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クソ野郎、ようやく追放

「文字通りのクソ野郎」

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「もー! 良いことしたと思ったらあんたは!」

 レイは道の端で立ち止まると、シャルルルカに怒鳴りつける。

「お前は知らん女にいきなり手を握れと言われて握るのか? 肥溜めに突っ込んだ手かもしれないんだぞ?」
「そんなところに手ぇ突っ込んだらちゃんと洗うでしょ! あんたじゃあるまいし!」

 レイは深くため息をついた。
 今から十年程前、人間と魔族は戦争をしていた。
 町の外では日夜攻撃魔法が飛び交い、魔物が人間を襲おうと目を光らせていた。
 レイの師匠、シャルルルカは魔王を討った偉大な魔法使いだったという。
 一度名前を出せば、必ず歓迎される。
 先程の女性しかり。
 レイはそれが信じられなかった。
 確かに魔法の腕は一流だと思う。
 本物と見紛うような幻影魔法でひったくりを失神させる様は鮮やかだった。
──でも、人間としては全然駄目。
 話している人を必要以上に煽り倒して激怒させたこと数知れず。
 意味のない嘘をつき、壁や人にぶつかりながら歩き、紅茶を飲む際は頭から被る。
 金の扱いは非常に雑で、バーで全財産使い切ったり、怪しげな壺を買ってきたりする。
 真夜中に大声で独唱、人通りの多い道で脱糞などの数々の奇行などなど……。

「文字通りのクソ野郎! 何度あんたの尻拭いをさせられたことか!」 
「クソだけにか? 上手いなあ、レイ」
「反省しろ!」

──この人と話していると本当に頭が痛い。
 レイは頭を抱えた。
──何を考えて発言しているのか、何も考えず発言しているのか本当に区別がつかねえんだよね……。

「……もう良いです。早く次に入れてくれる奇特なパーティーを探しましょう」
「別に私はパーティーを組まなくても良いが」
「あんたの後始末をあたし一人でやれと……?」

 レイはギロリとシャルルルカを睨みつけた。

「確かにあんたなら一人で冒険者をやれるでしょうよ。でも、あんたは人と関わって、人への思いやりってのを学ばないと駄目だ!」
「思いやりねえ……」

 シャルルルカは顎に手を当てた。

「そういえば、レイ、お前かなりの大金を貰ったようだな。私の分も入っているようだ。寄越せ」
「だ、駄目ですよ! これはあたしにってみんながくれたものなんですから!」

──渡したら飲み代や怪しい壺代に消えるに決まってる!
 レイは奪われないように巾着袋をリュックに急いでしまう。
 そのとき、リュックの中でくしゃくしゃに編入志願書が目に入った。

「王都の学校に行きたいって言ってたよな?」

 ギルドでのリーダーの言葉を思い出す。
 レイはシャルルルカに三年の間、魔法の基礎を教わった。
──ちゃんとしたところで魔法を学びたい。
 というのも、シャルルルカは大変気まぐれで、魔法を教えたり教えなかったりするのだ。
──あたしは、シャルル先生を超える立派な魔法使いになりたいんだ。
 その目的のために通う学校はもう決めてある。
 ドロップ魔法学園。
 王都にある小中高一貫校だ。
 個々の実力に合わせた授業、蔵書数の多い図書館などの魔法施設が非常に魅力的に見えた。
 はやる気持ちを抑えられず、編入志願書も書いてしまった。
──お金が貯まるまでこれは出せない、って思ってたんだけど……。
 レイはシャルルルカをちらりと見る。
 シャルルルカは当てもなくフラフラと歩き、人にぶつかった。
 そして、謝るでもなく再びフラフラと歩き出す。

「シャルルルカ先生、ちゃんと歩いて下さい!」

 シャルルルカの足は酒も入っていないのにおぼつかない。
 そのため、壁やすれ違う人にぶつからないようにレイがシャルルルカの腕を引くのが常だった。
 学校に入るための資金はメンバー達が募ってくれた金で目標金額には達した。
 しかし、歩く迷惑であるシャルルルカを放って、一人で学校に行くのは不安だ。
──先生がちゃんとするまで学校には行けないよ……。
 ふと夜の空を見上げる。
 手紙の入ったバックを提げたフクロウが飛んでいた。
 夜に郵便物を運ぶ使い魔の伝書フクロウだ。
 一羽の伝書フクロウがシャルルルカの前で止まる。

「ホーホー。シャルルルカ・シュガー様でお間違いないですか?」
「あ、間違ってるぞ」
「嘘です! 間違ってないです! もう! 手紙くらいちゃんと受け取って下さいよ、全く!」

 受け取らないシャルルルカの代わりに、レイが手紙を受け取る。
 それを確認した伝書フクロウは次の届け先へと飛び立った。

「先生に手紙が届くなんて珍しいですね……」

 レイは差出人を確認するべく手紙をひっくり返す。
 すると突然、手紙が光り出した。

「うわっ!」

 レイは驚いて、手紙を落としてしまう。
 地面に落ちた手紙の光が一人の人物を映し出す。
 修道服を纏った女性だ。
 女性が口を開く。

『お久しぶりです、シャルルルカ様』

「て、手紙が喋った……!?」
「幻影魔法だよ。毎日見せてるだろ」

 手紙の女性にはレイ達の声が聞こえていないようで、構わず話を続けた。

『覚えていらっしゃるでしょうか? 同じパーティーにいたアレクシス・シュークリームです。貴方が消息を断ってから十年、わたくしは貴方の身を案じておりました』

「心配してたなら探しに来いよな」
「あんたが本気で隠れたら見つからないでしょうよ」

 昔、修行の一環でかくれんぼをしたとき、シャルルルカを見つけられなくて泣いたことをレイは思い出す。
 そのとき滞在していた土地の冒険者ギルドに依頼を出して探して貰い、見つかったのはかくれんぼを初めてから四日後のことだった。
 ちなみに、かくれんぼを始めた場所から二つ山を超えた町のバーでシャルルルカは飲んだくれていた。

『先日、貴方が冒険者ギルドに出入りしていると聞きました。パーティーメンバーに馴染めず、加入と脱退を繰り返しているそうですね』

「誰から聞いたんだか……」

 シャルルルカは呆れて上を向く。

『わたくしは今、王都で魔法学園の経営をしています。シャルルルカ様さえよろしければ、子供達に魔法を教えてはくれませんか? 良いお返事を待っています』

 手紙が光を放つのを止めると同時に、投影されたアレクシス・シュークリームであろう女性が消える。
 残されたのは魔力のなくなった手紙だけだった。

「全く、勝手な……」

 シャルルルカは手紙を拾い上げる。
 レイはキラキラとした目でシャルルルカを見ていた。

「良い話じゃないですか、先生! やりましょうよ! 定職ですよ、定職! 全く向いてないところには目を瞑らねえとですが!」
「私に教えられてる立場だぞ、君」

 レイは興奮を抑えられなかった。
 王都の学園といえば、ドロップ魔法学園。
 レイの憧れの学校だ。
──ドロップ魔法学園を生で見たい。あわよくば校舎の中に入りたい!
 そんな気持ちで支配されていた。

「お返事を書いて、学園に向かいましょう! ね! ね!」
「学園って王都にあるんだろう? あそこ、私の銅像があるから行きたくないんだよ……」
「あんたの銅像なんてある訳ねえでしょ! ぐにゅぐにゅ言ってねえで行きますよ! 学園長をなんとか言いくるめて安定した職を得るんです!」

 レイはシャルルルカの首根っこを掴み、箒に飛び乗る。
 目指すは王都だ。
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