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秋晴れ

「えっと、誰?」

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 冬が近づき、制服の上に黒いコートと、首には同じ色のマフラーを身に着け優輝が森に向かっていた。

 鼻は赤く、息は白い。
 震えながら歩いていると、優輝は少しだけ違和感を感じた。

「…………あれ? いつもならお出迎えしてくれるのに…………」

 スマホの時間を確認するが、今までと同じ時間。
 いつもより遅かったり、早かったりとかはしていない。

 もっと奥だったかなと、首を傾げながら森の中を進む。
 だが、銀籠は現れてくれない。

「困ったなぁ…………」

 優輝は銀籠が住んでいる小屋を知らない。
 連絡手段もないため、どうしようか悩む。

 式神を飛ばそうかとも考えたが、怖がられてしまう可能性があり断念。

 それなら気配を探ろうかとも思ったが、住処を知られたくないかもしれないと思いとどまる。

 ここで安易に動いて、今まで培ってきた信頼を崩したくは無い。

 心の距離が離れてしまうのを避けたい優輝は、いつも二人で話している木に背中を預け考えた。

 何かあったのだろうか。まさか、人がこの森に入り込んでしまったのか。
 それとも、事故に巻き込まれたのか。

 頭の中に嫌な想像が駆け回り、優輝はいてもたってもいられず気配を探る事にした。

 これで仮に嫌われてしまったとしても、何か事件に巻き込まれているのなら助けたいと。
 そう自身に言い聞かせ、目を瞑りあやかしの気配を探る。

「――――見つけた。けど、弱い?」

 あやかしの気配を察知、だが弱すぎるため、集中しなければすぐに失ってしまう。

 嫌な予感が走り、優輝は地面を蹴り森の奥へと駆けだした。

 風を切り、前だけを見てひたすらに走る。
 気配を見失わないため集中しながら走っていると、木の影から男性が一人現れた。

「っ!?」

「わっ!?」

 全速力で走っていたため直ぐに止まることが出来ず、優輝は咄嗟に体を横にそらし避ける。

 その時、勢いを殺すことが出来ずバランスを崩し、しりもちを着いてしまった。

「いてて…………」

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫、ごめっ――あ」

「ゆ、優輝? なぜ、そんなに慌てているのだ?」

 木の影から現れたのは、手に何も持っていない銀籠。
 しりもちを着いてしまった優輝を見下ろし、心配そうに手を差し伸べていた。

「あ、ありがとう、ちょっと嫌な予感がっ――あ」

 何も考えず、優輝は差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。
 その際、何の疑いもなく銀籠の手を掴んでいることに気づき、彼の顔を見た。

 いつもより近い銀籠の顔、初めて伝わるぬくもり。

 茫然としてしまっていたが、すぐさま手を離し距離をとった優輝は、高揚する頬を隠すように顔を逸らし、口元に手を当てた。

「ご、ごごごご、ごめんなさい。あの、悪気があって近付いたわけではなく、心配でここまで来てしまったというか…………」

「何を言い訳しておるのだ? 我は何も言っていないのだが…………」

「え? ……………………えっと、誰?」

「誰って……、我は銀籠だが……。まさか、今まで毎日のように話していた相手の顔を忘れたのか? それは酷い話

 最後の語尾で、優輝の表情から感情が消える。
 目は座り、大きなため息を吐いた。

「はぁ……。あの、口調が出ていますよ、銀さん」

「…………あっ」

「いや、”あっ”ではなく……。何をしているんですか」

 見た目は銀籠、だが口調や雰囲気は銀。
 じとっと疑わしい顔を浮かべ、優輝は銀の名前を出した。

「あー、ばれてしまっては仕方がないのぉ」

 困った様に眉を八の字にし、頭をガシガシと掻く。

 銀籠はそのような仕草をしないため、優輝にとっては珍しい光景。
 銀とわかっていても、見た目は銀籠なため、つい見つめてしまった。

「…………銀籠はいつも、このような視線を受けておるのか。羨ましいのぉ」

「え、あ。すいません、つい……。あの、その姿どうしたんですか? 変装ですか?」

「変装は、あながち間違えてはいないのぉ」

 口角を上げ言うと、銀の足元から急に風が吹き始め、彼を包み込む。
 次に姿を現した時には、長い髪を揺らした銀の姿へと切り替わっていた。

「ちょっと姿を借りただけじゃよ。驚かして悪かった」

「いえ……」

 ケラケラ笑っている銀を見て、優輝は肩を竦める。
 本物の銀籠はどこにいるのか問いかけようとしたが、それより先に銀が話し出してしまった。

「それにしても、何故分かったんじゃ? 口調や雰囲気は何とか似せていたと思うのじゃが」

「最初は俺も焦っていたとはいえ、まんまと騙されてしまいました。不自然に思ったのは、俺が手を掴んだ時ですね。冷静過ぎです。表情一つ変わらなかった為、違和感を感じました」

「違和感だけで、主は”誰?”と聞いていたのか?」

「違和感から確信に変わったから聞いたんですよ。それより、銀籠さんに何かあったんですか? 貴方が姿を変えてまでここまで来たという事は、何かあったんですよね?! 何があったんですか!? 猟人などに狙われましたか! 人が侵入してきましたか!? まさか、この森にだけ嵐がっ!?」

 徐々に不安が募り、勢いが強くなる。
 銀に顔を寄せ、責め立てるように質問し続けた。

「お、落ち着け落ち着け。銀籠は体調を崩してしまっているだけだ。問題はないぞ」

「…………体調を崩してしまったのですか!? 熱は!? 頭痛はありますか!? 寝ているだけで治るのですか!?」

 またしても質問攻めされてしまった銀は苦笑を浮かべ、ぽんっと優輝の肩に手を置いた。

「そんなに心配なのなら、姿を見ていけ」

「…………え?」
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