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第一部 勇者学院に潜入してやろう!
第十一話 野宿をしてやろう!
しおりを挟む魔物を強制的にエンカウントさせ、三人に倒させながら森を進んだ。
我が輩も戦いたかったが、我慢だ。
こいつらが勇者と呼べるほど成長したときまでグッとこらえるのだ。
日が傾いてきた頃、コレールが足を止めた。
「そ、そろそろ、休もう……」
コレールが足を止めたことで、我が輩達も立ち止まる。
「そうしましょう。夜の森を歩くのは危険ですからね」
「お前らに賛成するのは不本意だけど賛成。誰かさんが魔物連れてくるせいでもうクタクタだよ」
「クタクタだと? さっきの戦闘後に《全回復》してやったろう」
「精神的に疲れてんだよ! 休ませろ! この魔王!」
「ままま魔王ではない!」
「いや、本当みたいな反応するなよ……」
「本気で言ったのではないのか?」
「そんな訳ないだろ」
なんだ。
正体がバレたのかとヒヤッとしたではないか。
「悪逆非道な人間のことを、ま、『魔王』だって、揶揄することがあるんだ」
コレールがそう教えてくれた。
我が輩、そんなに悪逆非道な行いをしていたか?
今日は天変地異を起こしたり虐殺したりしてないぞ。
ボースハイトは勘が鋭いのかもしれない。
気をつけよう。
「とりあえず、今日はもう休みましょう」
小枝や枯れ葉、薪になりそうな枝を集め、魔法で火をつける。
それを囲うように我が輩達は座った。
「野宿なんて久々。入学してからずっと寮に住まわされてたし」
「野宿が好きなのか? 珍しい」
魔族は家を建てても我が輩に直ぐ壊されるから建てない者が多い。
魔物となると家を建てる脳がないからな。
巣を作る種はいるが。
人間は何度壊されても家を建ててそこに住むではないか。
「魔法使いに家があると思ってるの? ……いや、お前はありそうだな」
如何にも、立派な城に住んでいる。
「何故魔法使いに家はないのだ?」
「魔族は魔族に襲われませんから家など必要ないでしょう? 私達人間は魔族に襲われますから家が必要なのです」
そうか?
魔族だってゆっくりベッドで寝たいだろう。
我が輩もそのために城を構えたし。
「フラットリー様のご加護があれば襲われずに済みます。やはりフラットリー様は素晴らしいお方ですね」
「グロルちゃん、そろそろそのキャラ止めたら」
グロルは固まる。
「……何の話でしょう? ボースハイト様」
「僕、心が読めるんだ。お前が背信者だってことはもうわかってるんだよ」
グロルはジッとボースハイトの顔を見る。
嘘かどうか見極めているようだ。
ボースハイトの言葉に嘘偽りはない。
心が読めるのも事実であり、《思考傍受》でグロルの本性を把握したのも事実だ。
グロルは一つため息をつくと、こう言った。
「……なーんだ。バレてんなら無理して演じなくて良いな」
グロルは正座していた足を崩し、あぐらをかいた。
そして、ギザギザの歯を見せつけるようにニヤリと笑う。
「騙して悪かったな。信者のフリしてた方が何かと都合が良いんだよ。わかるだろ? ボース。俺様なりの処世術って奴だ」
「ボースって呼ぶな」
「つれねーこと言うなよ! パーティの仲間だろ?」
グロルは下品に笑いながらボースハイトの肩をバンバン叩いた。
「ぐ、グロル……?」
コレールが声を震わせて名前を呼ぶ。
コレールは豹変したグロルを見つめながら、はくはくと口を動かしている。
「コレールはまだ気づいてなかったのかよ。鈍いねえ。じゃあ、改めてまして。俺様はグロル。フラットリーなんてクソ食らえだぜ! ぎゃはははは!」
唾を撒き散らしながら大笑いするグロル。
コレールは「ええ……」と言いながらグロルと距離を取った。
ドン引きじゃないか。
「うぃ、ウィナは知ってたのか? 驚いてないけど……」
「知ってたぞ」
「ええ……」
コレールは我が輩からも距離を取った。
何故。
「それにしても、あっさり本性現したな。てっきり隠しておきたいものだと思っていたのだが」
「三人中二人にバレてんならバラしても良いかなって」
それで良いのか。
「……あ、そうだ。お前ら腹減ってねえ? 良いものあるぜ」
法衣の下から出て来たのは大きな果実。
我が輩が受け取るのを拒否した【神聖な果実】である。
グロルはこれまた法衣からナイフを取り出し、果実を四等分に切った。
一人一切れ、果実を手渡す。
コレールとボースハイトはまじまじと果実を見つめた。
「な、なんか凄そうな実だな……」
「フラットリー教に伝わる伝説の【神聖な果実】じゃないの、これ」
「えっ!?」
グロルは【神聖な果実】を豪快に食べながら笑う。
「こっそりくすねてきたんだ。信者共には内緒だぜ?」
「ええ……」
「お前、滅茶苦茶背信者じゃん。僕達がバラしたら首刎ねられるんじゃないの」
「ぎゃはは! そんときはそんとき考えるわ!」
ボースハイトは果実を一口かじった。
続いて、二口、三口と口にしていく
「……まあ、内緒にしとくけど」
果実が気に入ったらしい。
我が輩も果実を食べる。
果実は非常に甘い。
歯がドロドロに溶けてしまいそうだ。
コレールは果実をジッと見つめたまま止まっている。
まだ食べるのを躊躇しているらしい。
「食わねえのか? コレール。普通に美味いぜ?」
「でも、大事な実、なんだろ」
「インチキ宗教の崇めてるもんなんて大したことねーよ! ほら、食え食え!」
グロルはコレールの口に果実を突っ込んだ。
コレールは口に入ったそれを恐る恐る噛んだ。
「な? 美味いだろ?」
コレールはこくりと頷いた。
□
「ふあ……」
ボースハイトが欠伸をする。
ボースハイトはハッとして慌てて口を閉じる。
「眠いのか? いつそんな魔法を食らったのだ。グロル、治してやれ」
「いや、何その発想。この時間なら普通眠くなるでしょ」
「我が輩は眠くならない」
我が輩は眠り無効だから眠り状態にならない。
二度寝の快楽や暇潰しのために寝ることはあるが、流石に野外では寝ない。
野外で眠り状態になったら敵に襲われて死ぬだろう。
「なら、魔物が襲って来ないか一晩中見張っててよ。眠くならないなら良いよね?」
「よ、良くない! こ、交代で見張ろう!」
何故コレールが反対する?
「僕、魔物との戦闘続きでクタクタ。戦ってないウィナちゃんが見張るのは当然じゃない? それとも、魔族の見張りは信用ならない? だったら、一晩中起きてなよ。僕は寝る」
ボースハイトは横になったかと思うと寝息を立て始めた。
寝るのが早過ぎる。
やはり、魔法を食らったのではないか?
「任せて良いんだよな? ウィナ」
グロルの問いに頷くと、グロルも横になった。
数秒経たず寝息が聞こえてくる。
コレールは暫く起きようとしていたが、船を漕ぎ始たかと思ったら座ったまま寝てしまった。
我が輩は夜の間、何もない時間を過ごした。
今日一日、大変騒がしかったからこの静けさが寂しく思えてしまう。
みんな早く起きないだろうか、なんて馬鹿みたいなことを考えてしまった。
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