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ダークブレット4

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 この矢がどこから飛んできたのかは分からないが、前を歩いていた男ではないことだけは、今の混乱している頭でも分かる。

(助けを呼ばないと……)

 そう考えた星は、歩みを止め無言で星に背中を向けて立ち尽くしている男に向かって助けを求めた。

「……あの……たすけ……て……」

 今出せる最大限の声を出したつもりだった。しかしその声は弱々しく、とても声になっていたかは分からない。

 そんな星に男が振り向き、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
 すると、近くの木の上から茶色いローブを身を隠し、マスクをかけたエルフの男が飛び降りてきた。

「おい。剣に当たったらどうすんだよ!」
「俺を誰だと思ってる。狙った獲物は逃さないさ。武器も女もな……」

 エルフの男は星を連れて来た男と、親しそうに話をしている。
 それを見て初めて、星は自分が騙されたことに気が付く。

 自分が騙されたことが分かると、星は悔しそうに唇を噛み締めた。それは、上手くいって喜んでいる彼等に対してせめてもの抵抗なのだろう。

 だが、そんな彼女を差し置いて、男達は話しを続けている。

「でも今回は大物だぞ、あの剣は竜王の剣だ。一点物で取引すりゃ少なくても20万はいくだろうな」
「現物を拝むのは初めてだが、期間限定の高難度クエストを初めてクリアした一人だけに与えられる産物だ。50はいくな」

 彼等の会話を聞いた星は土を握り締め、痛みと怒りで震える声を振り絞った。

「うそ……だっ……たんで……すね……」

 星は瞳に涙を浮かべながら男を鋭く睨みつけた。

 地面にうつ伏せになった彼女に、男は微塵も悪びれる素振りも見せずに答える。

「ああ、学校で知らない人についていっちゃいけませ~んって教わらなかったの? 全く、そんないい装備をどこで手に入れたかは知らないけどさ。それじゃカモがネギじゃなく、宝石持って歩いてるようなものだよ? お嬢ちゃん」
「――くっ……ゆ、ゆるさ……ない!」

 悔しさで瞳から涙が流れ落ち、自分の不甲斐なさに胸の辺りが焼ける様に熱くなる。

 星が体に力を入れて立ち上がろうとしたのだが、思うように体が動かない。

 慌てて表示されているものを確認すると、輪の様になっていたHPバーが青から赤に変わり、その中に通常時は15と表示されていた数値も1になっている。しかも、その横には小さく人型が震えたような表示が出ていた。

(なんだろうこのマーク。でも、なんだか体がびりびりして……これって。もしかして!?)

 そのマークの意味が分かった瞬間、星の顔から血の気が引いた。

 星が気付いた通り、このマークは麻痺状態などの異常状態時に発生する表示で、人形がその時の体の状況を表してくれる。

 PVPのシステム上【OVER KILL】状態なら勝敗は付かない。それは今の星は足に刺さっている矢を抜かなければ、ダメージを受け続け一時的な不死身の状態となるということなのだ――。

 ここで何とかして男を倒せれば星の勝利となり、男達も退散する可能性もあるだろうと星は考えていた。だが、それは現実的に不可能に近い。
 何故なら、足にはエルフの男の放った矢が刺さり。しかも、刺さっている箇所はまるで焼けるような激痛を伴っている。

 その状態で、更に2対1の状況だけではなく。しかも、男達とは体格差もかなりある。これだけでも星に勝ち目が薄いのに、そこに麻痺まで加わっているとなると、勝機は絶望的と言わざるを得ない。

 この絶望的な状況で星に取れる唯一の方法は、ただ逃げることのみ。

「はぁ……はぁ……に、逃げな……きゃ……」

 この男達の狙いが剣だということは、これを渡せば助かるかもしれない。しかし、それは絶対にできない。

 渡しても逃してもらえるか分からないし。これは元々はエミルの物だ、こんな卑劣な人達に奪われるわけにはいかないと思ったからだ。

 男達は何やら指でコマンドを操作し、誰かと連絡を取っているようだ。

(……逃げ出すなら、今しかない!)

 星は薄れゆく意識の中で、必死に腕を伸ばし少しでも離れようと試みたその時、右足に再び鋭い痛みが走った。    

 その痛みの原因は逃げようと這っていた星に対して、エルフの男は、矢の刺さったままになっていたその右足を強く踏みつけていたのだ。

「――いっ! いやああああああああああッ!!」

 星は悲鳴を上げると、そのあまりの痛みに地面を引っ掻き、苦痛で額から汗を流し顔を歪ませている。
 しかし、エルフの男は苦しむ星を見ても表情1つ変えない。まるで、感情など元より持ち合わせていないかのように……。
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