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コウセン
第15話 敬語
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愛実にとっての長い夜が終わった。
コウセンでは睡眠すら必要ないため、愛実は徹夜したにも関わらず体調に変化はない。
今は、コウヨウが部屋で食事の片づけをしている。
今日もまた、食べられなかった。
「では、今日はここで失礼しますね。この後、アネモネが来ます」
「え、アネモネさんが?」
「はい」
なんで、世話係であるコウヨウではなく、アネモネがこの後に来るのだろうと首を傾げた。
「アネモネが愛実様とお話がしたいと言っておりました。ご迷惑でしたら伝えますが――……」
「い、いえ! ものすごくうれしいです!」
愛実は満面な笑みを浮かべ、頬を染めた。
「では、呼んできますね」
一礼をして、コウヨウはワゴンを押し廊下へと出た。
愛実は、アネモネと話せることを喜び、ベッドの上に置いていたクマを抱きしめた。
「今日は、どんな話をしようかな」
やっぱり、女性同士では気持ちが異性と話す時より気楽。
また、恋バナをしようか。それとも、趣味や好きな食べ物とか。そのような話をしようかなど、色々考えながら愛実はアネモネを待った。
数分後、部屋の扉が叩かれた。
『主様、アネモネです』
「アネモネさん!!」
アネモネの声を聴き、愛実の声は高くなる。
扉は開かれ、アネモネが中へと入ってきた。
「アネモネさん! お疲れ様です!」
「愛実様こそ、お疲れ様です。お怪我はありませんか?」
「はい!!」
それならよかったと、アネモネは安堵の息を吐いた。
愛実は、前に立つアネモネを見上げ、隣のベッドをトントンと叩いた。
「あの?」
「隣に座って話しませんか?」
ニコニコと笑みを浮かべながら、愛実が言った。
お言葉に甘えて、アネモネは隣に座った。
「えへへ」
アネモネが座ると、愛実が楽し気に笑う。
なぜ、ここまで楽しそうにしているのかわからないが、愛実が楽しそうでアネモネも嬉しい。
同じく、笑みを浮かべた。
「あの、一応確認したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい!」
「なぜ、私達世話係に対して、敬語を使っているのでしょうか」
アネモネがキョトンとしたような表情で問いかけた。
その質問の真意がわからず、すぐに答えられない。
「え、えっと、それは、どういう意味での質問ですか?」
「あ、不愉快に思われましたか?」
「い、いえ!! 全然そんなことはないのですが…………」
うーんと、愛実が考えた。
「…………礼儀、だと思います」
「世話係に礼儀は不要ですよ? もし、意識して敬語で話しているのでたら、外していたいて大丈夫ですよ」
今の言葉で、愛実はなぜアネモネがそのようなことを言っているのか理解した。
世話係は、主に絶対に従わなければならない。
だからだろう。
指示を出す側が、指示を受ける側の人間に敬意をもって接するのは普通ではない。
そう考えているから、愛実との会話に疑問を感じていた。
「なら、私は敬語を外します」
「はい、よろしくお願いします」
「なので、アネモネさんも敬語を外してください」
愛実の言葉に、アネモネは思わず「はぁ?」と抜けた声を出してしまう。
すぐに口を閉ざし、恐怖の表情を浮かべる。
愛実はニコニコと笑い「敬語は外しましょう?」と、再度言う。
「え、で、でも…………」
「私、アネモネさんと友達になりたいんです。唯一の女性ですし」
「えへへ」と、愛実は頬をポリポリと掻く。
本心だという事は、アネモネにも伝わっている。
計画的に言っている訳でも、弱みを握る為でもない。
本当に友達になってほしいと、愛実は思っていた。
アネモネは、今までそんなこと言われたことはなかった。
この世界《コウセン》でも、現実世界でも。
アネモネには、友達と言う存在はいなかった。
作ろうとも、思わなかった。
だって、アネモネはコウセンに来る前でも、いじめられ、家族には捨てられていたから。
だから、愛実の言葉になんと返せばいいのかわからない。
どんな言葉が正解で、どんな言葉が間違いなのか。
口から手を離し、返事をしようと唇を動かす。
けれど、言葉は出ない。なんと言えばいいのか、頭の中で定まっていないから。
愛実は、そんなアネモネを見て、眉を下げた。
でも、待ち続けた。
ここで、余計なことを言ってしまうと、また振り出しになってしまう気がしたからだ。
心が苦しい。何度も何度も、頭を過る「なんでもない」という言葉。
沈黙が続く。
悪い想像が愛実の頭の中を駆け巡る。
やっぱり、迷惑だったか。
やっぱり、嫌だったのか。
やっぱり、友達になりたくなかったのか。
心臓がドクドクと音が鳴る、うるさい。
「――――あの」
やっぱりやめよう、そう思い愛実が口を開いたときだった。
「じゃ、じゃぁ、その、よろしく、ね?」
顔を真っ赤にし、アネモネは言った。
照れているのか、不安なのか。
わからないけれど、今の言葉は、目国の言葉を否定したものではない。
愛実は目を輝かせ、アネモネに思わず抱きついた。
「よろしくね!! アネモネさん!!」
「っ、な、名前。あの…………」
「ん?」
少し離れ、愛実は顔を下げているアネモネを見た。
「名前も、呼び捨てじゃないの……?」
上目遣いで言われ、愛実の心臓はアネモネにより貫かれた。
可愛くて仕方がなく、愛実は頬を染め再度抱きついた。
「わかった! それじゃ、アネモネ? これからよろしくね!」
「う、うん。わかった、愛実様」
そこで、愛実の表情が固まる。
数秒後、頬を膨らませ怒り出した。
「め! ぐ! み!!」
「め、愛実?」
「うん!!」
今度は満面な笑み。
アネモネは、少し驚いたがすぐに表情を緩め、クスクスと笑った。
コウセンでは睡眠すら必要ないため、愛実は徹夜したにも関わらず体調に変化はない。
今は、コウヨウが部屋で食事の片づけをしている。
今日もまた、食べられなかった。
「では、今日はここで失礼しますね。この後、アネモネが来ます」
「え、アネモネさんが?」
「はい」
なんで、世話係であるコウヨウではなく、アネモネがこの後に来るのだろうと首を傾げた。
「アネモネが愛実様とお話がしたいと言っておりました。ご迷惑でしたら伝えますが――……」
「い、いえ! ものすごくうれしいです!」
愛実は満面な笑みを浮かべ、頬を染めた。
「では、呼んできますね」
一礼をして、コウヨウはワゴンを押し廊下へと出た。
愛実は、アネモネと話せることを喜び、ベッドの上に置いていたクマを抱きしめた。
「今日は、どんな話をしようかな」
やっぱり、女性同士では気持ちが異性と話す時より気楽。
また、恋バナをしようか。それとも、趣味や好きな食べ物とか。そのような話をしようかなど、色々考えながら愛実はアネモネを待った。
数分後、部屋の扉が叩かれた。
『主様、アネモネです』
「アネモネさん!!」
アネモネの声を聴き、愛実の声は高くなる。
扉は開かれ、アネモネが中へと入ってきた。
「アネモネさん! お疲れ様です!」
「愛実様こそ、お疲れ様です。お怪我はありませんか?」
「はい!!」
それならよかったと、アネモネは安堵の息を吐いた。
愛実は、前に立つアネモネを見上げ、隣のベッドをトントンと叩いた。
「あの?」
「隣に座って話しませんか?」
ニコニコと笑みを浮かべながら、愛実が言った。
お言葉に甘えて、アネモネは隣に座った。
「えへへ」
アネモネが座ると、愛実が楽し気に笑う。
なぜ、ここまで楽しそうにしているのかわからないが、愛実が楽しそうでアネモネも嬉しい。
同じく、笑みを浮かべた。
「あの、一応確認したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい!」
「なぜ、私達世話係に対して、敬語を使っているのでしょうか」
アネモネがキョトンとしたような表情で問いかけた。
その質問の真意がわからず、すぐに答えられない。
「え、えっと、それは、どういう意味での質問ですか?」
「あ、不愉快に思われましたか?」
「い、いえ!! 全然そんなことはないのですが…………」
うーんと、愛実が考えた。
「…………礼儀、だと思います」
「世話係に礼儀は不要ですよ? もし、意識して敬語で話しているのでたら、外していたいて大丈夫ですよ」
今の言葉で、愛実はなぜアネモネがそのようなことを言っているのか理解した。
世話係は、主に絶対に従わなければならない。
だからだろう。
指示を出す側が、指示を受ける側の人間に敬意をもって接するのは普通ではない。
そう考えているから、愛実との会話に疑問を感じていた。
「なら、私は敬語を外します」
「はい、よろしくお願いします」
「なので、アネモネさんも敬語を外してください」
愛実の言葉に、アネモネは思わず「はぁ?」と抜けた声を出してしまう。
すぐに口を閉ざし、恐怖の表情を浮かべる。
愛実はニコニコと笑い「敬語は外しましょう?」と、再度言う。
「え、で、でも…………」
「私、アネモネさんと友達になりたいんです。唯一の女性ですし」
「えへへ」と、愛実は頬をポリポリと掻く。
本心だという事は、アネモネにも伝わっている。
計画的に言っている訳でも、弱みを握る為でもない。
本当に友達になってほしいと、愛実は思っていた。
アネモネは、今までそんなこと言われたことはなかった。
この世界《コウセン》でも、現実世界でも。
アネモネには、友達と言う存在はいなかった。
作ろうとも、思わなかった。
だって、アネモネはコウセンに来る前でも、いじめられ、家族には捨てられていたから。
だから、愛実の言葉になんと返せばいいのかわからない。
どんな言葉が正解で、どんな言葉が間違いなのか。
口から手を離し、返事をしようと唇を動かす。
けれど、言葉は出ない。なんと言えばいいのか、頭の中で定まっていないから。
愛実は、そんなアネモネを見て、眉を下げた。
でも、待ち続けた。
ここで、余計なことを言ってしまうと、また振り出しになってしまう気がしたからだ。
心が苦しい。何度も何度も、頭を過る「なんでもない」という言葉。
沈黙が続く。
悪い想像が愛実の頭の中を駆け巡る。
やっぱり、迷惑だったか。
やっぱり、嫌だったのか。
やっぱり、友達になりたくなかったのか。
心臓がドクドクと音が鳴る、うるさい。
「――――あの」
やっぱりやめよう、そう思い愛実が口を開いたときだった。
「じゃ、じゃぁ、その、よろしく、ね?」
顔を真っ赤にし、アネモネは言った。
照れているのか、不安なのか。
わからないけれど、今の言葉は、目国の言葉を否定したものではない。
愛実は目を輝かせ、アネモネに思わず抱きついた。
「よろしくね!! アネモネさん!!」
「っ、な、名前。あの…………」
「ん?」
少し離れ、愛実は顔を下げているアネモネを見た。
「名前も、呼び捨てじゃないの……?」
上目遣いで言われ、愛実の心臓はアネモネにより貫かれた。
可愛くて仕方がなく、愛実は頬を染め再度抱きついた。
「わかった! それじゃ、アネモネ? これからよろしくね!」
「う、うん。わかった、愛実様」
そこで、愛実の表情が固まる。
数秒後、頬を膨らませ怒り出した。
「め! ぐ! み!!」
「め、愛実?」
「うん!!」
今度は満面な笑み。
アネモネは、少し驚いたがすぐに表情を緩め、クスクスと笑った。
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