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初めてのVRMMO6
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「別に謝ることじゃないけど……あ、そうだ!」
エミルは何かを思い出したようにぱちんと手を合わせると、徐ろに自分のコマンドを操作し始めた。空中で指を動かしている彼女の姿を、星は興味津々な様子で見つめていると、不意にエミルがにっこりと微笑んだ。
「――友達になった記念に、これを貴女にプレゼントするわ!」
にこにこと微笑んでいる彼女の手には、柄に竜のエンブレムが入った古そうなロングソードが握られていた。
「ありがとうございます。……でも。これ大きい……です」
不安そうな表情で、エミルの手の中の剣を困惑した表情で星が見つめている。
星がそう思うのも無理はない。何故なら、その剣は星の身長の半分以上の大きさで、とても小柄な彼女に扱える代物とは到底考えられない。
「そう思うでしょ? でも、筋力補正があるから、今のままでも振るだけならできると思うわ。とりあえず、この剣を持って振ってみて」
「は、はい」
星は剣を受け取ると、言われた通りにぶんぶんと振ってみた。
「あれ?」
剣を振っている星は不思議な違和感を感じ、思わず首を傾げる。
「ふふっ。分かった? その長さだと、頑張っても素早く振れないでしょ?」
「は、はい」
エミルは悪戯に笑うと、不思議そうな顔をしている星に話し掛ける。
「そう。この世界には重さは存在しない。でも一部の例外はある。それが戦闘における個の優位性よ」
「……この、ゆういせい?」
急に難しい言葉が入ってきて、少し困惑した星が途端に難しい顔をする。
それも無理はない。普通は個の優位性などという言葉を、小学生である彼女が耳にすることはないと言っても過言ではないのだから。
エミルはそんな星の様子を楽しんでいる様に、にこにこと微笑んでいた。
「簡単に説明すると……そうねぇ~。星ちゃんはお団子は好き?」
「えっ? は、はい」
「そのお団子を、私は箸。星ちゃんは爪楊枝で食べるとするでしょ? その時に、私と星ちゃんが同時に動いて、同じ場所にあるお団子を取ろうとする。っとお団子はどうなるかしら?」
「えっと……箸より爪楊枝の方が短くて……だから。エミルさんに、取られる?」
難しい顔をして考え込んでいた星がその質問に自信なさそうに答えると、エミルの顔色を窺うように見上げる。
「うん。正解! 星ちゃんは賢い子ねぇ~」
「えへへ」
エミルに褒められて頭を撫でられ、嬉しそうに微笑む星に向かって再びエミルが説明を始めた。
「基本的に武器というものは、長ければ長いほどリーチと重さがある分。攻撃範囲と振り下ろした時の勢いが増して、必然的に攻撃力は高くなるわ。それが優位性――もし。それをそのまま放置してたら、日本人より身長の高い外国人が最強の無法地帯になるでしょ?」
「はい」
「それを阻止するために、このゲームにはバランス調整機能が付いてるの。さっきの筋力補正もそう、レベルによって持てる上限数値が上昇するけど最大値は皆同じ。ちょっとコマンドを開いてもらえる?」
星はエミルに言われた通りに、覚束ない手付きでコマンドを開く。
エミルは、星の指が止まったのを確認してから次の言葉を発する。
「――開いたら、オプションのバランス調節を押してみて」
星は静かに頷き、バランス調節の項目を指で押した。
その直後、手に持っていたロングソードが短くなり、星の体に合う丁度いい長さに変わった。
それを確認したエミルにもう一度剣を振ってみるように言われ、その通りに握っていた剣を3回ほど振ってみた。
「……あっ、使いやすい」
さっきまでの剣に振り回される様な違和感が完全に消え、スムーズに切り返しができるようになっていた。
「でも短くなった分、それがハンデになる。でも、その代わりに、武器攻撃力と攻撃速度に若干のボーナスポイントが付くから、あとは星ちゃん自身の腕でどうとでもなるわ」
「そう、なるかなぁ……」
一抹の不安を残し、星は自信なさげに苦笑いした。
元々自分に自信がある性格ではない星にとって、その反応は普通のことだった。しかし、理由はそれだけではない。
一番はゲーム初心者の小学生が大人に混じって、しかもVRと言う最近流行り出したばかりのゲームジャンルをプレイするには若干の無理があるということだろう。
彼女自身、そのことに不安を感じているのは言うまでなかった。
「武器や防具のバランス調整はオートで働くようにした方がいいから、下の項目の四角い場所を指で押してチェックを入れておくといいわね」
「あっ、はい」
上下に剣をブンブンと振っては首を傾げていた星がエミルの言葉に頷くと、オート調整と書かれたところを指で押した。
エミルは星の様子からオートへの切り替えを終えたのを確認するなり、ラットを横目で見た。
「こいうのは習うより慣れろって言うからね……ほら、次は星ちゃんの番よ」
「えっ? ちょっと、まだ気持ちの整理が……」
強引にエミルに「いいからいいから」と背中を押され、敵の前に出た星を捉えた一匹のラットが警戒態勢に入る。
エミルは何かを思い出したようにぱちんと手を合わせると、徐ろに自分のコマンドを操作し始めた。空中で指を動かしている彼女の姿を、星は興味津々な様子で見つめていると、不意にエミルがにっこりと微笑んだ。
「――友達になった記念に、これを貴女にプレゼントするわ!」
にこにこと微笑んでいる彼女の手には、柄に竜のエンブレムが入った古そうなロングソードが握られていた。
「ありがとうございます。……でも。これ大きい……です」
不安そうな表情で、エミルの手の中の剣を困惑した表情で星が見つめている。
星がそう思うのも無理はない。何故なら、その剣は星の身長の半分以上の大きさで、とても小柄な彼女に扱える代物とは到底考えられない。
「そう思うでしょ? でも、筋力補正があるから、今のままでも振るだけならできると思うわ。とりあえず、この剣を持って振ってみて」
「は、はい」
星は剣を受け取ると、言われた通りにぶんぶんと振ってみた。
「あれ?」
剣を振っている星は不思議な違和感を感じ、思わず首を傾げる。
「ふふっ。分かった? その長さだと、頑張っても素早く振れないでしょ?」
「は、はい」
エミルは悪戯に笑うと、不思議そうな顔をしている星に話し掛ける。
「そう。この世界には重さは存在しない。でも一部の例外はある。それが戦闘における個の優位性よ」
「……この、ゆういせい?」
急に難しい言葉が入ってきて、少し困惑した星が途端に難しい顔をする。
それも無理はない。普通は個の優位性などという言葉を、小学生である彼女が耳にすることはないと言っても過言ではないのだから。
エミルはそんな星の様子を楽しんでいる様に、にこにこと微笑んでいた。
「簡単に説明すると……そうねぇ~。星ちゃんはお団子は好き?」
「えっ? は、はい」
「そのお団子を、私は箸。星ちゃんは爪楊枝で食べるとするでしょ? その時に、私と星ちゃんが同時に動いて、同じ場所にあるお団子を取ろうとする。っとお団子はどうなるかしら?」
「えっと……箸より爪楊枝の方が短くて……だから。エミルさんに、取られる?」
難しい顔をして考え込んでいた星がその質問に自信なさそうに答えると、エミルの顔色を窺うように見上げる。
「うん。正解! 星ちゃんは賢い子ねぇ~」
「えへへ」
エミルに褒められて頭を撫でられ、嬉しそうに微笑む星に向かって再びエミルが説明を始めた。
「基本的に武器というものは、長ければ長いほどリーチと重さがある分。攻撃範囲と振り下ろした時の勢いが増して、必然的に攻撃力は高くなるわ。それが優位性――もし。それをそのまま放置してたら、日本人より身長の高い外国人が最強の無法地帯になるでしょ?」
「はい」
「それを阻止するために、このゲームにはバランス調整機能が付いてるの。さっきの筋力補正もそう、レベルによって持てる上限数値が上昇するけど最大値は皆同じ。ちょっとコマンドを開いてもらえる?」
星はエミルに言われた通りに、覚束ない手付きでコマンドを開く。
エミルは、星の指が止まったのを確認してから次の言葉を発する。
「――開いたら、オプションのバランス調節を押してみて」
星は静かに頷き、バランス調節の項目を指で押した。
その直後、手に持っていたロングソードが短くなり、星の体に合う丁度いい長さに変わった。
それを確認したエミルにもう一度剣を振ってみるように言われ、その通りに握っていた剣を3回ほど振ってみた。
「……あっ、使いやすい」
さっきまでの剣に振り回される様な違和感が完全に消え、スムーズに切り返しができるようになっていた。
「でも短くなった分、それがハンデになる。でも、その代わりに、武器攻撃力と攻撃速度に若干のボーナスポイントが付くから、あとは星ちゃん自身の腕でどうとでもなるわ」
「そう、なるかなぁ……」
一抹の不安を残し、星は自信なさげに苦笑いした。
元々自分に自信がある性格ではない星にとって、その反応は普通のことだった。しかし、理由はそれだけではない。
一番はゲーム初心者の小学生が大人に混じって、しかもVRと言う最近流行り出したばかりのゲームジャンルをプレイするには若干の無理があるということだろう。
彼女自身、そのことに不安を感じているのは言うまでなかった。
「武器や防具のバランス調整はオートで働くようにした方がいいから、下の項目の四角い場所を指で押してチェックを入れておくといいわね」
「あっ、はい」
上下に剣をブンブンと振っては首を傾げていた星がエミルの言葉に頷くと、オート調整と書かれたところを指で押した。
エミルは星の様子からオートへの切り替えを終えたのを確認するなり、ラットを横目で見た。
「こいうのは習うより慣れろって言うからね……ほら、次は星ちゃんの番よ」
「えっ? ちょっと、まだ気持ちの整理が……」
強引にエミルに「いいからいいから」と背中を押され、敵の前に出た星を捉えた一匹のラットが警戒態勢に入る。
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