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アザエル
「生みの親」
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路地裏に響く冷静な女性の声。その声から発せられる言葉は辛辣で、この状況では絶対口にしてはならない言葉。
その声が聞こえたのは、青年の後ろ。陽光が差し込まない闇、見通す事が出来ない道。そのような通路から少しずつ姿を現したのは、サイズが合っていないジャージを羽織り、顔を赤く染めている暁音だった。
少しふらついており、まっすぐ歩けていない。それでも、ゆっくりと月海の元へと歩く。暁音の息遣いだけが聞こえる道で、余裕を崩さなかった青年がやっと眉を顰め笑みを消した。だが、暁音は今の段階でふらついているため警戒する必要がないと判断。すぐに月海へと目線を向けた。
「――――なっ!」
目線を月海に戻すと、青年は驚きの声を上げ目を開く。それもそのはず。先ほどまで自身の手のひらの上に居たはずの月海が、気配もなく姿をくらまさていた。
先ほどまで触れていた、撫でていた。青年の指先には、まだそんな感覚が残っている。
首を回し、必死に月海を探すが、隠れられる場所がないにも関わらず見つけられない。闇に溶け込み、気配を完全に消していた。
青年は突如消えてしまった月海に気が動転してしまい、自身が冷静ではないことに気づく。取り乱した気持ちを落ち着かせるため、一度瞳を閉じる。その時にも気配を感じ取ろうとしたが、暁音の気配しか感じ取れず目を開けた。
「っ!」
開けると、眼前に暁音がおり体を大きく震わせた。
彼女は何も口にせず、虚ろな瞳で青年を見上げるのみ。
黒ずんでいる瞳に映るのは、青年の困惑している顔。だが、暁音自身が見ているのは、その奥に潜む青年の心。全てを見透かしているような彼女の瞳に、青年は胸糞悪いというように舌打ちをこぼし、鋭く光る、殺気の含まれた視線を向けた。
「無駄よ」
「なに?」
静かな空間に響いた、静かな暁音の声。冷たく、氷の刃のように鋭い。
「気配を探ろうとしているみたいだけれど、それは無駄なあがき。だって、月海さんは今までずっと、気配を消しながら生きてきていた人なの。簡単に見つかるほど、愚かで馬鹿じゃないわ」
虚ろな目とは裏腹に、しっかりとした口調。迷いのない言葉が放たれ、青年は片眉を上げ「なに?」とぼやく。
今だ見上げている暁音の目を見つめ、なにかに気づき「ふむ」と呟いた。企むように口角を上げ、舌を出す。
楽し気な表情を浮かべる青年に、暁音は何も言わず無言のまま見つめ返す。流れるように青年は、右手を彼女へ伸ばし、動きを封じるため肩を掴もうとした。
「見つからないのであれば、次の玩具は──」
暁音の肩に青年の手が触れそうになった時、何もない空間から突如として彼女を守るように黒いモヤが現れ、触手のような物が伸びてきた。そのため、青年は咄嗟に手を引っ込め一歩、後ろに跳び距離を取る。
狙いを失った触手は、うねうねと動きながらモヤの中に引っ込む。代わりに、子供のような小さな手が伸びてきた。白く、鋭く尖った爪。徐々に手だけではなく、白い袖、黒いベスト。おかっぱ少年がモヤの中から現れ、暁音を守るように前に立ちはだかる。その少年は、暁音に憑いている悪魔、ムエンだった。
冷静に見える姿だか、普段クリンしているパッチにな目は細められ、左右非対称の瞳が青年を射抜く。
「今、アカネに触れようとした? その、汚らしくて、誰も触れたくないような汚物で。触れようとした? 許さない、許さないよ」
「なるほど、悪魔憑きの少女だったか。これは少々厄介なモノを連れておる……」
ムエンは青年を睨み「許さない」と、壊れたおもちゃのように呟き続ける。射抜いている真紅と藍色の瞳は、怒りで血走らせており鋭い。睨まれただけで足が竦んでしまいそうになる。
そんな瞳に睨まれている青年は、何も気にしておらず思考し始めた。
「だが、その悪魔。随分弱く見えるが、まだこの世に出て日が浅いひよっこかのぉ?」
「そんなのあんたには関係ない。許さない、アカネに触れようとしたコト。絶対に、ユルサナイ」
「だからなんじゃ? 許さないからなんだというのだ?」
「はらわた引っ張り出して、脳髄を吸い取り、生き地獄を味合わせた後――――コロシテヤル」
冷静で言い放つムエン。だが、眉間には深い皺が刻まれ、細められている両目からは殺気しか感じない。殺すの選択肢しかムエンの中にはなく、右手を前に突き出し鋭く尖っている爪を青年に受けた。
「子供にもかかわらず、良いものを持っているらしい。これは、ほしいのぉ。食べても良いか?」
「食べてもいい? どういう事?」
青年の言葉に対し、暁音は肩眉を上げ問いかける。ムエンもわからず、すぐに動こうとはせず身構えた。
「そうじゃのぉ。簡単に説明をすると、我は食べたモノの力を吸収することができるのじゃよ。見た目や性格、力なども。すべてを我の物にするのが可能じゃ。このように――……」
右手で自身の顔を覆ったかと思うと、次の瞬間には違う顔になっていた。
髪は短くなり、色は黒色に変化。目元も黒くなり、口元には優し気な笑み。その顔は、暁音の幼馴染である瑠爾そのものだった。
暁音はその顔を見た瞬間、昨日の出来事を思い出し、目を大きく開く。予想外の展開に思考が負いつがず、彼女は目を開いたまま目の前にいる瑠爾を見続けた。
「思い出したようじゃのぉ。まぁ、そのように催眠をかけたから当たり前じゃが」
「お前、アカネになにをした!!!!!」
見た目が変わった青年にムエンが怒りのまま突っ込んでいく。その時、何もなかった地面から突如として複数の黒い手が現れ、ムエンを掴もうとした。
「っ!! 小癪!!」
複数の手をすべて見切り、体を捻りながら手の届かない所まで上空に飛びあがる。
「ほう、逃れる事が出来たか。ならば――――っ!?」
背後から微かな人の動きを感じ取り、咄嗟に膝を曲げ屈み振り向きながら後ろに一歩跳ぶ。
青年の目の前には、鋭く光るカッターナイフの刃。もし気配に気づかず、ムエンに攻撃を仕掛けていれば、刃の餌食になっていた。
「……──ちっ」
「危なかったのぉ。あともう少し気づくのが遅ければ殺られていたかもしれぬ」
「嫌味か?」
「今の現状を元に述べただけじゃよ」
青年の首を狙ったのは、赤い布を揺らし、フードを取った月海だった。
先ほどまでの弱弱しさはなく、別人のような雰囲気を纏っている。裏人格である月海が、暁音の言葉により表人格と入れ替わっていた。
「ほぅ。そちらさんに会うのは初めてかのぉ」
「ゴタゴタ余計な事を喋んじゃねぇよ。耳障りだ」
「会話は大事なコミュニケーションの一つだと考えておるんじゃが」
「黙れ。てめぇなんぞと話す事なんて特にねぇよ。それに、コミュニケーションなんざとる必要もねぇ。おめぇは、今ここで死ぬんだからな」
いつものように月海は、目元に巻かれている赤い布に手をかけ引っ張る。そして、闇が広がる目元を露わにした。片手に持っているカッターナイフを弄び、月海はいらだつ気持ちを抑え青年を見る。
青年は、カッターナイフを避けたのと同時に顔を元に戻し、緑色の長髪を揺らし余裕そうに笑う。そんな青年に対し、月海は今まで我慢していたモノを出し切るように低く、重い口調で言い放った。
「今ここで、殺してやるよ。俺の生みの親である、貴様をな」
その声が聞こえたのは、青年の後ろ。陽光が差し込まない闇、見通す事が出来ない道。そのような通路から少しずつ姿を現したのは、サイズが合っていないジャージを羽織り、顔を赤く染めている暁音だった。
少しふらついており、まっすぐ歩けていない。それでも、ゆっくりと月海の元へと歩く。暁音の息遣いだけが聞こえる道で、余裕を崩さなかった青年がやっと眉を顰め笑みを消した。だが、暁音は今の段階でふらついているため警戒する必要がないと判断。すぐに月海へと目線を向けた。
「――――なっ!」
目線を月海に戻すと、青年は驚きの声を上げ目を開く。それもそのはず。先ほどまで自身の手のひらの上に居たはずの月海が、気配もなく姿をくらまさていた。
先ほどまで触れていた、撫でていた。青年の指先には、まだそんな感覚が残っている。
首を回し、必死に月海を探すが、隠れられる場所がないにも関わらず見つけられない。闇に溶け込み、気配を完全に消していた。
青年は突如消えてしまった月海に気が動転してしまい、自身が冷静ではないことに気づく。取り乱した気持ちを落ち着かせるため、一度瞳を閉じる。その時にも気配を感じ取ろうとしたが、暁音の気配しか感じ取れず目を開けた。
「っ!」
開けると、眼前に暁音がおり体を大きく震わせた。
彼女は何も口にせず、虚ろな瞳で青年を見上げるのみ。
黒ずんでいる瞳に映るのは、青年の困惑している顔。だが、暁音自身が見ているのは、その奥に潜む青年の心。全てを見透かしているような彼女の瞳に、青年は胸糞悪いというように舌打ちをこぼし、鋭く光る、殺気の含まれた視線を向けた。
「無駄よ」
「なに?」
静かな空間に響いた、静かな暁音の声。冷たく、氷の刃のように鋭い。
「気配を探ろうとしているみたいだけれど、それは無駄なあがき。だって、月海さんは今までずっと、気配を消しながら生きてきていた人なの。簡単に見つかるほど、愚かで馬鹿じゃないわ」
虚ろな目とは裏腹に、しっかりとした口調。迷いのない言葉が放たれ、青年は片眉を上げ「なに?」とぼやく。
今だ見上げている暁音の目を見つめ、なにかに気づき「ふむ」と呟いた。企むように口角を上げ、舌を出す。
楽し気な表情を浮かべる青年に、暁音は何も言わず無言のまま見つめ返す。流れるように青年は、右手を彼女へ伸ばし、動きを封じるため肩を掴もうとした。
「見つからないのであれば、次の玩具は──」
暁音の肩に青年の手が触れそうになった時、何もない空間から突如として彼女を守るように黒いモヤが現れ、触手のような物が伸びてきた。そのため、青年は咄嗟に手を引っ込め一歩、後ろに跳び距離を取る。
狙いを失った触手は、うねうねと動きながらモヤの中に引っ込む。代わりに、子供のような小さな手が伸びてきた。白く、鋭く尖った爪。徐々に手だけではなく、白い袖、黒いベスト。おかっぱ少年がモヤの中から現れ、暁音を守るように前に立ちはだかる。その少年は、暁音に憑いている悪魔、ムエンだった。
冷静に見える姿だか、普段クリンしているパッチにな目は細められ、左右非対称の瞳が青年を射抜く。
「今、アカネに触れようとした? その、汚らしくて、誰も触れたくないような汚物で。触れようとした? 許さない、許さないよ」
「なるほど、悪魔憑きの少女だったか。これは少々厄介なモノを連れておる……」
ムエンは青年を睨み「許さない」と、壊れたおもちゃのように呟き続ける。射抜いている真紅と藍色の瞳は、怒りで血走らせており鋭い。睨まれただけで足が竦んでしまいそうになる。
そんな瞳に睨まれている青年は、何も気にしておらず思考し始めた。
「だが、その悪魔。随分弱く見えるが、まだこの世に出て日が浅いひよっこかのぉ?」
「そんなのあんたには関係ない。許さない、アカネに触れようとしたコト。絶対に、ユルサナイ」
「だからなんじゃ? 許さないからなんだというのだ?」
「はらわた引っ張り出して、脳髄を吸い取り、生き地獄を味合わせた後――――コロシテヤル」
冷静で言い放つムエン。だが、眉間には深い皺が刻まれ、細められている両目からは殺気しか感じない。殺すの選択肢しかムエンの中にはなく、右手を前に突き出し鋭く尖っている爪を青年に受けた。
「子供にもかかわらず、良いものを持っているらしい。これは、ほしいのぉ。食べても良いか?」
「食べてもいい? どういう事?」
青年の言葉に対し、暁音は肩眉を上げ問いかける。ムエンもわからず、すぐに動こうとはせず身構えた。
「そうじゃのぉ。簡単に説明をすると、我は食べたモノの力を吸収することができるのじゃよ。見た目や性格、力なども。すべてを我の物にするのが可能じゃ。このように――……」
右手で自身の顔を覆ったかと思うと、次の瞬間には違う顔になっていた。
髪は短くなり、色は黒色に変化。目元も黒くなり、口元には優し気な笑み。その顔は、暁音の幼馴染である瑠爾そのものだった。
暁音はその顔を見た瞬間、昨日の出来事を思い出し、目を大きく開く。予想外の展開に思考が負いつがず、彼女は目を開いたまま目の前にいる瑠爾を見続けた。
「思い出したようじゃのぉ。まぁ、そのように催眠をかけたから当たり前じゃが」
「お前、アカネになにをした!!!!!」
見た目が変わった青年にムエンが怒りのまま突っ込んでいく。その時、何もなかった地面から突如として複数の黒い手が現れ、ムエンを掴もうとした。
「っ!! 小癪!!」
複数の手をすべて見切り、体を捻りながら手の届かない所まで上空に飛びあがる。
「ほう、逃れる事が出来たか。ならば――――っ!?」
背後から微かな人の動きを感じ取り、咄嗟に膝を曲げ屈み振り向きながら後ろに一歩跳ぶ。
青年の目の前には、鋭く光るカッターナイフの刃。もし気配に気づかず、ムエンに攻撃を仕掛けていれば、刃の餌食になっていた。
「……──ちっ」
「危なかったのぉ。あともう少し気づくのが遅ければ殺られていたかもしれぬ」
「嫌味か?」
「今の現状を元に述べただけじゃよ」
青年の首を狙ったのは、赤い布を揺らし、フードを取った月海だった。
先ほどまでの弱弱しさはなく、別人のような雰囲気を纏っている。裏人格である月海が、暁音の言葉により表人格と入れ替わっていた。
「ほぅ。そちらさんに会うのは初めてかのぉ」
「ゴタゴタ余計な事を喋んじゃねぇよ。耳障りだ」
「会話は大事なコミュニケーションの一つだと考えておるんじゃが」
「黙れ。てめぇなんぞと話す事なんて特にねぇよ。それに、コミュニケーションなんざとる必要もねぇ。おめぇは、今ここで死ぬんだからな」
いつものように月海は、目元に巻かれている赤い布に手をかけ引っ張る。そして、闇が広がる目元を露わにした。片手に持っているカッターナイフを弄び、月海はいらだつ気持ちを抑え青年を見る。
青年は、カッターナイフを避けたのと同時に顔を元に戻し、緑色の長髪を揺らし余裕そうに笑う。そんな青年に対し、月海は今まで我慢していたモノを出し切るように低く、重い口調で言い放った。
「今ここで、殺してやるよ。俺の生みの親である、貴様をな」
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