22 / 48
初冬
あいつのせいだ、確実、優輝のせいだ!!
しおりを挟む
いつものように銀が迎いに来たため、今日の雑談は終わった。
優輝は今回、だだをこねることはせず、珍しく素直に帰る。
そのことに銀籠は驚きながら、森の外へ歩く優輝を見送った。
「…………珍しい」
「そうじゃのぉ。簡単に帰るのは珍しいことじゃが、まぁ、良い。帰るぞ、銀籠」
「は、はぁ…………」
なんとなくしょぼんと肩を落としている銀籠の手を甘嚙みし、小屋へと引っ張る。
歩みを進め、いつものように小屋へと戻った。
「今回はいつもより楽し気じゃったのぉ」
「え、なんで知っているのだ?」
いつも銀は銀籠に言われ、迎えに来る直前までは近くに来ない。
それなのに、なぜそんなことを知っているのか。
「時間の感覚がおかしくなっているな。今日はいつもより遅い迎いだったのだぞ? 邪魔をしてはいけない雰囲気だったからのぉ、タイミングを見計らっていたのじゃ。空気をしっかり読んだワシをほめよぉ~」
カッカッカッ!! と、笑っている銀を見て、銀籠の顔が真っ赤になり湯気が立ち上る。
頬を膨らませ、狼姿の銀の頭をポカポカと叩いた。
「いて! いて、いて! おい、辞めんか!」
「父上が悪い!!」
辞めてと訴えるが意味はなく、銀籠は叩くのをやめなかった。
銀籠は先ほどの光景が頭を過り、赤く染まった頬を両手で挟んだ。
~~~~~~あいつのせいだ、確実、優輝のせいだ!!
自分のよくわからない感情は全て優輝のせいにし、バクバクと波打つ心臓を押さえ、小屋の中へと姿を消した。
※
優輝は銀籠から離れ素直に森から出ると、一度足を止め振り返った。
「――――銀籠さんには悪いけど、ちょっと下準備しておこうか」
以前、邪悪な気配を森付近で感じたため、優輝は気にしていた。
幸せな時間を過ごせば過ごすほど、優輝の心には不安が募る。
今、優輝は最低限の御札一枚しか持っていない。
仮に、何かが現れてしまった時、一枚だけでは心もとない。
せめて、もう一枚だけでも持ち込めたら少しだけ優輝的には楽になる。
二人には悪いが、次からは持っておこうと考えていた。
冷たい風が優輝の髪を揺らすのと同時に、陰陽寮に帰るため振り返る。
刹那──……
――――ドンッ!!
「うわ!!」
「いてっ!」
一歩前に足を踏み出した時、誰かとぶつかってしまいしりもちをついてしまった。
「いてて………。だ、誰?」
「いたた……。"誰"じゃないわよ。いきなり歩き出さないでくれるかしら」
「ごめんなっ……って、夕凪お姉さん?」
優輝とぶつかってしまったのは、私服姿の夕凪だった。
スキニージーンズに、花柄のブラウス。
小さな革の鞄は転んでしまった拍子に地面に転がった。
「あ、ごめん。怪我してない?」
「大丈夫よ。少しびっくりしたけれど」
手を差し出し夕凪を立たせたあと、優輝は転がってしまった鞄を拾い上げ、汚れを払い渡す。
それを当たり前のようにされ、夕凪は頬を微かに赤く染めながらも、気づかれないようにそっぽを向き、鞄を受け取った。
「ありがとう」
「どういたしまして。ところで、ここで何をしているの?」
「え、い、いや…………」
優輝の質問に、夕凪は慌てた様子で口ごもる。
「え、えと……。そ、そうよ! まだ、話足りないことが沢山あったから、銀さんに会いに来たのよ」
「あ、そういう事。でも、今は銀籠さんと一緒に居るから、ちょっと遠慮してほしい……かも?」
今の言葉に、夕凪は銀籠の人嫌いを思い出し理解。すぐに頷いた。
「わかったわ、今は行かない」
「うん、ありがとう」
表情一つ変えず、優輝は夕凪の横を通り過ぎる。だが、その際に手を掴まれてしまった。
「っ、? どうしたの?」
「貴方は、銀籠さんが好きみたいね」
「うん」
一切迷うことなく、優輝は頷いた。
彼の反応に、わかっていたとはいえ夕凪の胸がチクリと痛む。
それでも表情には出さないよう、何ともないというように手を離した。
「そうなのね、それなら今は落としている時なのかしら」
「うん、なかなか素直になってくれなくて大変だけど、それも含めて楽しいよ。それにね、最近、色々な表情を見せてくれるようになったんだ」
花が舞うような空気を纏い、銀籠の話をする。
その話を聞くだけで、夕凪の心は大きく抉られる。
心が黒い靄に支配される中、何とか気を取り直し顔を逸らすため、振り返った。
「貴方の恋愛話に付き合う程、私は暇じゃないわ」
「あ、ごめん」
「…………またね」
「うん。あ、最後にいい?」
「…………何?」
振り向くことなく、優輝の言葉に耳を傾けた。
「今は、無理してない? 夕凪姉さんの神通力は強いけど、それをいいように使われてない?」
「心配無用よ。私はもう何でも背負い込むことはないわ。背負い込んでも意味が無い事は、貴方が教えてくれたでしょう?」
口調が一定で、何を思っての言葉なのか察することが出来ない。
優輝は深く考えることはせず、肩を落とした。
「俺はあまり覚えてないけどね、結構小さかったみたいだし。役に立っていたのなら良かったけど」
ほっと安心したような息使いが聞こえ、夕凪は歯を食いしばる。
鞄を強く握り、その場から歩き出した。
「それじゃね、優輝。その恋、実るといいわね」
「うん、ありがとう。またね」
二人はここで分かれた。
優輝も自身の陰陽寮に帰ろうと歩き出す。
雨雲が徐々に周りを薄暗くし、視界を覆う。
一人になった夕凪は田んぼに囲まれた道で足を止めた。
「…………私は、幸せなのなら、それでいい。今までの幸せを、返さなければ――……」
優輝は今回、だだをこねることはせず、珍しく素直に帰る。
そのことに銀籠は驚きながら、森の外へ歩く優輝を見送った。
「…………珍しい」
「そうじゃのぉ。簡単に帰るのは珍しいことじゃが、まぁ、良い。帰るぞ、銀籠」
「は、はぁ…………」
なんとなくしょぼんと肩を落としている銀籠の手を甘嚙みし、小屋へと引っ張る。
歩みを進め、いつものように小屋へと戻った。
「今回はいつもより楽し気じゃったのぉ」
「え、なんで知っているのだ?」
いつも銀は銀籠に言われ、迎えに来る直前までは近くに来ない。
それなのに、なぜそんなことを知っているのか。
「時間の感覚がおかしくなっているな。今日はいつもより遅い迎いだったのだぞ? 邪魔をしてはいけない雰囲気だったからのぉ、タイミングを見計らっていたのじゃ。空気をしっかり読んだワシをほめよぉ~」
カッカッカッ!! と、笑っている銀を見て、銀籠の顔が真っ赤になり湯気が立ち上る。
頬を膨らませ、狼姿の銀の頭をポカポカと叩いた。
「いて! いて、いて! おい、辞めんか!」
「父上が悪い!!」
辞めてと訴えるが意味はなく、銀籠は叩くのをやめなかった。
銀籠は先ほどの光景が頭を過り、赤く染まった頬を両手で挟んだ。
~~~~~~あいつのせいだ、確実、優輝のせいだ!!
自分のよくわからない感情は全て優輝のせいにし、バクバクと波打つ心臓を押さえ、小屋の中へと姿を消した。
※
優輝は銀籠から離れ素直に森から出ると、一度足を止め振り返った。
「――――銀籠さんには悪いけど、ちょっと下準備しておこうか」
以前、邪悪な気配を森付近で感じたため、優輝は気にしていた。
幸せな時間を過ごせば過ごすほど、優輝の心には不安が募る。
今、優輝は最低限の御札一枚しか持っていない。
仮に、何かが現れてしまった時、一枚だけでは心もとない。
せめて、もう一枚だけでも持ち込めたら少しだけ優輝的には楽になる。
二人には悪いが、次からは持っておこうと考えていた。
冷たい風が優輝の髪を揺らすのと同時に、陰陽寮に帰るため振り返る。
刹那──……
――――ドンッ!!
「うわ!!」
「いてっ!」
一歩前に足を踏み出した時、誰かとぶつかってしまいしりもちをついてしまった。
「いてて………。だ、誰?」
「いたた……。"誰"じゃないわよ。いきなり歩き出さないでくれるかしら」
「ごめんなっ……って、夕凪お姉さん?」
優輝とぶつかってしまったのは、私服姿の夕凪だった。
スキニージーンズに、花柄のブラウス。
小さな革の鞄は転んでしまった拍子に地面に転がった。
「あ、ごめん。怪我してない?」
「大丈夫よ。少しびっくりしたけれど」
手を差し出し夕凪を立たせたあと、優輝は転がってしまった鞄を拾い上げ、汚れを払い渡す。
それを当たり前のようにされ、夕凪は頬を微かに赤く染めながらも、気づかれないようにそっぽを向き、鞄を受け取った。
「ありがとう」
「どういたしまして。ところで、ここで何をしているの?」
「え、い、いや…………」
優輝の質問に、夕凪は慌てた様子で口ごもる。
「え、えと……。そ、そうよ! まだ、話足りないことが沢山あったから、銀さんに会いに来たのよ」
「あ、そういう事。でも、今は銀籠さんと一緒に居るから、ちょっと遠慮してほしい……かも?」
今の言葉に、夕凪は銀籠の人嫌いを思い出し理解。すぐに頷いた。
「わかったわ、今は行かない」
「うん、ありがとう」
表情一つ変えず、優輝は夕凪の横を通り過ぎる。だが、その際に手を掴まれてしまった。
「っ、? どうしたの?」
「貴方は、銀籠さんが好きみたいね」
「うん」
一切迷うことなく、優輝は頷いた。
彼の反応に、わかっていたとはいえ夕凪の胸がチクリと痛む。
それでも表情には出さないよう、何ともないというように手を離した。
「そうなのね、それなら今は落としている時なのかしら」
「うん、なかなか素直になってくれなくて大変だけど、それも含めて楽しいよ。それにね、最近、色々な表情を見せてくれるようになったんだ」
花が舞うような空気を纏い、銀籠の話をする。
その話を聞くだけで、夕凪の心は大きく抉られる。
心が黒い靄に支配される中、何とか気を取り直し顔を逸らすため、振り返った。
「貴方の恋愛話に付き合う程、私は暇じゃないわ」
「あ、ごめん」
「…………またね」
「うん。あ、最後にいい?」
「…………何?」
振り向くことなく、優輝の言葉に耳を傾けた。
「今は、無理してない? 夕凪姉さんの神通力は強いけど、それをいいように使われてない?」
「心配無用よ。私はもう何でも背負い込むことはないわ。背負い込んでも意味が無い事は、貴方が教えてくれたでしょう?」
口調が一定で、何を思っての言葉なのか察することが出来ない。
優輝は深く考えることはせず、肩を落とした。
「俺はあまり覚えてないけどね、結構小さかったみたいだし。役に立っていたのなら良かったけど」
ほっと安心したような息使いが聞こえ、夕凪は歯を食いしばる。
鞄を強く握り、その場から歩き出した。
「それじゃね、優輝。その恋、実るといいわね」
「うん、ありがとう。またね」
二人はここで分かれた。
優輝も自身の陰陽寮に帰ろうと歩き出す。
雨雲が徐々に周りを薄暗くし、視界を覆う。
一人になった夕凪は田んぼに囲まれた道で足を止めた。
「…………私は、幸せなのなら、それでいい。今までの幸せを、返さなければ――……」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!
慎
BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥
『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。
人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。
そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥
権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥
彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。
――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、
『耳鳴りすれば来た道引き返せ』
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。
悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい
たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた
人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ
そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ
そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄
ナレーションに
『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』
その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ
社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう
腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄
暫くはほのぼのします
最終的には固定カプになります
転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
俺の死亡フラグは完全に回避された!
・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ラブコメが描きたかったので書きました。
コパスな殺人鬼の兄に転生したのでどうにか生き延びたい
ベポ田
BL
高倉陽介
前世見ていた「降霊ゲーム」の世界に転生した(享年25歳)、元会社員。弟が作中の黒幕殺人鬼で日々胃痛に悩まされている。
高倉明希
「降霊ゲーム」の黒幕殺人鬼となる予定の男。頭脳明晰、容姿端麗、篤実温厚の三拍子揃った優等生と評価されるが、実態は共感性に欠けたサイコパス野郎。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる