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真陽留

「好いている奴一人取られるんだよ」

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 明人が口にしたのは──

「まず、ベルゼがなぜ姿を変えたか。それはおそらく人間から集めた負の感情、黒い匣によって力を蓄えたからだろう。だから、大人の姿がベルゼの本来の姿なんだろうな。だったら、こちらも同じ事をすればいい。カクリに黒い匣を飲ませ、力を増幅させる。そして、記憶の欠片を利用し、俺にかかっている呪いを吸い取ってもらう。完全には無理だろうが、動けるぐらいにはなるだろ。まさかこんな使い方をするとは思わなかったが、結果オーライだ。俺の趣味に感謝するんだな」

 そんな事をドヤ顔で口にした明人に、二人は呆れるしか出来なかった。
 カクリは頭を支え息を吐き、真陽留は腕を組み「やはり殺すか」とボソリと呟いている。

「まぁ、そういう事だ。だが、正直上手くいくとは思っていない」
「ん? なんでだ?」

 明人の呟いた言葉に真陽留が聞き返すが、難しい顔を浮かべそのまま口を閉じてしまった。それから、考えをまとめるようにボソボソと呟く。

「こいつはまだ餓鬼だ。力を強めれば暴走する恐れがある。そうなれば、今の俺では止めるのは不可能。詰みだ。それに、あいつは悪魔だから負の感情に体制がある、こいつに体制があるかは知らん」

 カクリは本来の力もそこまで弱くなく、抑える事が出来ず暴走する時があった。
 力が溢れ出ている状態なため、カクリはその場のみ強くなり負け無しとなるが、それは彼の意思ではなく、周りも巻き込んでしまう。諸刃の剣と呼ばれるもの。
 ずっと一緒にいた明人にさえ牙を向け、何度か怪我をさせてしまっていた。

 カクリはそれを思い出し、バツの悪そうな顔をし俯いてしまう。

「あぁ、確かに。この狐さんは、病院で一度別人のようになってたな。殺されるかと思ったわ」

 真陽留は病院の出来事について思い出し、手をポンッと鳴らす。もう過ぎた事なため、殺されかけた本人は気にしていなかった。

「そのまま殺しても良かったんだがな」
「良くねぇよ」
「だが、今はそれしかない。暴走しちまっても今回は盾があるから問題なさそうだしな。俺に危害がなければそれでいい」
「本当に変わんねぇよなお前!!!」

 怒りの声を上げるが、明人はそんな様子など何処吹く風状態で、カクリも気にせず話を続ける。

「……立てない以外に何か違和感は無いのかい?」

 カクリは、モゾモゾと心配そうに問いかける。今の話の流れで聞きにくそうにしているが、それでも気になってしまい、目を逸らしながら小さな声で聞いていた。

 明人は普段、カクリが心配して問いかけても適当に「肩がいてぇ」「めんどくせぇ」「体がだるいなぁ」と口にする。にもかかわらず、本当に辛い時は何も言わない。
 カクリはそれを知っているため、平然としているように見せている明人が心配だった。

「問題ねぇわ」
「本当だろうな。痛くはないか、だるくはないか。呪いは進行し続けている。本当に痛みや息苦しさは無いのかい?」

 一番信用出来ない言葉が返ってきたため、身を乗り出し、カクリは責めるように次から次へと質問をぶつける。
 それに対し、明人はイラつきカクリの頭をグイッと押し「問題ねぇ」と小声で言った。

「…………なら良いが。先程レーツェル様がこちらに来ていた。もしかしたら何かを掴んでいる可能性がある」

 カクリの言葉に明人は「まじか」と、冷静にドアの方に目を向ける。その時、都合よくドアが開き誰かが入ってきた。
 最初は、話の流れからしてレーツェルが来たかと思ったが、それより最悪な人物だった。

 出入口に立っていたのは力を取り戻し、楽しげに明人達を見ているベルゼの姿。力を取り戻し、青年の姿をしている。

「最悪だ」
「素直に口にしても何も出ないぞ。いや、出るか。よくもそこまで呪いが進行しているというのに普通でいられる。尊敬するぞ人間」

 ベルゼは笑みを絶やさず、手のひらを上にし指をさす。その後すぐ、明人から真陽留に目線を移し、楽しげな表情から面倒くさそうな表情に切り替えた。

「それに対し、なぜ貴様はその男と仲良く話している。殺しているかと思ったんだが……。やはり貴様は役に立たない凡人だな。いや、凡人以下だ。それだから、好いている奴一人取られるんだよ」

 冷静で冷たい言葉。蔑んでいるような瞳と共に放たれ、真陽留は顔を逸らし何も言い返す事が出来なくなった。
 明人はその様子を横目で見て、ため息を吐く。

「こいつが俺を殺せるわけねぇだろ。俺は天才様らしいからな。まぁ、今はそんなのどうでもいいわ。なんでここにいる? 堕天使を向かわせたと思ったんだがな」

 ファルシーにベルゼの足止めをさせたかったらしい明人だが、それを伝えていなく、逆にそちらには真陽留が行くと伝えていた。どちらが行こうと、彼女なら足止めが出来ると思っていたため、今の現状は予想外。表情には出さず、質問した。

「あの堕天使なら病室にいるだろうな」
「逃げたのか。悪魔が情けないな」
「逃げるわけがないだろう。こちらの方に用があったから来た迄だ」
「用があるならここに居ない方がいいんじゃないか? どうせ、この小屋の奥にある”秘密基地”だろ? さっさと行った方がいいんじゃないか?」

 明人は洞窟の方を指しながら、口角を上げ余裕そうに言う。

「分かっていたみたいだなぁ。なら、用を済まさせてもらおう。それより先に──」

 楽しげに笑いながら真陽留に目を向けたベルゼ。何かに気づき、明人は目を開きカクリの名前を呼んだ。

「っカクリ!!」

 瞬時に理解した彼は、すぐ反応し真陽留を横に押し倒した。

「って!!!」

 真陽留はカクリの全力タックルにより、背中から床に倒れ床へと打ち付けてしまう。

「ほう、避けたか」

 彼が元いた場所には、黒く尖った影が床に刺さっていた。
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