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第三部 決着をつけてやろう!

第四十三話 老人と話してやろう!

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「座標ではここがブジャルドなのだが……」

 周囲を見渡しても村がない。
 それどころか、家の残骸や枯れた植物すらない。
 荒地が広がっているだけだ。

「どうなっている?」

 我が輩はブジャルド行きを言い出したグロルを見る。
 グロルはぶるぶると首を横に振った。

「いや、俺が知る訳ないじゃんか」

「それもそうか」

 では、何故?
 まさか、1000年前にフラットリーがいたというのは嘘なのか?
 それとも、ブジャルドがフラットリー教の聖地ということが嘘?
 ここにバレットがいれば直ぐ調べさせるんだが、現代に置いて来てしまったしな……。

「つーか、そもそも、ここ本当に1000年前なのか?」

「間違いなく1000年前だよっ!」

 グロルの言葉にあの魔法を作った張本人、ラウネンが胸を張って言う。

「あの魔法陣はボクが生涯を賭けて作り上げた完璧な魔法陣! 失敗なんてあり得ない!」

「でも、あの魔法を発動したことないんですよね?」

「り、理論上は可能だもんっ!」

 グロルが疑いの目をラウネンに向ける。
 ラウネンはそれから逃げるように目を逸らした。
 グロルが疑うのも無理はない。
 初めて発動した魔法ならば尚更。
 しかし、魔法の失敗はないと見て良い。
 我が輩がさっと見たところ、魔法陣には時を超えるための術式がちゃんと組み込まれていた。
 確実に時は超えている。
 ブジャルドがあった場所にないのがその証明になるだろう。

「あ!」

 ラウネンは目を逸らした先に何かを見つけたらしい。
 ラウネンの視線の先に目をやると、そこには一人の老人がいた。
 老人は岩に腰掛けて項垂れている。

「ラッキー! 人がいるよっ! あの人に聞いてみようっ!」

「そうですね……。すみませーん!」

 グロルが大きく手を振りながら老人に駆け寄る。
 老人はそれに気づいてゆっくりと顔を上げた。

「ブジャルドって村を探してるんですんけど、何処にあるか知りませんか?」

「ブジャルド? はて……。道を間違えたのでは?」

 老人の言葉を聞いて、コレールとグロルが顔をしかめる。

「な、訛りが、強いな。聞き取れない……」

「訛りって言うか、言語が微妙に違うねっ。これは……古語かなっ?」

「あ、そうか。ここは、1000年前だから、古語が使われてる時代なのか……」

 ラウネンがあたかも予想のように言っているが、こいつも1000年前を生きていたからな。
 古語を使っていた側だ。

「そういや、学院で古語の勉強したっけな……。記憶を頼りに翻訳するっきゃねえ」

 と、言っていたグロルだったが、直ぐに頭を抱えてしまった。

「古語なんて何の役に立たねえと思って、まともに聞いてなかった……。こんなことならちゃんと勉強しときゃ良かったぜ!」

 やはり、言語の壁は大きい。
 人間と魔族は勿論、魔族同士でも言語が違うことがあるからな。
 僻地の部下と会話するときそれはもう面倒だった。
 《翻訳》魔法を作ってからは大変楽になった。

 ……そう考えると、我が輩とコレール達の間に言語の違いがあってもおかしくないな。
 我が輩が普段から《翻訳》魔法を使っているから知らないだけか。

「聞き取れないようだのう。では……」

 老人はコレール達に《翻訳》魔法をかけた。

「これで聞き取れるかのう?」

「あっ。聞き取れる! なんで!?」

「《翻訳》魔法ですじゃ。そんなに驚くような魔法ではないのじゃが……」

 「ふむ」と老人は自分の顎の髭に手を当てる。
 コレールとグロルを髪の毛の先から足のつま先までまじまじと見た後、こう言った。

「君達はこの時代の人間ではないようだのう」

「えっ。どうしてわかったんですか?」

「ふぉっふぉっ。この時代を生きてきたにしては少々軟弱過ぎるからのう」

「な、軟弱……」

 コレールはショックを受けている様子だ。
 まあ、事実だから仕方ない。
 先程、サラマンダーとエンカウントしたばかりだ。
 あの程度の魔物がごろごろいるのなら、コレールとグロルはまず生き残れないだろうな。

「して、何をしにこんな時代に来たんじゃ」

「人を捜しに来たんだ。フラットリーって奴。じーさん、知ってるだろ?」

「フラットリー……? 知らぬのう」

「あれ……?」

 コレールとグロルはサッと顔を寄せ合う。

「どういうことだよ? フラットリーは人間に魔法を与えたんだろ? だったら、有名のはずじゃねえのか?」

「そ、そうだよね……。魔法が使えるなら、知ってておかしくないのに……」

 まあ、それは嘘だからな。
 人間に魔法を与えたのは我が輩だし。

 しかし、困ったな。
 この時代はフラットリーの嘘がまだ浸透していないのか。
 どうやってフラットリーを捜すべきか……。
 やはり、飛び回って捜す他ないか。

「人捜しもほどほどにして、早く元の時代に帰った方が良いぞい。いつ【剿滅の魔王】が気まぐれを起こして世界を滅ぼすかわからぬからのう」

「そうめつの……? ま、魔王メプリって、そんなに、強いんですか」

「メプリ? いやいや、メプリは魔王ではないぞい」

「え? じゃ、じゃあ、ルザが魔王ですか?」

「メプリもルザも魔王の従えてる四天王の名前ですじゃ。メプリは【生殺王】とも呼ばれておる。ルザは【最弱王】……じゃったかな」

「してんのう……? せいさつおう……? さいじゃくおう……?」

 1000年後では聞かない単語がどんどん出て来てコレールが混乱している……。

「メプリも強いが、【剿滅の魔王】は規格外に強い。あれを止められる者など今の時代にはおらぬじゃろう。悪いことは言わん。早く元の時代に帰るのですじゃ」

「そういう訳にもいかねえんだよ。フラットリーを止めねえとボースが……」

 グロルが唇を噛み、ぎゅっと拳を握り締める。
 その様子を見て、老人が聞く。

「ボース?」

「そう。ボースハイトつって滅茶苦茶悪い奴」

 悪い奴なのか……。
 まあ、良い奴とは言えないか。
 ボースハイトは意地が悪くて、自分勝手だった。

「でも、俺の大事な仲間なんだ。フラットリーのせいでいなくなっちまった……。だから、それを止めに来たんだ」

「そうか……」

 老人は遠くを見つめる。
 しかし、直ぐ視線をグロル達に戻し、穏やかに笑う。

「なら、何も言わぬよ」

「悪い。手間取らせたな、じーさん」

「いいや、有意義な時間じゃった」

 コレールとグロルが老人に背を向けて歩き出す。
 我が輩も同じように歩き出そうとした。
 そのとき、老人が近づいてきて、我が輩に耳打ちをした。

「君、【?」

 ドクン、と胸が高鳴った。

「擬態していてもわかる。魔王の恐ろしさはこの身体に染みついておるからのう」

 ハッとして、コレールとグロルを見る。
 二人は二人でこそこそと話していて、老人の声は聞こえていないようだった。

「フッ。恐怖が身体に染みつくとは、流石臆病者だ」

 そう言うと、老人は目を丸くした。

「まさか覚えてくれてたとは。わしのことなど忘れているものだと思っておった」

「思い出すきっかけがなかったら、忘れたままだったかもしれんな……」

 再び二人を見る。
 彼を思い出したのはコレールと出会ったのがきっかけだった。
 同じ日にボースハイトやグロルと出会った。
 遠い昔のように思えるが、はっきりと覚えている。

「未来はわからぬものですのう……」

 老人は我が輩と同じように二人を見て、しみじみと言う。

 何を言っておる。
 

「ではな。タイレよ」

 そう言って、老人--タイレ・ムートと別れた。
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