29 / 130
凛
「企業秘密だ」
しおりを挟む
真珠は明人を見届けたあと、息をつき肩の力を抜く。
カクリがソファーの後ろから近付き、真珠に声をかけた。
「本当に、いいんだね?」
「っ。えっ!? 誰!?」
「会った事なかったかい?」
「あ……。前回……、小屋にいた綺麗な子……」
何となく覚えているようだが、カクリは依頼人にあまり興味が無いため、覚えていようがどうでも良かった。
お互い見つめ合うがどちらも口を開かず、沈黙が続く。
数秒後、沈黙を破る声を出したのは、カクリの鈴のような声だった。
「君自身はもう、大丈夫そうだね」
「え? それって……」
「そのままの意味だよ。私は疲れた、隣失礼するよ」
真珠の返答を聞かずに、カクリはソファーに移動し彼女の隣に座る。
横顔からでも分かるほど儚く美しい見た目に、真珠は魅入ってしまう。
「そんなに見たところで意味はあるのかい? 失礼ではないかい?」
「え、ご、ごめんなさい……。その。綺麗で、つい」
謝罪しつつも目を逸らさず、見続けている。
「口だけの謝罪に意味はあるかい? 君は本当に弱いね」
「うっ。すいません……」
今度こそ、真珠は項垂れ目線を外す。
その直後、ドアの奥へと行った明人が戻ってきたのだが、その姿に真珠は驚き目を見開いた。
今の明人の姿は黒いスーツに、緩めのネクタイを面倒くさそうに締められ。脇にはビジネスバックが挟まれている。
その姿を見た瞬間、真珠は先程までの態度との違いに驚き、目が離せなくなった。
「見惚れてねぇでさっさと行くぞ」
「みっ、見惚れてなんていません!」
「俺はかっこいいからな。見惚れるのは仕方がねぇよ」
「自分で言わないでください!」
言い争いをしながら、二人はドアを潜り外へ出ようとする。
その時、明人は少年の姿でついていこうとしていたカクリの方へ振り向き、口を開いた。
「カクリ、お前は狐の姿になれ」
「! どうしてだい?」
明人がなぜそう言ったのか分からず、カクリは首を傾げ聞き返す。
「お前、今歩くのおせぇだろうが。そんな奴に合わせてたら夜になるっつーの。さっさと肩に乗れ」
「…………そういう面もあるのだな」
カクリは驚きの声を零し、言われた通り小狐の姿へと変わった。
そのまま明人の腰まで跳び、そこから上へとよじ登ろうとするが、途中で前回刺されてしまった所に痛みが走り顔を歪ませる。
それでも、しっかりと肩へと登りきった。
「んじゃ行くぞ」
「は、はい」
真珠は、今までのカクリと明人の会話に困惑。
当たり前のように進もうとする明人達の後ろを、彼女は素直について行くしか出来なかった。
※
明人の歩幅は女子高生である真珠と比べると大きい。
置いていかれないよう、真珠は必死に早歩きでついて行く。
今はもう本性を出しているため、明人は人に合わせるなどする訳がなく、自分中心で進み続けていた。
「ちょっ、早いですよ!!」
「お前が遅いんだろうが」
「私に合わせてください!!」
「お前は夜の病院に行きたいのか?」
「そんなに遅くなるかぁぁぁあ!!」
今は昼過ぎで、病院もそんなに遠くない。
真珠の歩幅でもすぐに辿り着く事が出来る。
そんな口論をしていたが、結局明人は真珠に合わせる事はなく、病院に辿り着いてしまった。
「さて、受付でもしてくるか……。あ? お前なに疲れてんだよ、運動不足か? どーせ家でゲームだの本だの携帯だのして寝不足なだけだろ、自業自得だ。さっさと来い、餓鬼」
「はぁ……はぁ……。あんた……まるっきり別人よね……。接客業……はぁ……向いてないんじゃないの……」
膝に手を付き、真珠は息を整えようと肩を上下に動かしながら、彼の言葉に怒りを込めて返答していた。だが、その言葉に彼は一切耳を貸さず、そのまま廊下を進んでしまう。
「ちょっ! 待ってよ!!」
真珠は息が整わないうちに、明人のせいで再度走る羽目になってしまった。
星の病室を見つけ、明人は乱暴に足でドアを開いた。
勢いよく開いてしまったため、ガタンという大きな音が廊下に響くがそれでもお構いなく、彼は病室の中へと足を踏み入れた。
「ちょっと、手ぐらい使いなさいよ……」
「足が長いものでね」
「はいはい。分かりましたよナルシストが……」
真珠はそのあとも明人への文句や不満をブツブツと零していたが、言われている張本人は一切聞こえておらず、ベットへと向かった。
「さてと、さっさと開けるか……。カクリ、あとは頼むぞ」
「あの者はどうするつもりだ」
カクリは顔を真珠の方へと向け、問いかける。
「あ、そうだったな。おい、そこのキモオタ」
「っ、誰がキモオタよ!! どこがオタよ!!」
「ブツブツなに呟いてんだよ。黒魔術でもするつもりか? 何を召喚するつもりだよ」
「何も召喚しませんよ!」
キッと明人を睨むが、彼は何処吹く風のような態度を貫き通す。
この二人は”混ぜるな危険”のような関係になってしまったようで、カクリは肩に乗りながらため息を吐いていた。
「厨二病女、俺は今からこいつの匣を開ける。ここからは企業秘密だ、病室を出ろ」
「…………はぁ?」
真珠は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな態度を見せた。
「さっさと行け」
「っ。…………わかったわよ」
素直に従いたくない真珠は反発しようとしたが、明人の鋭い目に睨まれ、反射的に頷いた。
最後に彼を睨みつけ、ドアを閉めた。
真珠が病室から出ていった事を確認すると、明人は星の頭を支えるように手を添え、もう片方の手で隠していた右目を露にする。
「さて、今はどんな感じになってるのかねぇ……。話聞ける状態じゃなければすぐに蓋を閉じるぞ、カクリ」
「了解だ、明人よ」
力強く交わし、二人は記憶の中へと入っていった。
カクリがソファーの後ろから近付き、真珠に声をかけた。
「本当に、いいんだね?」
「っ。えっ!? 誰!?」
「会った事なかったかい?」
「あ……。前回……、小屋にいた綺麗な子……」
何となく覚えているようだが、カクリは依頼人にあまり興味が無いため、覚えていようがどうでも良かった。
お互い見つめ合うがどちらも口を開かず、沈黙が続く。
数秒後、沈黙を破る声を出したのは、カクリの鈴のような声だった。
「君自身はもう、大丈夫そうだね」
「え? それって……」
「そのままの意味だよ。私は疲れた、隣失礼するよ」
真珠の返答を聞かずに、カクリはソファーに移動し彼女の隣に座る。
横顔からでも分かるほど儚く美しい見た目に、真珠は魅入ってしまう。
「そんなに見たところで意味はあるのかい? 失礼ではないかい?」
「え、ご、ごめんなさい……。その。綺麗で、つい」
謝罪しつつも目を逸らさず、見続けている。
「口だけの謝罪に意味はあるかい? 君は本当に弱いね」
「うっ。すいません……」
今度こそ、真珠は項垂れ目線を外す。
その直後、ドアの奥へと行った明人が戻ってきたのだが、その姿に真珠は驚き目を見開いた。
今の明人の姿は黒いスーツに、緩めのネクタイを面倒くさそうに締められ。脇にはビジネスバックが挟まれている。
その姿を見た瞬間、真珠は先程までの態度との違いに驚き、目が離せなくなった。
「見惚れてねぇでさっさと行くぞ」
「みっ、見惚れてなんていません!」
「俺はかっこいいからな。見惚れるのは仕方がねぇよ」
「自分で言わないでください!」
言い争いをしながら、二人はドアを潜り外へ出ようとする。
その時、明人は少年の姿でついていこうとしていたカクリの方へ振り向き、口を開いた。
「カクリ、お前は狐の姿になれ」
「! どうしてだい?」
明人がなぜそう言ったのか分からず、カクリは首を傾げ聞き返す。
「お前、今歩くのおせぇだろうが。そんな奴に合わせてたら夜になるっつーの。さっさと肩に乗れ」
「…………そういう面もあるのだな」
カクリは驚きの声を零し、言われた通り小狐の姿へと変わった。
そのまま明人の腰まで跳び、そこから上へとよじ登ろうとするが、途中で前回刺されてしまった所に痛みが走り顔を歪ませる。
それでも、しっかりと肩へと登りきった。
「んじゃ行くぞ」
「は、はい」
真珠は、今までのカクリと明人の会話に困惑。
当たり前のように進もうとする明人達の後ろを、彼女は素直について行くしか出来なかった。
※
明人の歩幅は女子高生である真珠と比べると大きい。
置いていかれないよう、真珠は必死に早歩きでついて行く。
今はもう本性を出しているため、明人は人に合わせるなどする訳がなく、自分中心で進み続けていた。
「ちょっ、早いですよ!!」
「お前が遅いんだろうが」
「私に合わせてください!!」
「お前は夜の病院に行きたいのか?」
「そんなに遅くなるかぁぁぁあ!!」
今は昼過ぎで、病院もそんなに遠くない。
真珠の歩幅でもすぐに辿り着く事が出来る。
そんな口論をしていたが、結局明人は真珠に合わせる事はなく、病院に辿り着いてしまった。
「さて、受付でもしてくるか……。あ? お前なに疲れてんだよ、運動不足か? どーせ家でゲームだの本だの携帯だのして寝不足なだけだろ、自業自得だ。さっさと来い、餓鬼」
「はぁ……はぁ……。あんた……まるっきり別人よね……。接客業……はぁ……向いてないんじゃないの……」
膝に手を付き、真珠は息を整えようと肩を上下に動かしながら、彼の言葉に怒りを込めて返答していた。だが、その言葉に彼は一切耳を貸さず、そのまま廊下を進んでしまう。
「ちょっ! 待ってよ!!」
真珠は息が整わないうちに、明人のせいで再度走る羽目になってしまった。
星の病室を見つけ、明人は乱暴に足でドアを開いた。
勢いよく開いてしまったため、ガタンという大きな音が廊下に響くがそれでもお構いなく、彼は病室の中へと足を踏み入れた。
「ちょっと、手ぐらい使いなさいよ……」
「足が長いものでね」
「はいはい。分かりましたよナルシストが……」
真珠はそのあとも明人への文句や不満をブツブツと零していたが、言われている張本人は一切聞こえておらず、ベットへと向かった。
「さてと、さっさと開けるか……。カクリ、あとは頼むぞ」
「あの者はどうするつもりだ」
カクリは顔を真珠の方へと向け、問いかける。
「あ、そうだったな。おい、そこのキモオタ」
「っ、誰がキモオタよ!! どこがオタよ!!」
「ブツブツなに呟いてんだよ。黒魔術でもするつもりか? 何を召喚するつもりだよ」
「何も召喚しませんよ!」
キッと明人を睨むが、彼は何処吹く風のような態度を貫き通す。
この二人は”混ぜるな危険”のような関係になってしまったようで、カクリは肩に乗りながらため息を吐いていた。
「厨二病女、俺は今からこいつの匣を開ける。ここからは企業秘密だ、病室を出ろ」
「…………はぁ?」
真珠は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな態度を見せた。
「さっさと行け」
「っ。…………わかったわよ」
素直に従いたくない真珠は反発しようとしたが、明人の鋭い目に睨まれ、反射的に頷いた。
最後に彼を睨みつけ、ドアを閉めた。
真珠が病室から出ていった事を確認すると、明人は星の頭を支えるように手を添え、もう片方の手で隠していた右目を露にする。
「さて、今はどんな感じになってるのかねぇ……。話聞ける状態じゃなければすぐに蓋を閉じるぞ、カクリ」
「了解だ、明人よ」
力強く交わし、二人は記憶の中へと入っていった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる