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初冬

あいつのせいだ、確実、優輝のせいだ!!

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 いつものように銀が迎いに来たため、今日の雑談は終わった。

 優輝は今回、だだをこねることはせず、珍しく素直に帰る。
 そのことに銀籠は驚きながら、森の外へ歩く優輝を見送った。

「…………珍しい」

「そうじゃのぉ。簡単に帰るのは珍しいことじゃが、まぁ、良い。帰るぞ、銀籠」

「は、はぁ…………」

 なんとなくしょぼんと肩を落としている銀籠の手を甘嚙みし、小屋へと引っ張る。
 歩みを進め、いつものように小屋へと戻った。

「今回はいつもより楽し気じゃったのぉ」

「え、なんで知っているのだ?」

 いつも銀は銀籠に言われ、迎えに来る直前までは近くに来ない。
 それなのに、なぜそんなことを知っているのか。

「時間の感覚がおかしくなっているな。今日はいつもより遅い迎いだったのだぞ? 邪魔をしてはいけない雰囲気だったからのぉ、タイミングを見計らっていたのじゃ。空気をしっかり読んだワシをほめよぉ~」

 カッカッカッ!! と、笑っている銀を見て、銀籠の顔が真っ赤になり湯気が立ち上る。

 頬を膨らませ、狼姿の銀の頭をポカポカと叩いた。

「いて! いて、いて! おい、辞めんか!」

「父上が悪い!!」

 辞めてと訴えるが意味はなく、銀籠は叩くのをやめなかった。
 銀籠は先ほどの光景が頭を過り、赤く染まった頬を両手で挟んだ。


 ~~~~~~あいつのせいだ、確実、優輝のせいだ!!


 自分のよくわからない感情は全て優輝のせいにし、バクバクと波打つ心臓を押さえ、小屋の中へと姿を消した。

 ※

 優輝は銀籠から離れ素直に森から出ると、一度足を止め振り返った。

「――――銀籠さんには悪いけど、ちょっと下準備しておこうか」

 以前、邪悪な気配を森付近で感じたため、優輝は気にしていた。

 幸せな時間を過ごせば過ごすほど、優輝の心には不安が募る。

 今、優輝は最低限の御札一枚しか持っていない。
 仮に、何かが現れてしまった時、一枚だけでは心もとない。

 せめて、もう一枚だけでも持ち込めたら少しだけ優輝的には楽になる。
 二人には悪いが、次からは持っておこうと考えていた。

 冷たい風が優輝の髪を揺らすのと同時に、陰陽寮に帰るため振り返る。

 刹那──……

 ――――ドンッ!!

「うわ!!」

「いてっ!」

 一歩前に足を踏み出した時、誰かとぶつかってしまいしりもちをついてしまった。

「いてて………。だ、誰?」

「いたた……。"誰"じゃないわよ。いきなり歩き出さないでくれるかしら」

「ごめんなっ……って、夕凪お姉さん?」

 優輝とぶつかってしまったのは、私服姿の夕凪だった。

 スキニージーンズに、花柄のブラウス。
 小さな革の鞄は転んでしまった拍子に地面に転がった。

「あ、ごめん。怪我してない?」

「大丈夫よ。少しびっくりしたけれど」

 手を差し出し夕凪を立たせたあと、優輝は転がってしまった鞄を拾い上げ、汚れを払い渡す。

 それを当たり前のようにされ、夕凪は頬を微かに赤く染めながらも、気づかれないようにそっぽを向き、鞄を受け取った。

「ありがとう」

「どういたしまして。ところで、ここで何をしているの?」

「え、い、いや…………」

 優輝の質問に、夕凪は慌てた様子で口ごもる。

「え、えと……。そ、そうよ! まだ、話足りないことが沢山あったから、銀さんに会いに来たのよ」

「あ、そういう事。でも、今は銀籠さんと一緒に居るから、ちょっと遠慮してほしい……かも?」

 今の言葉に、夕凪は銀籠の人嫌いを思い出し理解。すぐに頷いた。

「わかったわ、今は行かない」

「うん、ありがとう」

 表情一つ変えず、優輝は夕凪の横を通り過ぎる。だが、その際に手を掴まれてしまった。

「っ、? どうしたの?」

「貴方は、銀籠さんが好きみたいね」

「うん」

 一切迷うことなく、優輝は頷いた。

 彼の反応に、わかっていたとはいえ夕凪の胸がチクリと痛む。
 それでも表情には出さないよう、何ともないというように手を離した。

「そうなのね、それなら今は落としている時なのかしら」

「うん、なかなか素直になってくれなくて大変だけど、それも含めて楽しいよ。それにね、最近、色々な表情を見せてくれるようになったんだ」

 花が舞うような空気を纏い、銀籠の話をする。
 その話を聞くだけで、夕凪の心は大きく抉られる。

 心が黒い靄に支配される中、何とか気を取り直し顔を逸らすため、振り返った。

「貴方の恋愛話に付き合う程、私は暇じゃないわ」

「あ、ごめん」

「…………またね」

「うん。あ、最後にいい?」

「…………何?」

 振り向くことなく、優輝の言葉に耳を傾けた。

「今は、無理してない? 夕凪姉さんの神通力は強いけど、それをいいように使われてない?」

「心配無用よ。私はもう何でも背負い込むことはないわ。背負い込んでも意味が無い事は、貴方が教えてくれたでしょう?」

 口調が一定で、何を思っての言葉なのか察することが出来ない。
 優輝は深く考えることはせず、肩を落とした。

「俺はあまり覚えてないけどね、結構小さかったみたいだし。役に立っていたのなら良かったけど」

 ほっと安心したような息使いが聞こえ、夕凪は歯を食いしばる。

 鞄を強く握り、その場から歩き出した。

「それじゃね、優輝。その恋、実るといいわね」

「うん、ありがとう。またね」

 二人はここで分かれた。
 優輝も自身の陰陽寮に帰ろうと歩き出す。

 雨雲が徐々に周りを薄暗くし、視界を覆う。
 一人になった夕凪は田んぼに囲まれた道で足を止めた。

「…………私は、幸せなのなら、それでいい。今までの幸せを、返さなければ――……」
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