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大天狗

氷鬼先輩と自己紹介

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 それから一週間は、同じ日々をくり返していた。

 教室での事件で、詩織は最初教室に入りにくかったが、司が事前に何かしていたのか、恵は詩織を見た瞬間、いきなりあやまってきた。
 すぐに話をして、今では友達にまでなっていた。

 不思議に思いつつも、昼休みは恵と一緒に教室でお弁当を食べていた。
 司には連絡済み、今は恋バナを聞いている状態だった。

「私、あの氷のように冷たい目をしている氷鬼先輩に一目ぼれしたのよねぇ~」

「それを聞いたときは本当におどろいたよ。まさか、氷鬼先輩が教室に来た時、怖がっていたんじゃなくて、感動で動揺どうようしすぎていただけだったなんて」

 恵は、司が好きすぎるあまり、氷のように冷たい視線を向けられた時、興奮して後ろに下がり座り込んでしまったらしい。
 それを後日聞かされ、詩織は思わずおどろいてしまった。

 その後も司がどんな人なのか、どれだけすてきな人なのかを一人で話していた時、詩織のポケットの中に入っていたスマホがふるえた。

 ブーブー

 スマホを取り出し、見てもいいか恵を見た。
 話に集中していたと思っていたが、すぐに気づいてくれて見てもいいよというように恵はほほ笑んだ。

 頭を下げつつ、スマホの画面を見ると、司から連絡が入っていた。
 中を見てみると、淡泊たんぱくな内容にため息を吐く。

【今日は俺の家に行くよ】

 これだけでもわかるが、最初の挨拶とかないのかと、詩織はスマホの電源を落とした。

「どうしたの?」

「いや、氷鬼先輩から連絡が入ったんだけど、一言だけで…………」

「氷鬼先輩からの連絡!? な、なんて書いてあったの!?」

 頬を染め、身を乗り出し恵。
 押しつくように言うが、引いてくれない。

 あやかしについては話していないため、どうやって引かせようかと思っていると、なぜか、急に静かになる。

「そう言えば、連絡先も交換しているのね。さすがに距離、近くない? 本当に付き合ってないの?」

「つ、つつつ、付き合っているわけないでしょ!?」

 あわてて否定する詩織だが、顔は真っ赤で声はふるえている。
 彼女の様子を見て、恵はニヤニヤと笑った。

「ふーん」

「な、なに?」

「いやぁ、可愛いなぁって思ってさ」

 恵の言葉の意味が分からず、詩織は赤い顔を冷ましつつ首をコテンと倒した。
 質問しようとしたが、それより先にお昼休み終了のチャイムが鳴った。

 話に夢中になっていた二人は、残りのお弁当を急いで食べて、午後の授業を受けた。

 ※

 放課後、恵は他の友達と共に帰り、詩織は司と待ち合わせをして、共に司の家に向かっていた。

 二人、横並びで住宅街を歩く。
 沈黙ちんもくが続くが、不思議と不快ふかいではない。気まずくもなく、逆に心地よい。

 青空を見上げ歩いていると、司が横目で詩織を見て口を開いた。

「昨日から炎舞家が来ているんだ。詩織の血についても話しているから、話しはスムーズに進むと思うよ」

「あっ、そうなんですね。ありがとうございます」

「話しの流れで話しただけだから、礼を言われるようなことじゃないよ」

 司の淡々とした口調に、詩織は「あはは……」と、苦笑い。

「それで、今日話し合うことは、どうやって大天狗を倒すかだと思うんだ。まぁ、詩織の自己紹介から入るとは思うけど、そこは簡単にで」

「わかりました」

 司の屋敷が見えてきて、詩織は緊張して来た。
 そんな詩織の様子に気付かず、ズカズカと中に入る。

「ま、待ってくださいよ!!」

「早く来い」

 詩織も司の後ろをついて行き、屋敷の中に入る。
 ろうかを歩き、大部屋に辿り着いた。

「ここに、いるんですか? 炎舞家の皆さまが……」

「皆さまというか、二人だけなんだけどね。母さんはいるけど。そんな緊張しなくいていいよ、一人は女性だし」

「え、女性? 女性も退治屋にいるんですか?」

「当たり前。氷鬼家がたまたま男二人だっただけだよ。普通に女性も存在する」

 言いながらふすまに手を触れ、中に声をかけた。

「司です。開けてもよろしいでしょうか」

 言うと、中から喜美の声が聞こえ、ふすまを開けた。
 司の後ろから中をのぞき込むと、三人が座布団の上に座っていた。

「早く座りなさい」

 喜美が司達をうながし、となりに置いてある座布団をポンポンと叩く。

 当たり前のように司は歩き、詩織も後に続く。
 喜美以外の二人は、以前も氷鬼家に来ていた炎舞家の二人。
 炎舞凛えんぶりん炎舞湊えんぶみなと

 二人は、緊張している詩織を目で追う。
 座布団に座り、緊張で顔を上げられない詩織を気にしつつ、司は挨拶をした。

「遅くなってしまいすいません」

「大丈夫だよ。君のお母様とお話していたら、時間はあっという間だったからね」

「それなら良かったです」

 そこで挨拶は終わり。次は詩織の番。
 凛と湊は、司の隣に座る詩織を見た。

 詩織も、自己紹介しなければと、あわてて顔を上げた。
 だが、緊張でのどが絞まり、上手く話せない。

 今まで、人と話してこなかったツケが今になって回ってきた。

(は、早く。名前を名乗るだけでいいんだ。そんな、誰でも出来ること、早く終わらせるんだ。早く、早く……)

 気があせるばかりで、上手く話せない。
 凛は首をかしげ、湊は柔和にゅうわな笑みを浮かべ待つ。

(早く、早く……)

 これ以上、迷惑をかけられない。
 膝の上に置かれているこぶしを強く握る。

 その時――……

「詩織。凛さんは、君と同い年だ。そして、湊さんは僕の兄さんと同じ。確か、二個上でしたっけ」

「そうだね。今、司君は中学三年生だったかな。俺は高校二年生だから、翔君と同じだね」

「ですよね」

(退治屋って、ほとんどが学生さんなの? それか、この人達がたまたま?)

 二人の会話を聞いていると、司が詩織のこぶしに手を置き、顔をのぞき込んだ。

「この人達、熟練度じゅくれんどが違うから、まとっている空気が固くて緊張するよね。でも、大丈夫。僕達と変わらないんだよ」

 ニコッとほほ笑む司を見ると、緊張の糸が解け、肩に入っていた力が自然と抜ける。
 絞まっていた喉が開き、さっきまでが嘘だったかのように、すらすらと自己紹介が出来るようになった。

「えっと。私は、神崎詩織です。鬼の血が流れている一般人です!!」

「ふふっ。はい、始めまして。俺は、炎舞家長男の炎舞湊と言います」

「私は長女の炎舞凛よ!! 同い年だったんだね!! やった!! 女性で同い年って今までいなかったからうれしいよ! これからよろしくね、詩織ちゃん!!」

 ギュッといきおいのままに詩織に抱き着く凛。
 巻き込まれないように司は、さりげなく横によけた。

「わっ!!!」

 いきなり抱き着かれてしまったため、詩織の身体は簡単に押し倒されてしまった。
 たたみに背中をぶつけてしまった。だが、痛くはない。
 不思議に思っていると、しっかりと凛が詩織に痛みを感じないように支えてあげていた。

「ごめんね! 痛くなかった?」

「大丈夫、です……」

(倒れちゃったけど、まったく痛くなかったなぁ)

 不思議に思いつつ体を起こし、背中を見る。
 特に、何か変わったことはない。

「退治屋は全員、まず体術から習わされるんだ。今みたいなことは簡単に出来るよ」

「えっと、つまり。私のことをしっかりと支えてくれたということでしょうか」

「そういうこと」

(ここまで完璧に支えてくれるんだ。しかも、同じ年の女性が)

 目の前にいる凛を見て、詩織は尊敬そんけいのまなざしを送る。
 よくわかっていない凛は、詩織が可愛く感じ、頭をなでた。
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