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「憎むんだな」

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 凛は中身が何も入っていないビニール袋を持って、暗い夜道を叫びながら歩いていた。

 周りはお店が建ち並んでおり、扉には【CLOSE】と書かれた看板がかけられている。

「ちょっと!!! 悪陣魔蛭おじんまひふ!! 出てきなさい! また私に願いの叶う飴をちょうだい!!」

 叫び散らしながら歩き続ける凛の表情は、怒りそのもの。
 憤怒の形相で、喉が張り裂けそうなほど甲高い声を出しながら、一人の名前を叫び続けた。


 凛は星と真珠を虐めていた時、こっそりと飴を舐めており、その飴は真珠も一度舐めた事がある”願いの叶う飴”だった。
 それが入っていたであろうビニール袋には何も入っていなく、空の状態。

 凛は悪陣魔蛭からまた飴を貰うため、現在、初めて彼と出会った寂れた町を、喚き散らしながら歩いていた。

「さっさと出てきなさいよ!!」

 地面を強く蹴り、歩いていた足は焦りでだんだん小走りになって行く。
 苛立ちと焦りが籠った声が、人気のない町に木霊する。

 何故凛がここまで焦っているのか。
 それは、最後の一つであった飴の効果が無くなり、テニスの技術が大幅に下がってしまったからだ。

 ろくに練習もしていなかったため、飴を舐めていなかった時よりも酷い有様になっている。

「私は天才なの……。そう、私は選ばれた。選ばれた、唯一の存在……」

 自分に暗示するように呟き、歩き続ける凛の体には、どす黒いオーラが纏われているように見える。

 そんな中、凛が歩いている道の前方からコツ………コツ……と。
 革靴で歩いているような足音が聞こえた。

 その直後、楽しげな声が響く。

「おいおい、もうなくしちまったのかよ。早すぎだろうが」

 凛の前方からやってきたのは眉を下げ、口角を上げている悪陣魔蛭だった。
 その笑みは歪で、恐怖を感じる。

 だが、凛はそんなのお構い無しに、空になっているビニール袋を押し付け喚き散らした。

「早く新しいのをちょうだい! 早く!!」

 甲高い声で何度も「頂戴」と繰り返している。
 その様子を魔蛭は八重歯を見せ、喉を鳴らし笑いながら見ていた。

「いいぜ、くれてやるよ。ただし──」

 凛はその言葉に喜び笑みを浮かべた。
 だが──……


 凛の瞳からは生気が失われ、次の瞬間その場に倒れ込んでしまった。




「お前の【匣】を引き換えにな」





 魔蛭は倒れた凛の手に飴の入ったビニール袋を置き、笑い声を上げながらその場を去って行く。

「貰っていくな。お前の──を」





 魔蛭が去った後、倒れた凛に近付く一つの影。

 正体は、どのような感情なのか読み取る事が出来ないほど、無表情な顔を浮かべている明人だった。

 明人は近くに置かれている飴を持ち上げ、まじまじと中身を確認。そっと自分のポケットの中へと入れて、その場をあとにした。


「匣を取られちまったら終わりだ。自分の選択を憎むんだな」


 それだけを言い残し、彼は闇の中へと姿を消した。
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