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ログアウト不可3

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 言っても『たかがゲームに魂を取り込まれる?』そんなことあるはずがないし、あっていいはずもない。だが、ここに居る誰もが分かっていながらも、それを否定することができなかった。

 ログアウトできない今の状況からして、画面の中の男が全て嘘を言っているようには決して思えなかったからだ。 
 それは何者かが意図的にシステムを操作しているということで、それが彼が言うシルバーウルフという組織ならば納得が付くからに他ならない。

 少しの沈黙の後、男はまた言葉を続ける。

「しかし、一方的にゲーム内に閉じ込めるだけで、脱出する手段が無いというのも不公平だろう。それは私の美学にも反している――なので、君達にチャンスを上げよう。このゲームのフィールドのどこかに存在する隠しダンジョン【現世界元の洞窟】がある。そこの最深部にある【現世の扉】を潜れば現実世界へと戻れる。しかし、参加パーティーのメンバーのみだ。せいぜい足掻いて見せてくれたまえ……それでは、健闘を祈る。ゲーマーの諸君……」

 その言葉を最後にモニターは真っ黒になり、辺りは静まり返っていた。

 状況が整理できないのか、その場に居たプレイヤーは何が起きたのか分からず、皆途方に暮れるしかなかった。

 衝撃の会見の後。星はただただ呆然と暗くなった画面を見つめていた。
 心中にはもしかしたら、もう一度なにか新しい情報が流れるのではないか……という淡い期待があったのは事実だ――。

 しかし、無常にも時は流れるだけで、あの会見以降モニターが再び映ることはなかった。

「もう夜中の2時よ……星ちゃん。これ以上ここに居ても仕方ないわ。行きましょう……ねっ?」

 心配したエミルが肩に手を置くと、星の頬を涙が止めどなく流れ落ちた。

「――うっ……でも……ひぐっ……また……なにか、映るかも……しれませんし……」

 おそらく、星はもう二度と母親には会えないかもしれないという行き場のない思いが、涙という形になって溢れているのだろう。

 星は今更ながらに、自分の軽率な行動を悔いていた。

 今日、学校を休まなければ……。
 あの時、街でこのブレスレットを貰わなければ……。
 好奇心で、このゲームを起動さえしなければ……。
 母親と喧嘩をしていなければ……。

 そんなすでに意味のない後悔だけが脳裏を過る。

 もう悔いても仕方ない――そんなことは分かっていても、考えてしまうのが人の悪いところかもしれない。

 後悔と自責の念から、自己嫌悪に陥っている星。

「星ちゃん。気持ちは分かるけど……とりあえず状況を整理しないといけないし。一度帰りましょう?」

 エミルが声を掛けると、星は我に返った様に潤んだ瞳で彼女を見上げた。

「――ぐすっ……でも、どこへ……?」
「そうねぇ~。星ちゃんはこっちに来たばかりだから、マイハウスにも生活に必要な物。何もないだろうし……よし! 私の家へいらっしゃい。少なくとも生活するのには困らないわ!」

 すすり泣いている星の手を握ると、エミルは自分の家のある方向へと歩き始めた。

 夜になってライトアップされ、昼とは異なり綺羅びやかになった街の繁華街をしばらく2人で歩いていると、星はある重要なことに気が付く。

「エミルさんの家って、私の家と真逆の方向なんですね……」

 だが、その質問も最もだ。この世界に来た時に用意された星の家の近くには、他にも多くの家が立ち並んでいた。

 この世界では限られた空間を有効に利用する為、接続した時に取得するマイホームを複数プレイヤーが使用できる様になっている。

 もちろん。それでは他のプレイヤーが家に自由に出入りしてしまうことになってしまう。

 だからこそ、ここでいう他のプレイヤーが利用するのは家ではなく家が立っている番地の方だ――簡単にいうと、立体駐車場をイメージしてもらえれば分かりやすいだろう。プレイヤー全員に個々に設定されているシリアルナンバーを検知して、そのプレイヤーのマイハウスを呼び起こすというシステムだ。

 そのシステムがあるからこそ、プレイヤーがゲームを始めたと同時にマイハウスを与えることができる。なら、普通に考えてエミルの家もその一角にあると考える方が自然だろう。

 しかし、今は明らかに街の出口に向かって歩いているように感じる。 

 その質問に答えるようにエミルが口を開いた。

「いや、なんていうか……私の家は特別な場所にあるからね。でも、星ちゃんみたいなファンタジー好きな子はきっと気に入ると思うわよ?」

 嬉しそうにそう話す彼女の顔を見上げ、星は小首を傾げた。

 だが、彼女の『ファンタジーが好きな子は』という言葉の意味が、星にはいまいちピンとこない。
 しかし、にこにこと微笑んでいるエミルを見ていると、だんだん自分まで楽しい気分になってくるから不思議だ。
 
「良かった。テレポートは無事みたいね」
「テレポート?」

 星の目の前には、魔法陣の書いてある祭壇のような建造物が建っていた。
 2人がその上に乗ると魔法陣は青く光輝き出し、その光りが一気に空へと向かって立ち上がる。

 星はその眩い光りに驚いて目を閉じる――次に目を開いた時には、2人は森の中の祭壇の上に立っていた。
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