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失った時間
氷鬼先輩と新しい退治屋!
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残された二人は、一度顔を見合わせるが、すぐ気まずくなり逸らす。
甘い空気が流れていると、詩織の目に司が読んでいた手紙が入った。
「あ、の。氷鬼先輩」
「な、なんだ?」
「その手紙には、何が書いていたんですか?」
聞くと、司は「あぁ」と、手紙を拾い上げ、視線を落とす。
「これには、さっき兄さんが言っていた通り、他の退治屋からのあやかし退治応援要請が入っていたよ」
「どんな感じの内容なのか聞いてもいいでしょうか?」
「いいよ。君はもう、僕達と同じ世界の住人だしね。いやだろうけど」
申し訳ないというように眉を下げ言う司に、詩織はさっきの言葉に後悔した。
(気を遣わせてしまった。私が、普通になりたいとか言ってしまったから……)
でも、こんなことを言ってしまうと、またしても困らせてしまう。
なんて言えばいいのか悩んでいると、司が話を本題に戻してしまった。
「それでね。送り主なんだけど、よくお世話になっている退治屋なんだよね」
「氷鬼家以外にも退治屋って存在するんですね」
「当たり前だよ、それぞれ担当地区も違うし、得意な技、属性も違う。実力も様々だから、時々今回みたいに応援を送ることがあるんだ。あやかし退治は命を懸けて行うから、少しでも油断すると危険なんだよね」
”命を懸けて行う”。
その言葉に詩織の心臓がキュッと絞められる。
(そっか。氷鬼先輩は、今まで自分の命を懸けて私のことを守ってくれていたんだ。カラス天狗との戦闘も、危険だった。あれが当たり前なのだとしたら、応援要請を出して、少しでも仲間を増やして退治を行った方がいいのか)
なんとなく納得できる部分があるが、それと同時に疑問が浮かび、詩織は問いかけた。
「あの、それなら応援要請を沢山出せば、沢山の仲間と共にあやかし退治が出来て、危険は少なくなるんじゃないんですか?」
「それが出来たらいいけど、簡単じゃないんだよね。応援要請が出せるのは、一定の危険度を超えた相手の時だけなんだ。あやかしは年々増えているし、退治屋はてんてこまいなんだよ」
ふぅと息を吐き、司は一拍置く。
「一定の危険度を超えなければ……。なら、今回は今まで以上のあやかしが現れているってことですか?」
「そうだね。今日戦ったカラス天狗の親玉、大天狗が炎舞家の担当する地域に現れてしまったらしいんだ」
(え、炎舞家? それに、大天狗って……)
聞きたいことが多く、詩織は何から質問しようか悩む。
フッと、司は笑みを浮かべ、詩織の頭をなでた。
「ごめんね、一気に話し過ぎた」
「い、いえ……」
距離が近くなり、詩織はまたしても赤面してしまう
「あわてなくても大丈夫だよ。いやでもわかることになるから」
水色の目を細めた。
きょとんと目を丸くしていると、詩織の頭から司は手を戻した。
「今日はここら辺にしようか。話がまとまってからの方がこっちも話しやすいし」
言いながら司は立ち上がり、襖へと足を運ぶ。
すぐ動けずに目で追っていた詩織は、司が襖を開けたことでやっと動けるようになり、立ち上がった。
「えっ、あの……」
「また明日、迎えに行くよ。あやかしに追いかけられたくなかったら、僕の言う通りに行動して」
襖まで歩いてきた詩織の手をやさしく握り、するどい口調で言う司。
詩織は「放課後、一人で帰ってしまった時のことか」と思い出しつつ、うなずいた。
屋敷の玄関まで向かい、二人は靴をはいて外に出る。
夕暮れが氷鬼家を赤く照らしていた。
雲ひとつない澄んだ空と空気に、詩織は胸を広げ深呼吸を繰り返した。
「キレイですね、夕焼け」
「そうだな。でも、あまり魅入っているんわけにもいかないよ」
「えっ、なんでですか?」
「逢魔時が近い。あやかしが人をおそう絶好の時間なんだ」
司からの言葉に体をふるわせ、詩織は小さな悲鳴をあげる。
怖がってしまった詩織を抱き寄せ、顔を覗き込んだ。
「何が来ても守るから、大丈夫だよ」
目を細め、強気に言い切る司に、詩織は心臓が高鳴り顔が真っ赤になる。
「き、距離が近いです!!!」
「あらら……。残念」
鍛えられている胸板を押され、司は素直にはなれる。
頭の後ろで両手を組み、歩き出した。
「ほら、帰ろう」
「は、はい!」
赤くなった顔を覚ますように仰ぎ、詩織は司の隣に移動。共に歩き出した。
甘い空気が流れていると、詩織の目に司が読んでいた手紙が入った。
「あ、の。氷鬼先輩」
「な、なんだ?」
「その手紙には、何が書いていたんですか?」
聞くと、司は「あぁ」と、手紙を拾い上げ、視線を落とす。
「これには、さっき兄さんが言っていた通り、他の退治屋からのあやかし退治応援要請が入っていたよ」
「どんな感じの内容なのか聞いてもいいでしょうか?」
「いいよ。君はもう、僕達と同じ世界の住人だしね。いやだろうけど」
申し訳ないというように眉を下げ言う司に、詩織はさっきの言葉に後悔した。
(気を遣わせてしまった。私が、普通になりたいとか言ってしまったから……)
でも、こんなことを言ってしまうと、またしても困らせてしまう。
なんて言えばいいのか悩んでいると、司が話を本題に戻してしまった。
「それでね。送り主なんだけど、よくお世話になっている退治屋なんだよね」
「氷鬼家以外にも退治屋って存在するんですね」
「当たり前だよ、それぞれ担当地区も違うし、得意な技、属性も違う。実力も様々だから、時々今回みたいに応援を送ることがあるんだ。あやかし退治は命を懸けて行うから、少しでも油断すると危険なんだよね」
”命を懸けて行う”。
その言葉に詩織の心臓がキュッと絞められる。
(そっか。氷鬼先輩は、今まで自分の命を懸けて私のことを守ってくれていたんだ。カラス天狗との戦闘も、危険だった。あれが当たり前なのだとしたら、応援要請を出して、少しでも仲間を増やして退治を行った方がいいのか)
なんとなく納得できる部分があるが、それと同時に疑問が浮かび、詩織は問いかけた。
「あの、それなら応援要請を沢山出せば、沢山の仲間と共にあやかし退治が出来て、危険は少なくなるんじゃないんですか?」
「それが出来たらいいけど、簡単じゃないんだよね。応援要請が出せるのは、一定の危険度を超えた相手の時だけなんだ。あやかしは年々増えているし、退治屋はてんてこまいなんだよ」
ふぅと息を吐き、司は一拍置く。
「一定の危険度を超えなければ……。なら、今回は今まで以上のあやかしが現れているってことですか?」
「そうだね。今日戦ったカラス天狗の親玉、大天狗が炎舞家の担当する地域に現れてしまったらしいんだ」
(え、炎舞家? それに、大天狗って……)
聞きたいことが多く、詩織は何から質問しようか悩む。
フッと、司は笑みを浮かべ、詩織の頭をなでた。
「ごめんね、一気に話し過ぎた」
「い、いえ……」
距離が近くなり、詩織はまたしても赤面してしまう
「あわてなくても大丈夫だよ。いやでもわかることになるから」
水色の目を細めた。
きょとんと目を丸くしていると、詩織の頭から司は手を戻した。
「今日はここら辺にしようか。話がまとまってからの方がこっちも話しやすいし」
言いながら司は立ち上がり、襖へと足を運ぶ。
すぐ動けずに目で追っていた詩織は、司が襖を開けたことでやっと動けるようになり、立ち上がった。
「えっ、あの……」
「また明日、迎えに行くよ。あやかしに追いかけられたくなかったら、僕の言う通りに行動して」
襖まで歩いてきた詩織の手をやさしく握り、するどい口調で言う司。
詩織は「放課後、一人で帰ってしまった時のことか」と思い出しつつ、うなずいた。
屋敷の玄関まで向かい、二人は靴をはいて外に出る。
夕暮れが氷鬼家を赤く照らしていた。
雲ひとつない澄んだ空と空気に、詩織は胸を広げ深呼吸を繰り返した。
「キレイですね、夕焼け」
「そうだな。でも、あまり魅入っているんわけにもいかないよ」
「えっ、なんでですか?」
「逢魔時が近い。あやかしが人をおそう絶好の時間なんだ」
司からの言葉に体をふるわせ、詩織は小さな悲鳴をあげる。
怖がってしまった詩織を抱き寄せ、顔を覗き込んだ。
「何が来ても守るから、大丈夫だよ」
目を細め、強気に言い切る司に、詩織は心臓が高鳴り顔が真っ赤になる。
「き、距離が近いです!!!」
「あらら……。残念」
鍛えられている胸板を押され、司は素直にはなれる。
頭の後ろで両手を組み、歩き出した。
「ほら、帰ろう」
「は、はい!」
赤くなった顔を覚ますように仰ぎ、詩織は司の隣に移動。共に歩き出した。
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