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大天狗

氷鬼先輩とヒョウリの怒り

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「やっぱり気持ちわりぃ…………」

「慣れないねぇ。司君の丁寧語」

「だまれ、後ろの二人」

 二人の口かられた声に、司は怒りの含んだ言葉を返す。

『そうか、死なぬように気を付けるのだな』

「相手を心配するなんて、ちょー余裕じゃん、大天狗様さー!! 行け、輪入道わにゅうどう!!」

 凛は輪入道わにゅうどうを大天狗へと向かわせた。

『いかがいたしますか、主』

「まずは、輪入道わにゅうどうと大天狗の動きを見ましょう」

『了解いたしました』

 凛と司は目を合わせ、タイミングを計る。
 向ってくる輪入道わにゅうどうを見て、大天狗はしゃくじょうを上にまで上げ、振り下げた。

 突如、突風が吹き荒れ、輪入道わにゅうどうは行く道をさえぎられる。
 司たちにも風は届き、顔をおおった。

「っ! 風が!!」

 空中でガタガタと音を鳴らし進めない。
 そんな輪入道わにゅうどうに、大天狗は追い打ちをかける。

 かまいたちのような、風の刃を輪入道わにゅうどうに向けて放った。
 まともに当たればひとたまりもない。

 すぐにヒョウリが動き出す。
 息を吹き、冷気を刃に向けて放つ。すると、二つの攻撃がぶつかり合い、相殺そうさいされた。
 輪入道わにゅうどうは、風が止んだため再度大天狗へと向った。

「燃やせ、輪入道わにゅうどう!!!」

 凛の言葉に輪入道わにゅうどうはタイヤを大きくぶん回し、炎をまき散らす。
 近くにいたヒョウリは、火の粉が飛んでくるため、すぐに退避たいひ。司の元へ戻って行った。

『あの者、我の姿が見えぬのか……』

「怒りは大天狗に向けてくださいね、ヒョウリ」

 眉をピクピクと動かし、ヒョウリがかすかな怒りを輪入道わにゅうどうに向ける。
 だが、すぐさま司が制御し、冷静にヒョウリの怒りを抑えた。

『わかりました。そこまで大天狗に魅力みりょくは感じませんが、尽力を尽くします』

「お願いします」

 大天狗はヒョウリのお眼鏡にはかからなかったらしいが、司の指示の為に、火の粉が当たらない所まで移動した。

 炎は大天狗の周りに渦巻き、燃えつくそうとする。だが、大天狗は余裕な表情。
 あわてることなく、周りを見ていた。

『赤く、熱い炎だな。だが、私には効かぬぞ』

「効かないのはわかっているよ!!」

 凛が叫ぶと、二枚目のお札を取り出した。

鬼火おにびよ、輪入道わにゅうどうの炎を赤く燃え上がらせろ!!」

 手に持っていたお札を輪入道わにゅうどうに投げると、周りに火の玉が広がる。
 札も炎に包まれ、大きな火の玉が現れた。

 何をする気だろうと見ていると、鬼火おにびが放った炎が輪入道わにゅうどうの炎と重なり、大きく燃え広がった。
 色もくなり、森が赤く染まる。

「…………すごい」

「すごいですが、こっちの属性は考えてほしいですね」

 司の声で、詩織は無意識にヒョウリを見た。

(あっ、なんか、怒ってる? 冷たい……。熱いのに、冷たい)

 ヒョウリは、辺りが熱くなるにつれ怒りが徐々にせり上がり、冷たい空気をまといだす。
 口から出る息は白く、前髪からのぞき見えるひとみは冷たく光る。

 青筋を立て、青い唇を横に引き延ばした。

『指示をください、主』

「…………大天狗を凍らせてください。決して、輪入道わにゅうどう鬼火おにびを攻撃しないように」

『了解』

 主である司でも顔を青くするほどの冷気をただよわせる。
 詩織も何も言えず、恐怖で口元をふるわせた。

 翔と湊ですら、何も言うまいと口を閉ざした。

『…………ほう。雪女もくるか』

 炎が広がる中、ヒョウリが近づいてきていることに大天狗は気付く。
 普通の雪女なら、炎に囲まれた時に体が少しずつ溶けていくはず。それなのに、ヒョウリは感情のままに炎の中をかけ回る。

『面白い組み合わせだが、私も暇ではない。すぐに終わらせる』

 いいながら、大天狗はしゃくじょうを前に突き出した。
 すると、黒いつばさから大量の羽を飛ばす。

 全てを焼き尽くそうとした輪入道わにゅうどうだが、ヒョウリが氷より冷たい視線を送ったことで動きを止めた。

『私がやります』

 輪入道わにゅうどうなんかに自分が負けるわけがないと、なぜか輪入道わにゅうどう闘争心とうそうしんを燃やし、冷たい息を黒い羽に吹きかけた。

 すべて凍り付き、地面に落ちる。
 大天狗は、またしても『ほう』と、感心したような声を出した。

「はぁ……、まったく、だから、扱いずらいんだ、ヒョウリは…………」

「素に戻っているが大丈夫か、司」

「…………ヒョウリが大天狗の攻撃を全て凍らせてくれたため、次の動きに移行が出来ます」

 頭を抱えていた司だったが、翔からのツッコミにすぐ気を取り直した。
 口元に手を当て、目の前にいる大天狗を見るヒョウリ。その後ろには輪入道わにゅうどう鬼火おにびが控えていた。

 凛は、ヒョウリの登場におどろきつつも、輪入道わにゅうどう鬼火おにびを動かしていいのか司に視線だけで問いかけた。

「…………ヒョウリ、輪入道わにゅうどう鬼火おにびと協力してください」

 司が指示を出すと、眉間に深いしわをよせ、いやな顔を浮かべたが渋々しぶしぶうなずいた。

(相当いやなんだね……)

 詩織はヒョウリの反応を見て、苦笑い。
 司はすぐに次の動きを始めていた。

「ユキ、ヒョウリと共に大天狗を凍らせなさい!」

 ふところから一枚の札を取り出し、前方に投げる。
 すると、冷気に包まれユキが現れた。

『ごしゅじんしゃまのおおせのままにー!!』

 元気いっぱいに現れたユキは、ヒョウリのとなりに移動する。
 眉を吊り上げ、大天狗を見た。

『ユキワラシまでいたのか。これは、少々面白いかもしれんな』

 大天狗は、一切動揺を見せない。
 また、しゃくじょうを動かしはじめた。

『だが、いくら式神を出そうと、私に勝つのは不可能だ』

 言うと、大天狗は突風を吹き荒らす。それは、ヒョウリとユキ、輪入道わにゅうどう鬼火おにびを巻き込む。
 グルグルと体は洗濯機の中に放り込まれたかのように回転し、式神四体は自由に体を動かせない。

「ヒョウリ! ユキ!」

輪入道わにゅうどう!! 鬼火おにび!!」

 それぞれの主が叫ぶ。
 大天狗は、式神の動きを封じたことで、狙いを司たちに移した。

『実力は本物らしい。だが、私に挑むにはまだ早かったらしい』

 しゃくじょうがシャランと音を鳴らす。
 同時に、司たちを取り囲む木がつるを伸ばし、おそい掛かった。
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