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秋晴れ

「絶対に俺が銀籠さんを嫌いになる事はない」

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 銀と話した次の日から、優輝は毎日学校帰りは森に行き、銀籠と話をする時間を作っていた。

 学校が休みでも、必ず同じ時間に森へと向かい話をする。

 最初は木を三本分離していたのだが、毎日毎日優輝が会いに行くため、銀籠は彼に対してのみ、徐々に距離を縮める事が出来てきた。

 今ではまだお互いが触れることは出来ないが、お互いに手を伸ばせば届く距離まで縮めることが出来た。

「今日は何の話をしようか。あ、姉さんが怒った話でもする?」

「また、何をしたのだ…………」

「ただ、日ごろの行いがいいかだけの問題なんだよ? 俺は特に何もしていない。なのに、今日ここに来る前にたんこぶ作らされたの、酷いと思わない?」

「また、姉さんは課金をしていたのか?」

「うん」

「…………ぬしは?」

「無課金。あ、ちなみに無理のない課金じゃなくて、本当に一切お金をかけていないよ」

「だから怒ったのだろう…………」

「怒られても困るんだけど」 

「確かにそうだが…………」

 納得いかないというように、叩かれた頭を摩っている優輝を見て、銀籠はやれやれと肩を落とす。

「そういえば、今日は薪を背負っていないね。今日はいらないの?」

「いや、今日は早めに終わらせ小屋に置いて来た。どうせ、今日も来ると思っていたからな」

「それはつまり、待っていてくれたという事でいいのかな?」

 今の言葉で優輝は目を輝かせ、銀籠を見つめた。

 自身の失言に気づき、銀籠は赤面。
 大きな声を上げてしまった。

「目を輝かせるな! そうではない!!」

 自身の顔を隠すようによそを向き、唇を尖らせる。
 優輝は口元に手を置き、幸せそうにくすくすと笑った。

「待っていてくれてありがとう。毎日来たかいがあったよ」

「だから、そうではない!! 勘違いするな!!」

「はいはい」

 歯を食いしばり唸る銀籠を見て、優輝はケラケラ笑う。

 むむむっと、銀色の瞳で睨むが、優輝にとってはご褒美。無言でスマホを持ち、カメラを構えた。

「むっ!! それはカメラと呼ばれる物を構えておるだろう! 前回はまんまとやられてしまったが、今回は事前に防いでやるぞ! 今すぐスマホを下ろすのだ!」

「あー、ばれちゃった。残念、残念。なら、カメラではなく肉眼で銀籠さんを心ゆくまで収めようかな。あ、でも心ゆくまでだと一生ここに居ないといけないな。学校辞めないと」

「なっ、何を言っておる!! わ、わかった!! わかったから!! むむむ……。い、一枚なら良いぞ……」

 頬を膨らませ、銀籠はぷんぷんと怒りながら顔を背ける。

 あららっと、眉を下げながらも優輝は怒っている銀籠を一枚、カメラに収めた。

「なっ!! なぜ今撮ったのだ!!」

「かわいかったから」

「かっ!? 可愛くなどない!」

 何でも正直に話す優輝に、銀籠はもうたじたじ。言葉では怒っているものの、表情はどこか楽しんでいた。

 すると、銀籠の後ろから狼姿の銀が姿を現した。


 二人の時間は大体一時間。
 これ以上だと、優輝が学校の宿題や陰陽師としての術の維持をするための修行時間がなくなる。

 それを指摘しつつ、子供のように不貞腐れる優輝を、いつも銀は無理やり帰らせていた。

 今日も銀が来たことで、優輝は落ち込み、唇を尖らせ不貞腐れる。

「なんか、優輝の反応を見るたび、悲しいのじゃが…………」

「いえ、銀さんとも会えて嬉しいのですが、来たという事はもう帰らなければいけない時間なんだと思って……」

 スマホの時間を見ると、森に来てから確かに一時間経っていた。

 優輝は眉を下げ、最後にと銀籠を見つめる。
 ジィっと見られ、銀籠はいたたまれなくなり、そそくさと居なくなってしまった。

「あっ! 銀籠さん…………」

「残念だったのぉ」

「本当に残念です。では、また明日も来ます」

「待っておる」

 銀は去って行く優輝を見送り、肩を竦めつつ銀籠の元へと歩き出した。

 ※

 屋敷に戻った優輝は気だるげに「ただいま」と玄関を潜り、自室へと歩く。

 途中、女中が出迎え、荷物や上着を渡す。
 廊下を歩いていると、前方から神楽が向かってきた。

「優輝、お帰り。毎日毎日飽きないねぇ」

「飽きないよ。いつもいつも、新しい表情を見せてくれるんだ。今では普通にお話も出来る。まだ自分から話してはくれないけど、話題があれば盛り上がるんだよ。本当に楽しい」

「ふーん」

 微笑みながら、優輝は銀籠について話す。

 今まではどんなに可愛くて綺麗な女性が寄ってきても、今みたいな優しい表情は浮かべる事はなかった。

 それを知っている神楽は、意外という顔を浮かべつつ、、話を聞いている。

「本当に、銀籠さんの事が好きなんだね」

「当たり前なこと言わないで」

「でも、いいの? 銀籠さんはあやかし。生きている世界が違うんだよ? お互い絶対苦労するし、銀籠さんは人が嫌いだから、迷惑に思われてない?」

 神楽の言葉に、優輝は今まで浮かべていた笑みは消した。
 目を伏せ、ぼそぼそと話し出す。

「うん、わかっているよ。俺と銀籠さんでは生きている時間、生活リズム、考え、感じ方。すべてが違う。銀籠さんの父親である銀さんにも、同じようなことを言われた」

 横に垂らしている手で自身の裾を掴み、顔を俯かせる。
 一度言葉を切った優輝の、次の言葉を神楽は何も言わずに待った。

「――――それでも、俺は銀籠さんに一目ぼれしたんだ。今はまだ知らないことが多いし、感覚の違いに戸惑う事もあると思う。大変で、辛い時も必ずある。それでも、絶対に俺が銀籠さんを嫌いになる事はない」

 再度、顔を上げると、水色の瞳には覚悟の炎がメラメラと燃え上がっていた。

 一瞬、神楽の身体が震え、それと同時に鳥肌が立つ。
 口角が上がり、目を細め微笑んだ。

「…………なら、必ず落としてきなさいよ。それで、私に紹介する時は必ず、貴方の恋人………いや、夫? 妻? として、紹介しなさいね」

 優輝の肩を叩き、親指を立てウインクした。

「うん、ありがとう、姉さん」

「当たり前でしょ! 私は貴方のお姉さんだからさ! 大好きな弟の幸せは、私の幸せ。頑張りなさい! 応援してるから!」

 神楽がウィンクをして、優輝の背中を押しこの話は終わる。

 直ぐに自室へと足を進めた優輝の後ろ姿を見て、神楽は浮かべていた笑みを消し、振っていた手を下ろした。

「────これをチャンスと思うのは、本当に最低よね……私……」
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