51 / 130
架唯
「出来ない」
しおりを挟む
小屋の中では明人とカクリがテーブルを挟み、向かい合っていた。
テーブルの上には小瓶が二つ。一つは空の小瓶、もう一つはただの水が入った小瓶。
その二つを何故か二人は真剣な眼差しで見続けていた。
なぜそのような事をしているのかと言うと───
「明人よ」
「なんだ」
「なぜ、ただの水が入った小瓶なんだい」
「小瓶の正しい使い方だ」
「~~~~ふざけるなっ!!!」
「いって!!! おいっ!!!」
カクリは怒りの表情で水の入った小瓶を明人に向けて思いっきり投げ、それが命中した。そのせいで、明人は頭に手を置き、テーブルにおでこを付ける事となる。
体を微かに震えさえ、痛みに耐えていた。
テーブルの横に座る前にカクリは明人に「依頼人の匣が入った小瓶を寄越すのだ」と手を差し出していた。
それを明人は「ただ渡すのもつまんねぇからゲームしようぜ」って事になり、テーブルを囲み座った。
そして、ゲームのルールは────
〈液体の入った小瓶を先に取った方の勝ち。取った小瓶はそのままやる〉
と、いう物。
カクリが欲しかったのは匣が入った小瓶であって、何の変哲もない水が入った小瓶には興味はない。だが、彼が準備したのはただの小瓶だった。
「ルール的におかしいだろう。普通は先に取った方の勝ち、目的の物を手に入れる事が出来る、だろう。なぜ、取った物をそのまま手に入れる事が出来るなのだ。それに、準備されたのはただの水と空の小瓶。意味がわからん」
手を組みながら頭を抑える明人に蔑むような目を向け、カクリはまくし立てた。
「だからって、水の入った小瓶を投げるこたねぇだろうが。つーか、こういう時は騙されろや。わざわざややこしい説明をしたっつーのによ」
「やはりわざとだったか。暇つぶしも程々にしてくれ明人よ」
「暇なんだよ」
「だからと──」とカクリが口にした瞬間、何かに気付いたのかドアへと目線を向けた。
「やっと来たか」
「そのようだな。明人が馬鹿している間に匣が黒くなってしまったらしい」
「俺のせいみたいな言い回ししてんじゃねぇわ。関係ねぇ」
明人は「よっこらせ」と立ち上がり、小瓶二つを右ポケットに入れた。そして、左ポケットから少しだけ黒くなっている黄色の液体が入った小瓶を取り出す。
「それが欲しかったのだが……」
「もう遅いな」
明人は真顔で答え小さな木の椅子に座り、小瓶をテーブルに置いた。
「貴様っ……」
カクリが握り拳を握った時、大きな音を鳴らしドアが勢いよく開かれた。そこには顔色が悪く、何を見ているのかわからない奏恵の姿があった。
「お待ちしておりました奏恵さん。椅子にお座りください」
一瞬にして明人は外面に切り替え、優しい笑みを浮かべ椅子へと座るように促した。
「私の──を、早く──てください」
促された奏恵は、明人の声が届いておらずボソボソと何かを呟いている。だが、彼女が何を言っているのか聞き取れず、明人は首を傾げた。
「あの、とりあえず一度椅子に───」
「早く!! 私の記憶を取って!!」
明人の言葉を遮り奏恵は声を荒らげ、何を思ったのか。彼へと近付きいきなり胸ぐらを掴んだ。
「明人!!」
カクリが加勢に入ろうとしたが、それを明人が手で制す。
「お願い、私の記憶を全て抜き取って……。匣はもういいの。だって、もう話す相手は、居ないから」
涙が頬を流れ、空中を舞う。胸ぐらを掴みながら呟く奏恵を、明人は顔色一つ変えずに見ていた。
いつもの微笑みを消し、ただひたすらに奏恵を見ている。
「それは、出来ない」
掠れているような声に、奏恵は掴んでいた手を離しその場にへたりこんでしまう。
「どうして、ですか」
明人の前に項垂れる奏恵の声は、今にも消えそうなほどか細い。声は震えており、聞き取りにくいものだった。だが、今回は明人もしっかりと聞き取れたらしく、静かに話し出す。
「言っておくが、俺は依頼人の匣を開ける事に対してならそれ相応に対応させてもらうが、お前の望みである記憶を取るは俺がやる事ではない。そのため、引き受ける事が出来ない」
明人は少しでもわかりやすく、冷静に説明する。それに対し、さっきまで意気消沈して項垂れていた奏恵が、いきなり顔をばっと上げた。
その顔には怒りの表情が浮かんでおり、歯をかみ締め涙を浮かべている。
「いいから。そんなのいいから!! 早く、私の記憶を取ってよ!! お願いだから!! もう私は、思い出したくないの!!」
頭を両手で掴み叫ぶ奏恵を、明人は表情一つ変えずに見続けていた。
テーブルの上には小瓶が二つ。一つは空の小瓶、もう一つはただの水が入った小瓶。
その二つを何故か二人は真剣な眼差しで見続けていた。
なぜそのような事をしているのかと言うと───
「明人よ」
「なんだ」
「なぜ、ただの水が入った小瓶なんだい」
「小瓶の正しい使い方だ」
「~~~~ふざけるなっ!!!」
「いって!!! おいっ!!!」
カクリは怒りの表情で水の入った小瓶を明人に向けて思いっきり投げ、それが命中した。そのせいで、明人は頭に手を置き、テーブルにおでこを付ける事となる。
体を微かに震えさえ、痛みに耐えていた。
テーブルの横に座る前にカクリは明人に「依頼人の匣が入った小瓶を寄越すのだ」と手を差し出していた。
それを明人は「ただ渡すのもつまんねぇからゲームしようぜ」って事になり、テーブルを囲み座った。
そして、ゲームのルールは────
〈液体の入った小瓶を先に取った方の勝ち。取った小瓶はそのままやる〉
と、いう物。
カクリが欲しかったのは匣が入った小瓶であって、何の変哲もない水が入った小瓶には興味はない。だが、彼が準備したのはただの小瓶だった。
「ルール的におかしいだろう。普通は先に取った方の勝ち、目的の物を手に入れる事が出来る、だろう。なぜ、取った物をそのまま手に入れる事が出来るなのだ。それに、準備されたのはただの水と空の小瓶。意味がわからん」
手を組みながら頭を抑える明人に蔑むような目を向け、カクリはまくし立てた。
「だからって、水の入った小瓶を投げるこたねぇだろうが。つーか、こういう時は騙されろや。わざわざややこしい説明をしたっつーのによ」
「やはりわざとだったか。暇つぶしも程々にしてくれ明人よ」
「暇なんだよ」
「だからと──」とカクリが口にした瞬間、何かに気付いたのかドアへと目線を向けた。
「やっと来たか」
「そのようだな。明人が馬鹿している間に匣が黒くなってしまったらしい」
「俺のせいみたいな言い回ししてんじゃねぇわ。関係ねぇ」
明人は「よっこらせ」と立ち上がり、小瓶二つを右ポケットに入れた。そして、左ポケットから少しだけ黒くなっている黄色の液体が入った小瓶を取り出す。
「それが欲しかったのだが……」
「もう遅いな」
明人は真顔で答え小さな木の椅子に座り、小瓶をテーブルに置いた。
「貴様っ……」
カクリが握り拳を握った時、大きな音を鳴らしドアが勢いよく開かれた。そこには顔色が悪く、何を見ているのかわからない奏恵の姿があった。
「お待ちしておりました奏恵さん。椅子にお座りください」
一瞬にして明人は外面に切り替え、優しい笑みを浮かべ椅子へと座るように促した。
「私の──を、早く──てください」
促された奏恵は、明人の声が届いておらずボソボソと何かを呟いている。だが、彼女が何を言っているのか聞き取れず、明人は首を傾げた。
「あの、とりあえず一度椅子に───」
「早く!! 私の記憶を取って!!」
明人の言葉を遮り奏恵は声を荒らげ、何を思ったのか。彼へと近付きいきなり胸ぐらを掴んだ。
「明人!!」
カクリが加勢に入ろうとしたが、それを明人が手で制す。
「お願い、私の記憶を全て抜き取って……。匣はもういいの。だって、もう話す相手は、居ないから」
涙が頬を流れ、空中を舞う。胸ぐらを掴みながら呟く奏恵を、明人は顔色一つ変えずに見ていた。
いつもの微笑みを消し、ただひたすらに奏恵を見ている。
「それは、出来ない」
掠れているような声に、奏恵は掴んでいた手を離しその場にへたりこんでしまう。
「どうして、ですか」
明人の前に項垂れる奏恵の声は、今にも消えそうなほどか細い。声は震えており、聞き取りにくいものだった。だが、今回は明人もしっかりと聞き取れたらしく、静かに話し出す。
「言っておくが、俺は依頼人の匣を開ける事に対してならそれ相応に対応させてもらうが、お前の望みである記憶を取るは俺がやる事ではない。そのため、引き受ける事が出来ない」
明人は少しでもわかりやすく、冷静に説明する。それに対し、さっきまで意気消沈して項垂れていた奏恵が、いきなり顔をばっと上げた。
その顔には怒りの表情が浮かんでおり、歯をかみ締め涙を浮かべている。
「いいから。そんなのいいから!! 早く、私の記憶を取ってよ!! お願いだから!! もう私は、思い出したくないの!!」
頭を両手で掴み叫ぶ奏恵を、明人は表情一つ変えずに見続けていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる