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音禰

「貴様は用済みだ」

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 明人達がいる小屋。奥にはまだ林が進んでおり、薄暗い。霧が漂い
 先が見えず、何があるのかわからない。そんな中、男性と少年が歩いていた。

「ベルゼ。ここにいてバレねぇだろうな?」
「バレたところで返り討ちにすれば良い。そんな事を気にするな、魔蛭よ」

 今、林の奥を歩いていたのは、明人への憎しみで悪魔と契約をした魔蛭と、その悪魔、ベルゼだった。
 なぜここを歩いているのか。それは、以前ベルゼと魔蛭が明人を殺すため小屋に侵入した際、ベルゼは小屋の奥にあるに気付いた。

 何があるのか気になり、二人は確認するため歩いて向かっている。

「何があるんだよ」
「来ればわかる。まぁ、あいつの弱みとかではなさそうだがな。もし、少しでも我の力になれば──クックッ」

 いきなり笑い出すベルゼに、魔蛭は怪しむような目を向ける。しかし、何も問う事はせず、静かに道を進む。

 二人が無言のまま歩いていると、トンネルくらいの大きさはある洞窟が現れた。その周りには淡く輝いている青い光。宙を漂い、幻想的な光景を作り出している。
 洞窟を覗き込むと中は暗く、光源がないととてもじゃないが進む事など出来る訳がない。

「こんな所に洞窟があるなんて……」
「これは、いい物を見つけたなぁ」

 ベルゼは深く笑みを浮かべ、洞窟に近づく。中からは冷たい風が吹き、光源が全くないため不気味な雰囲気が漂い、入るのが躊躇われる。
 闇の中から何かが出てきそうな雰囲気に、魔蛭は少し体を震わせた。

「おい、もういいだろう」
「なんだ、怖いのか?」
「そんな訳──」
「まぁ待て。ここに何があるかはわからんが、一つだけ確信した事がある」

 ベルゼは魔蛭の言葉を遮り、笑みを浮かべたまま洞窟に手を添える。

「なんだよ、確信した事って……」
「恐らく、この洞窟がこの林にかけられた結界の軸となるものなんだろう。なら、この洞窟の奥にその媒体があるはずだ。普通、あんな餓鬼がこんだけ強力且つ、広範囲に結界など不可能。あいつの場合は特殊だが、それでも無理だ」

 楽しげに口にした後、ベルゼは何を思ったのか魔蛭に近づいた。

「な、なんだよ」
「我の狙いは、もう目の前だ」
「確か、お前の狙いって相想の近くに居る子狐だったか?」
「そうだ。そして、ここを発見した。なら、もうこそこそする必要は無い」

 言葉と共に、ベルゼは何故かいきなり自身に影を纏わせた。

「な!!」

 ベルゼの行動に魔蛭は驚き、何が起きるのかを見続けていた。すると、どんどん影は剥がれていき、次に姿を現した時には、ベルゼの姿は変わっていた。

 身長が魔蛭より大きくなり、服装は変わらないが、緑色の髪は腰まで長くなっていた。左右非対称のタレ目に、鋭い牙。爪も鋭く尖っている。そして、背中には大きな悪魔の翼が生えていた。

「さぁて。もうお前は用済みだ。今まで我のために黒い想いを集めてくれて──礼を言うよ」
「ど、言う事、だ?」

 冷や汗を流し、顔をひきつらせる。そんな魔蛭の姿を確認し、ベルゼは笑い声を上げ手を前に出す。

「お前の恨みなど、我にはどうでもいい。力が欲しかった。ただ、それだけだ。これで──貴様は用済みだ」

 魔蛭は目を見開き、体をカタカタと震わせる。
 ベルゼの異様な笑みに、その場に居てはならないと警告が頭の中を走る。彼はその場から逃げるように後ろへ走り出した。だが、本来の悪魔の力を取り戻したベルゼからは逃げ切れるはずもなく、簡単に回り込まれてしまう。

「お前、まさか最初から俺を利用して──」
「当たり前だろう。我が欲しいのは子狐の力。だが、ただ襲ってもつまらん。その時、お前を見つけたのだ。お前の黒く染った想い──匣を見つけたのだ。だから、暇つぶし程度に力を渡した。実に楽しかったぞ、

 ベルゼが魔蛭の顔を鷲掴むと、徐々に肌色が黒く変色していき、全身が黒くなってしまった。

「な、なんだよこれ。おい! ふざけんなベルゼ!!」

 彼の叫び声など今のベルゼにはどうでもいいこと。そのまま地面から無数の腕を出し、魔蛭を引きずり込むように引っ張りこんでいく。
 魔蛭は罵詈雑言をベルゼにぶつけ続けるが、それは意味がなく。魔蛭の声はとうとう──聞こえなくなった。

「クククッ……ハッハッハッハハハハ!!!!」

 林の奥からベルゼの楽しげに笑う、異様な声が響き渡っていた。
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