見てカレンは瞳に涙を浮かべ、思わず唇を噛んで自分の軽率な行動を後悔していた。まさか、ここまで星が立ち向かってくるとは考えていなかったのだ――。
(……本当は、もう今すぐにでも謝ってしまいたい。でも、おそらくそれをやってもあの子は絶対許してはくれないだろう。もうあの子の気が済むまで相手をするしかない……)
歯痒い思いを隠し切れない様子のカレン。
(そうか、こいつは……似てるんだ。愛に……だから俺は……)
カレンが星を見ていて気分が悪かったのは、星に幼い頃の親友の面影を見ていたからだった。無理して明るく振舞っていた彼女の最後の時の姿に――。
人が嫌がることをしない――それは人として当然かもしれない。だが、その時に自分の感情をコントロールできるできないかはその人次第だろう。
「――フン……俺もまだまだだな。こんな子供に――居なくなった親友に教えられるとは……」
「……親友?」
ぼそっと呟いたカレンの言葉を聞いて、星は不思議そうに首を傾げた。
カレンは一瞬だけ天を仰ぎ、再び星の方に目を向けると拳を構え直す。
「俺が今ここで手を抜いてお前に謝ったとして、それでは納得しないだろう? これから全力で戦って、お前が俺に一撃でも与えられれば俺は全力であの2人に詫びを入れる。それで良いか?」
カレンは剣を持ち身構えている星に向かってそう叫ぶと、星はゆっくりこくんと頷いて見せた。再び2人の間に緊張が走る――。
(良く分からないけど、これで私がカレンさんに一度でも攻撃を当てられれば、2人に全力で謝るって約束してくれた。絶対に負けない……ううん、負けられない! 私はエリエさんとエミルさんが嫌な思いをするのは、絶対に嫌だから……絶対に勝たなきゃいけないんだ!)
星は心の中で決意を新たに集中していた。しかし、PVPのシステム上。何度倒れてもHPは全快するが肉体への疲労は蓄積していく。
二度も倒れた星の足は震え、体の至る所にズキズキとした鈍い痛みも残っている。その時、星はこれがVRMMOというゲームの弊害なのだと、自らの体をもって感じ取っていた。
だが、その痛みのおかげか、星の頭はしっかりしている。そして眼前に悠々と拳を構えて立つ、目付きも雰囲気も変わったカレンを見て星は思った。
おそらく。カレンは、今まで以上に攻撃の精度を上げてくる。そうなったら、もう星が彼女に攻撃を当てられる方法は、防御を捨てた超近接戦闘でのワンチャンしかないと……。
だが、それはあまりに危険な方法だ。女同士でも年齢差もある。
ただでさえ、同級生の間でも身長の低い星に対して、カレンは160cm後半はある。これは男性の身長と同じくらいだ。それに加えて、彼女の回避率と攻撃速度は自分より遥かに高い。
それが『一撃を当てたら……』っという勝負のルールにも繋がっているのだろう。
星はふとさっきの攻撃の痛みを思い出し、そっと左手で腹部をさすった。その瞬間、無意識に額から汗が吹き出し体が震え出した。
実際に痛みを伴うのだ、星のこの反応も無理もない。
(――ううん。大丈夫……痛くない。友達が居ないあの胸の痛みに比べれば! エミルさんと離れる時の――あの苦しみに比べれば。こんなの全然辛くない!!)
星は迷いを振り払うように首を振ると、鞘を被った剣先をカレンに向けた。
「はああああああああああッ!!」
覚悟を決めた星が叫び声を上げながら、カレンに向かって走り出した。
星はカレンの目の前で剣を大きく振り上げると、そのまま力一杯振り下ろした。しかし、その渾身の一打がカレンに届く前に、カレンの拳が星の体に突き刺さる。
「……かはっ!」
星はあまりの痛みに意識が飛びそうになるのを堪え、咄嗟にカレンの腹部目掛けて剣を持った腕を伸ばした。
「……はあっ!」
「――なに!? ……だが、甘い!!」
カレンはその剣を体を回転させていとも容易くかわすと、今度は彼女の長い足が星の脇腹を捉えた。
星の体は勢い良く飛ばされ、20m以上も先の壁に体を強く叩きつけられてそのまま力無く地面に倒れ込んだ。
ぴくりとも動かない星を見て、カレンは思わず『しまった!』と心の中で叫んだ。
星は咄嗟に自分のHPの残量を確認する。HPバーはレッドゾーンに入っているものの、少しだけHPが残っていて、中央部分に表示されたその数値は130となっている。
「はぁ……はぁ……はぁ……まだ、ちょっと……ある……」
星は残った力を振り絞って何とか立ち上がった。
息をするだけで苦しい。しかも体に力を入れようとする度に、尋常じゃない痛みに顔が歪み瞳からは涙が流れ意識は遠のく。
「はぁ……はぁ……ま……け……ない!」
そう声にならない声を出して剣を構える。
今の星を衝き動かしているのは、ただただ絶対に謝らせてみせるという信念だけだった。
「……ッ!? あの攻撃を受けても、まだ――」
そんな様子の星を見てカレンは瞳に涙を浮かべ、思わず唇を噛んで自分の軽率な行動を後悔していた。まさか、ここまで星が立ち向かってくるとは考えていなかったのだ――。
(……本当は、もう今すぐにでも謝ってしまいたい。でも、おそらくそれをやってもあの子は絶対許してはくれないだろう。もうあの子の気が済むまで相手をするしかない……)
歯痒い思いを隠し切れない様子のカレン。
10
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀
黴男
SF
数百万のプレイヤー人口を誇るオンラインゲーム『SSC(Star System Conquest)』。
数千数万の艦が存在するこのゲームでは、プレイヤーが所有する構造物「ホールドスター」が活動の主軸となっていた。
『Shin』という名前で活動をしていた黒川新輝(くろかわ しんき)は自らが保有する巨大ホールドスター、『Noa-Tun』の防衛戦の最中に寝落ちしてしまう。
次に目を覚ましたシンの目の前には、知らない天井があった。
夢のような転移を経験したシンだったが、深刻な問題に直面する。
ノーアトゥーンは戦いによってほぼ全壊! 物資も燃料も殆どない!
生き残るためにシンの手にある選択肢とは....?
異世界に転移したシンキと、何故か一緒に付いてきた『Noa-Tun』、そして個性派AIであるオーロラと共に、異世界宇宙の開拓が始まる!
※小説家になろう/カクヨムでも連載しています
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
(完結)姉と浮気する王太子様ー1回、私が死んでみせましょう
青空一夏
恋愛
姉と浮気する旦那様、私、ちょっと死んでみます。
これブラックコメディです。
ゆるふわ設定。
最初だけ悲しい→結末はほんわか
画像はPixabayからの
フリー画像を使用させていただいています。
明日のおほしさま
ぱっりん
ファンタジー
6歳にも関わらず天才的な頭脳を持つ、医者を目指す少女、赤野れる。そんな、彼女が、交通事故にあった結果、「生き返る」かわりに、神様のお願いを一つ聞くことになってしまって・・・?
れるの奮闘と、医者、アイドル、忙しい毎日に成長してくお話
「庶子」と私を馬鹿にする姉の婚約者はザマァされました~「え?!」
ミカン♬
恋愛
コレットは庶子である。12歳の時にやっと母娘で父の伯爵家に迎え入れられた。
姉のロザリンは戸惑いながらもコレットを受け入れて幸せになれると思えたのだが、姉の婚約者セオドアはコレットを「庶子」とバカにしてうざい。
ロザリンとセオドア18歳、コレット16歳の時に大事件が起こる。ロザリンが婚約破棄をセオドアに突き付けたのだ。対して姉を溺愛するセオドアは簡単に受け入れなかった。
姉妹の運命は?庶子のコレットはどうなる?
姉の婚約者はオレ様のキモくて嫌なヤツです。不快に思われたらブラウザーバックをお願いします。
世界観はフワッとしたありふれたお話ですが、ヒマつぶしに読んでいただけると嬉しいです。
他サイトにも掲載。
完結後に手直しした部分があります。内容に変化はありません。
奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
Anastasia
恋愛
”王道”外れた異世界転生物語。
チートもない。ありきたりな、魔法も魔術も魔物もいない。これまたありきたりな公爵令嬢でも、悪役令嬢でもない。ヒロインでもモブでもない。
ついでに言うが、これまた、あまりにありきたりな設定の喪女でもない。
それなのに、なぜ私が異世界転生者……?!
この世界で生きていかなければならない現実に、もう、立ち止まらない、後ろを振り向かない、前を進んで行くだけ!
セシル・ベルバートの異世界サバイバル。絶対に生き抜いて、生き延びてみせます!
(本編概要)セシル・ヘルバートはノーウッド王国ヘルバート伯爵家の長女である。長く――無駄で――それでも必要だった7年をやーっと経て、嫌悪している侯爵家嫡男、ジョーランからの婚約破棄宣言で、待ちに待った婚約解消を勝ちとった。
17歳の最後の年である。
でも、セシルには秘密がある。
セシルは前世の記憶を持つ、異世界転生者、とういことだ。
“異世界転生者”の“王道”外れて、さっぱり理由が当てはまらない謎の状況。
なのに、なぜ、現世の私が異世界転生?!
なにがどう転んで異世界転生者になってしまったのかは知らないが、それでも、セシル・ヘルバートとして生きていかなければならない現実に、もう、立ち止まらない、後ろを振り向かない、前を進んで行くだけ!
それを指針に、セシルの異世界生活が始まる。第2の人生など――なぜ……?! としかいいようのない現状で、それでも、セシルの生きざまを懸けた人生の始まりである。
伯爵家領主に、政治に、戦に、隣国王国覇権争いに、そして、予想もしていなかった第2の人生に、怒涛のようなセシルの生がここに始まっていく!
(今までは外部リンクでしたが、こちらにもアップしてみました。こちらで読めるように、などなど?)
『小説カフェやすらぎ・フューチャー』
ミユー
SF
ネットで小説を書いている作家が集まるカフェのお話し。
時代は西暦2050年、舞台は東京、御茶ノ水。
※一話完結型の長編小説です。
※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは 一切関係ありません。
私を捨ててまで王子が妃にしたかった平民女は…彼の理想とは、全然違っていたようです。
coco
恋愛
私が居ながら、平民の女と恋に落ちた王子。
王子は私に一方的に婚約破棄を告げ、彼女を城に迎え入れてしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる