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大天狗

氷鬼先輩と作戦会議

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 楽しんでいる二人をよそに、湊は司に声をかけた。

「ところで、手紙に書いていた内容は、本当かい?」

「はい。詩織は、今回の大天狗討伐に協力してくださいます」

 本題に入ったことに気づき、凛と詩織も体勢を直す。

「それなら助かったよ。鬼の血があれば、少しだけでも優位ゆういに戦える」

「酔わせることで、そこまで言う程優位になれるの?」

 湊に問いかけたのは、凛だった。

「どれだけ酔わせることが出来るかによるかな。人間の酔っ払いを想像してみて」

 その場にいる全員が一般的な酔っ払いを想像した。
 頭にネクタイを巻き、黒いよれよれのスーツを着た男性がちどり足で歩く姿。

 そんな姿の大人を思い出し、三人はげんなり。顔を青くした。

「ふふっ。まぁ、そんな感じだよ。体はふらつき、頭ははたらかない。そんな状態に出来れば、相手が大天狗だとしても、俺達四人でどうにか出来ると思うよ」

 湊に言われ、皆は納得。
 詩織も、こんな自分でも役に立つことが出来るんだと、拳を握って気合を入れた。

「でも、今の詩織ちゃんの様子を見るに、そこまでの期待は持てないかな」

「え、何でですか?」

 気合を入れたところでそんなことを言われてしまい、詩織は出鼻をくじかれた気分。
 問いかけると、湊は表情を変えずに答えた。

「鬼の血の力がそこまで強く感じないからだよ」

「わかるんですか?」

 司が問いかける。

「わかるもなにも。詩織ちゃん、なにか、力を抑える物とかって身に着けているかい?」

「い、いえ…………」

「それが、今回俺が期待できないと言った理由かな」

 それだけだとさすがにわからず、凛と詩織は同時に首をかしげた。
 だが、一人、司はなんとなくわかったらしく「なるほど」と納得したような声を出した。

「詩織は力の制御が出来ないわけじゃない。修行もしていない体でも、あやかしを引き寄せるという体質だけで済んでいる。巫女が封印した鬼の力が弱まっているということだね」

 そういうことかと、凛は手を打った。
 詩織は、やっと自分が役に立てると思っていたのに、今の話で自信喪失じしんそうしつ
 顔を俯かせ、空気が落ち込んでしまった。

「え、何で落ち込んでるの?」

 詩織の変化にいち早く気づいた司が聞くが、詩織は「先輩…………」と、今にも死にそうな顔を浮かべた。

「え、本当にどうしたの?」

「私の存在意義…………」

「しっかりあるよ!? 何言ってるの!? 今回、お手伝いをお願いしたのはこっちななんだから、むずかしく考えないでよ」

 詩織の頭をなでた。

「それで、具体的にはどうするつもりなんですか?」

「鬼の血を適量、飲ませるんだよ」

「えっ、飲ませる?」

 鬼の血を飲ませると聞いて、司は目を丸くしてしまった。
 飲ませるということは、詩織から戦闘中に血をもらって、大天狗の口に持って行かなければならないということ。

「結構、きびしいかもね…………」

「そうだねぇ~」

 まだ、匂いを嗅がせるとかだったら簡単だったが、飲ませるとなると、大天狗の口元まで近付かなければならない。
 飲ませる役の人と共に――――という想像をしてしまい、体がふるえる。

「大天狗って、どんな攻撃を仕掛けてくるんだっけ」

 凛の質問に、湊が答えようとした時、勝手にふすまが開く。
 全員の視線が向くと、そこには司の兄である翔がニヤニヤしながら立っていた。

「なにニヤニヤしているの、気持ち悪いよ」

「我が弟が冷たい……」

 わざとらしく落ち込む翔を無視する司。
 喜美が、皆が思っているであろう疑問を代表として質問した。

「それで、翔。何しに来たのかしら」

「その言い方はちょっと傷つくけど」

「こんかいは用事があるから参加しないと言ったのはあなたでしょう」

「…………まぁ、いいや。大天狗について、俺も少し調べてみたんだよねぇ~。ちょうど来た時に大天狗の話しをしていたっぽいから仲間に混ざろうと思ってさ!」

 何故か司の後ろに座り、ニヤニヤしている。

「気持ち悪い」

「何で俺も氷鬼家の住人なのに、こんなにも扱いが雑なのだろうか」

「日ごろの行い」

「はいはい」

 ゴホンと咳払いをして、翔は本題に入った。

「大天狗というのは、見た目は大きなカラスなんだ。普段は人の形をしているらしいがな。んで、神通力じんつうりきを持っており、風を自由にあやつることが出来る。あと、カラス天狗が持っている影を操る力も自由自在。これは、本当かどうか怪しい所があるが、人間が自ら大天狗の傍に行ったという話もあるらしい」

 翔が一枚の紙を見ながらつらつらと説明する。
 今の話だけで大天狗が強いことがわかり、詩織は体をふるわせた。

「よく調べているね」

「俺ですので」

 湊が感心したように言うと、ひらひらと手に持っていた紙を揺らし、翔が胸を張る。
 司は翔の持っていた紙をうばい取り、中を見た。

「あっ」

「…………何を見て今の説明していたの」

 紙をみんなに見せる。
 そこには、何も書いておらず、白紙。

(え、何も書いてない?)

「…………全て暗記していたのかい。なぜ、資料があるように見せたんだい?」

「紙を持っていた方が『翔、君はよく調べたんだね。すごいじゃないか!』って、思われそうじゃない?」

 誰のもの真似かはわからないけれど、とりあえずほめられたいのだけはこの場にいる全員が理解した。
 高校生にもなって何を考えているんだと司は思いつつも、ため息を吐き「ありがとう」と、呆れながら言った。

 司からの感謝に面食らい、一瞬ほうけた顔を浮かべたが、すぐに「おう!」とうれしそうに翔は笑う。

「それにしても、今の話がすべて本当だった場合、厄介じゃない?」

「厄介という言葉では収まらないくらいに、危険かもね。この場にいる四人が全員全力を出しても勝てるかどうか…………」

 翔の話を聞いて、凛と湊は考え込んでしまった。
 司もガシガシと頭をき、困ったように眉を下げる。

 そんな時、余裕そうな顔を浮かべている翔は、司のとなりにいる詩織を見た。
 不安そうに司達を見ている詩織の肩をつかみ、引き寄せた。

「まぁ、ゲームでも同じだが、危険な奴は状態異常にしちゃえば少しは優位ゆういになるだろう。そのための詩織ちゃんでしょ?」

「へっ?」

 何故引き寄せられたのかわからず、詩織はポカンと見上げる。
 司も唖然あぜんとしていたが、すぐに翔の耳を引っ張り詩織から引きはがした。

「何してるの、兄さん」

「いたいいたいいたい!!! ごめんごめんごめん!!」

 耳を引っ張られてしまい、翔は涙目ではなすようにうったえる。
 それでも、司の怒りは収まらず、頬をふくらませ引っ張り続ける。

 そんな兄弟げんかをよそに、湊は「あー、でも」と、何か思いついたかのような声を出した。
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